78話
(冒険者は、頼りにならない)
彼は遂に待ちかねて、自分で行動せねばならない、と判断するに至った。
この判断は、後に上級冒険者のリーダーであるペッパーと会話した際において、誤ったものであったと自省の念に駆られることになる。
だが、未来を知る術も持たぬ彼にとっては、現状を知るための情報も持てなかったソルトにとっては、その判断こそが唯一の正解であると信じるより他になかった。
そしてその思いこそが、魔物の潜む未開の森に一人で入るという無謀を、決断するに至らしめたのである。
冒険者たちの呼称している『手負い』の咆哮も地揺れも、ソルトはその身に感じていた。
しかし、それがどうしたという程度の感想しか持たなかったことは、彼にとって不幸であったろう。
もし『手負い』の影響が彼に恐慌や怯懦の感情を想起させていたならば、ソルトはシュガーを助けに行こうとは思わずに、冒険者が助けに向かってくれるのを待ち続けていたに違いない。
冒険者たちが早く魔物を退治できるように、不安や恐怖の感情から逃避するように、魔道具の製作と改良に全力を注いでいたに違いないのだ。
しかし、今となってはそんな『もしも』は、無意味の仮定と成り果てている。
ソルトは一人の人間として、それ以上に弟分として、姉貴分たるシュガーを助けるために、森の闇を踏みしめているためだ。
森の奥へと、シュガーの元へと、後先を考えず進み続けているからである。




