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巨大魔物討滅作戦  作者: 広畝 K
66/140

66話

 五メートルにも及ぶ巨体の、生物としての生存本能がその絶叫を上げさせた。

 光の下で行われているその戦いは、英雄の伝記によって語られるような、誰もが憧れる戦いではない。

 血を流し、涙を枯らし、息を乱して苦悶に呻き、それでもなお生の温かみにしがみつかんとする、死の冷たさから逃れんとする、数多の生物たちが行ってきた生存競争の再現図である。


 キーリの放った有効打をさらに繋げようとしたものの、しかしロアはかろうじて追撃を踏み留まり、だけではなく、その場から一歩後退した。

 直感に従って後退していなければ、彼女は地面の土ごと裂き殺されていただろう。

 濃厚な死を纏った紫爪の空刃が、彼女の立っていた足場をごっそりと抉り取っていた。


「くっ……なかなか厄介ですね……」


「焦らないで、ロア。私たちは確実に、こいつを追い詰めている」


「そう、ですね……!」


 燦然と照り輝く光球の下にて、キーリは強気な笑みを浮かべてみせた。

 ロアもまた、彼女の笑みに乗っかるように、気丈な笑みを浮かべてみせる。

 二人は互いに、これからが正念場であるということをその戦いの経験から、感覚的に理解していた。


 なるほど、確かに目の前の魔物は大きく傷ついている。

 作戦が通じ、攻撃が通じて、少なくない血を流させている。

 しかしそれらの事柄は「だからどうした」という一言で、一蹴される程度のものでしかないのだ。


 魔物はまだ意気軒昂としており、むしろ戦闘開始前よりも戦意が旺盛になっているほどだ。

 血液が体外に流れ出ることにより、頭に上っていた血もやや収まってきている頃だろう。


 これからは、単純な戦術や生半可な小細工は通用しない。

 その確信が二人には、いや、後衛に位置する二人の冒険者にもある。


 今やブラックグリズリーの金眼に宿っているものは、当初に見られた憤激や怯懦などという負の感情ではなく、怜悧な知性と平静な沈着であった。

 どちらを狙い、どう攻撃し、どうやって生き延びるか、生存するために必要な思考を持った、理性の光であったのだ。

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