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巨大魔物討滅作戦  作者: 広畝 K
63/140

63話

「怯むな、いくぞ!」


 キーリは皆に怜悧な言葉を耳から通して冷静を湧き立たせ、面々の目に勇気の輝きが灯った感覚を背中に受けつつ、一人で一歩、前へと踏み出す。


 彼女の一歩を見た魔物は、微かに怯みの色を見せた。

 がしかし、後ろ足の痛みと痺れが逃亡の二文字を消し去ったのだろう。

 怯えの色はすぐさま反転し、激情と殺意の空気を纏う。


 色濃く漂う殺意の中で、キーリと魔物は互いの目に映る敵を注視し、噴き出してくる恐怖を抑え、相手の間合いに踏み込んだ。


 そして一手先んじたのは、ブラックグリズリーの方である。


「――――!!」


 言語に絶する雄叫びを喉奥から発しながら、その千年の大樹にも劣らぬ太い右腕をキーリへと叩き落とす。

 全長にしておよそ五メートル、四足による歩行であることを鑑みても、その高さは三メートルを下らない。


 頭上から真っ直ぐに振り下ろされる豪腕は、黒い奔流となってキーリを潰さんとする勢いで襲い掛かる。

 瞬きすら許されぬ刹那の間に、しかし彼女は笑みを浮かべた。


「見え見えだね」


 キーリは言葉にしなかったが――そもそも音として発せられるほどの時間はなかったが――彼女の意図は確かに、対峙しているブラックグリズリーへと、目に見える形で伝わっていた。


 彼女を縦から叩き殺さんとした豪撃は、その機を見極め、振るわれた盾によって見事に軌道を逸らされ、むなしく空を切ったのである。

 空を切ったことによって生じた隙は、時間にすれば極々僅かなものにすぎなかったが、こと数瞬にて攻防が幾度も入れ替わる戦闘においては、あまりに大きな空白であった。


 空を切った右腕をそのまま払おうとするブラックグリズリーの挙動よりもさらに早く、その右脇の根元に槍が突き立てられた。

 先の如く、白光を纏った魔槍である。

 ゆえに当然、それを敢行したのは、キーリの相棒たるロアであった。


 彼女は標的から目を逸らさぬまま、口元を笑みの形へと変えてみせる。

 それはキーリに対する無言の応答であり、現状が順調に推移していることを表していた。

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