50話
その言葉が心からのものであろうことは、疑い得ないものであるとバニラは思う。
それほどにギルドの面接官というものは第一印象主義とも呼ぶべき外見偏重の思考に陥っており、その者の持っている人脈や知識、技術などを見ることなく、自身との数分間の受け答えによる面接と、自己分析シートのみで判断してしまう傾向が強いのである。
確かに、第一印象というものは大事であると彼女も思う。
外見の良さも、仕事の効率に影響するには違いない。
なぜなら、人間社会における仕事と呼ばれる労働は一人でできるものなど無きに等しく、どこかで必ず他人との交流が生じるためだ。
トリントル高等魔法学校の学生であると知りながら、面接官の誰もが彼に対して失格の烙印を押したという事実を鑑みるに、彼は致命的なまでに他人との協調性が取りにくい人間であると判断されたのだろう。
彼女が初対面にも関わらず何気ない調子で彼と会話できているのは、波長の合う優秀な同類として、或いは同じ学校の先輩後輩として、互いに認められるだけの性質を相手に見出しているからに過ぎないのかもしれない。
(しかし、この優れた才能を田舎に埋もれたままにしておくのは、惜しいな……)
目の前で討伐作戦に使用する魔道具を鼻歌交じりに分解し、改良し、組み立ててゆく鮮やかな手腕を見て、彼女はそう思わずにいられない。
できることなら、すぐにでも自分たちのパーティに引き入れたいと思うほどに、パーティの活動を支える魔道具等の管理を担ってもらいたいと頼みたくなるほどに、バニラは彼の魔道具における知識と技術を、無意識のうちに買っていた。
けれども、ここでいきなり勧誘を行うというのは唐突に過ぎるとも彼女は思う。
魔物の討伐作戦の前夜であるし、さらにはその作戦行動のための魔道具を作成している最中に――許可を得たとはいえ――邪魔をしているという立場なのである。
さらにその上、この場でパーティに勧誘するような無粋な真似を行うことは、彼女の矜持が許さなかった。
(いずれまた、誘う機会があろう)
バニラは集中して作業しているソルトを見て少しばかり躊躇ったが、これ以上邪魔をするのも忍びないと考えた。
「では、またな」
彼に小さく声を掛け、返事が無いことを確認した後、彼女は工房から立ち去った。




