75話
「……交戦はしたのか?」
「していない。してはいないが、奴が手負いだったのは間違いない。
むせるほどに濃い血の臭いがしていたし、逃げていった後にも大量の血痕が残されていたからな」
その後も幾つかの問い掛けが村人や他の冒険者から相次いだが、実となるものは少なかった。
質問が途切れた頃を契機として、ペッパーはその手を一度だけ軽快に打ち鳴らす。
「この辺りで、報告をまとめておきましょう」
当初の目標であるブラックグリズリーの討伐については、第二部隊がその役割を果たした。
これは良い。
問題なのはその後の、第三部隊が遭遇したというブラックグリズリーに酷似した魔物である。
「遭遇してすぐに逃走したことから、人間に対して恐怖心、或いは敵対心を持っていると考えられます。
下手に追いつめれば、逃げずに向かってくることも十分にありえますね。
放置しておくのが一番楽なんですが――」
「しかし、そういうわけにもいかんだろうな」
バランの言葉に、ペッパーは頷いた。
そう、この魔物を討伐しない限り、平穏は訪れないのである。
事はもはや村だけの問題ではなくなっており、周囲の町にも危険が及びかねない状況となっているのだ。
できるだけ早く魔物を見つけ出し、討伐しなければならないと、ペッパーは僅かな焦りを内心に滲ませる。
「昼過ぎの地揺れと咆哮は、その魔物の仕業でしょうからね。
決して野放しにはできません」
彼の推測に否を唱える者はいない。
その場の誰もが山の震えと共に響き渡った魔物の絶叫を、その心身に深く刻みつけていたからである。
「それで、討伐隊はどう編成するんだ?」




