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巨大魔物討滅作戦  作者: 広畝 K
70/140

70話

「……終わったわね」


「そうですね……」


 残心を終え、どちらともなく息を吐く。

 長く、深く、呼吸を繰り返す。


 心身に圧し掛かっていた緊張をゆっくりと解していくように、安堵の実感を得るように。

 生きている現実を確かに勝ち取ったのだと認識するかのように。


「こんな疲れる戦い、久しぶりだったぞ……」


「しんどい……眠い……」


 ロンとメロも盛大に息を吐き出し、互いに背を預け合って、そのままずるずると座り込んだ。


 普段であれば叱責されるような気の抜け方であるが、キーリもロアも疲れきっており、双子の休息を咎めたりはせず、諦めたような苦笑で済ませた。


「シュガーさんは、大丈夫?」


「……はい、なんとか」


 後衛からの援護に徹していたシュガーであるが、彼女もまた酷く疲労していた。

 そもそも、魔物との戦闘というものが今回初めてであり、さらには連携までこなさなければならなかったという事情であるから、より一層に神経を削ったことだろう。


 連携を崩さぬよう、そして味方の邪魔をせぬよう、援護を行うのは相当に難しかったに違いない。

 けれども彼女は最初の戦闘で、しかも歴戦たる中級冒険者と一緒の戦いにおいて、その難行を成したのである。

 誰もができることではなく、非凡の才と言って良い。


「……ともかく、これで討伐作戦は終了ね。連絡を入れて、それから帰還するわよ」


 キーリが腰に差し込んでいた通信機は外見こそ汚れてはいるものの、通信自体にはなんらの悪影響も及ぼさなかった。


「こちら二部。応答されたし」


『こちら一部。通信精度は良好なり』


「二部了解。こちら、当該目標の達成に成功した」


『一部了解。ただちに帰還を――』


「キーリッ!」


 悲鳴の如きロアの警告を聞きながら、しかしキーリはそれ以上に、背後から突き立ってくる冷たい気配に焦燥を感じていた。

 それは、先ほどまで正面に対峙していた濃厚な死の色だと、彼女は理解したのである。


「ッ……!」


 咄嗟に前へと転がり込んだが、一瞬にも満たぬ足への溜めが、彼女に傷をもたらした。

 否、足に力を溜めて転がらなければ、彼女は傷を負うどころでは済まなかっただろう。

 背中を熱く燃やすような傷の刺激が、そこから溢れてくる血の量が、死ではなく生を掴んだのだとキーリを強く説得していた。


 転がり起きると同時に戦闘体勢を立て直し、そして振り返ったその先に、彼女は暗闇の如き巨影を見た。


「嘘でしょ……!」


 キーリの視界に入った黒い巨体は、つい先ほど倒したばかりのブラックグリズリーであった。

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