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巨大魔物討滅作戦  作者: 広畝 K
80/140

80話

 ともあれ、この時点で『手負い』に襲撃された第二部隊の誰か一人でも生存しているだろう根拠を、その時の誰もが呈することはできなかった。


 第二部隊との通信は完全に途絶していて、戦闘の跡地は爆発したかのように消し飛んでいる。

 さらに、その惨状を為した魔物が未だ森の中に潜んでいるという事実に付随してくる恐怖感情、密なる討伐作戦の構成を考えなければならない使命感が、彼らの脳と心と思考の領域を徐々に圧迫していくのだ。

 緊急事態の最前線にいた中級冒険者たちでは、否、混乱の渦中に置いていかれた彼らでなくとも、まともに捜索できる状態ではなかったに違いない。

 早急に村へと戻って、今後の対応策を練らなければ、という焦燥に焼かれていただろうことは想像に難くないのである。


 しかしソルトは、荒れ狂う事態の中でただ一人だけ、シュガーの居場所を知ることができる状況にあった。

 その事実を冒険者たちに明かすことによって、作戦立案の速やかな遂行を促すことはできたはずだが、彼は冒険者に対する信頼を失っていた状態であったために彼らを頼ることなく、自分一人で森へと踏み入ることを決断したのであろう。


 もちろん、彼はこの種の独断専行が軽率な行動であるということを十分に理解したうえで決行している。

 たとえ命が失われることになろうとも、両親を泣かせることになろうとも、後悔だけはしたくないという、自己満足の極みであることを完全に自覚していた。

 救いようがないと自嘲もしたが、しかし自身の無謀を止める気にならなかったのは、心のどこかが麻痺してしまっていたためなのかもしれない。


「信号は……まだ先か……」


 彼の右手には、カード型の魔道具が握られている。

 その表面には幾何学的な紋様の魔法陣が刻まれており、その上には拳大の球体が浮かび上がっていた。

 透明な球の内部には大きさの異なる二十もの球体が存在していて、球の重心を中心として互いに重ならぬよう配置されている。


 それは現在地を中心に置く、三次元的なマッピングアイテムであった。

 どのような場所にも拘泥されない地図と表現すれば、その応用の広さを窺い知ることが出来るであろう。


 しかしその魔道具は今のところ、マッピングを主目的としてはおらず、発された信号を受け取る受信機としての役割を主としていた。


 その魔道具が受信している信号は、シュガーに渡したお守りからのものである。

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