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巨大魔物討滅作戦  作者: 広畝 K
49/140

49話

 凶悪極まりない笑みを浮かべながら、バニラもまたソルトに自身の持つ学生証を差し出した。

 それはやや色合いが異なるものの、紛れもなくトリントル高等魔法学校の学生証であり、魔力印もしっかりと刻まれているものであった。


 相手が上級冒険者であるということよりも、同じ学校に通っていた先輩であるという事実の方がソルトにとって大きかったのだろう。

 彼はその顔に微かな朱色を巡らせ、バニラに対して尊敬の視線を向けた。


「実際に社会で活躍されている先輩にお会いできるとは……!」


「止せ止せ、そんな目で見られるほど我は立派なもんじゃないわ」


 手をひらひらと鷹揚に振りながら、頬を赤らめもせずにバニラは言った。

 それは本心からの言葉であって、彼女は他人から敬意を向けられるほど、立派に仕事をしてきたとは少しも思っていない。


 彼女から言わせれば、この世で労働をしている者は人間関係が上手くいっているからこそ、仕事ができているに過ぎないのだ。

 人間同士の交流が上手くいかないときには、どれだけ能力が優秀であっても他人と自身の感情が足かせとなり、全体的な仕事の能率に響いてしまうものであると知っているのである。


 思い出したくもないことを思い出しかけて、バニラは脳裏に浮かんだ微かな記憶の靄を掻き消し、自身の不審を誤魔化すように、こほんと小さく咳払いをした。


「ところでお主、トリントルを卒業したなら引く手数多であったろう?

 なにゆえこのような田舎で店を開いておるのじゃ?」


「そりゃあ、ギルドの面接に全て落ちたからだよ」


 あまりにも気楽なソルトの言葉を聞き、バニラは「なるほどのう」と納得の相槌を打った。

 彼女とて、上級冒険者として今の名声を得るまでに少なからぬ苦労を背負ってきているのだ。

 気持ちが分かるというほどでもないが、少年が社会に存在する数多のギルドに対して失望したことは想像に難くない。


「我もギルドの面接では辛酸を舐めさせられたからのう。

 田舎で店を開くという気分も分からんでもないな」


「バニラ先輩ほどの人でも、就職には苦労したんだね……」


「そうじゃよ。しかし、お主ほどの才幹を取らぬとなると、ギルドの人事担当の連中は相も変わらず頭の固い連中ばかりのようじゃのう……」


「まあ、今はこうしてのんびり……じゃないか。

 今は限定的に忙しいけど、普段はもうちょっと余裕をもって活動してるからね。

 ギルドで扱き使われるよりよっぽど楽で良いと思ってるよ」

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