48話
「お主、そのような技術をどこで身につけたのじゃ?」
彼女の声には、何らの色も感情も見出し得ない。
それは、彼女が興味本位で事を聞いているためではなく、用心と警戒を内に潜ませているがゆえであった。
常人が、しかも少年と呼ばれるくらいの年齢でこの境地にまで達することなど皆無であると彼女は判断している。
名人と呼ばれる師につかなければ、そして日々の弛まぬ努力を経なければ、否、それであってもここまでの腕に達するかは大いに疑問が残る。
或いは、違法な改造手術を受けた人型の魔物であるという可能性があるとすら、少女は思い描いていた。
しかしそれは、多くの物を識っているがゆえの、少女の空虚な妄想に過ぎない。
「トリントル高等魔法学校だよ」
あまりにもあっさりと、裏が透けて見えるほどに気楽なソルトの返事を聞いて、バニラは思わず呆気に取られた。
なるほど確かに、そういう効率的な場所もあったなと、自身の考えに浸り過ぎて視野が狭窄していたことを自覚したのだ。
トリントル高等魔法学校は、大陸の技術が収斂している場所であると彼女は認識している。
優秀な師に値する教師は掃いて捨てるほどいるだろうし、もし自身に合う教師がいなくとも、独学が可能となるだけの施設や資料は豊富に用意されている。
学校の名義を借りることにより、各地の有識者や在野の無名な研究者を招いて師事することすら可能であった。
それほどに、トリントル高等魔法学校の収めている学術的・技術的価値及び権威は高いのだ。
ゆえにその名をソルトが口にしたとき、バニラは納得せざるを得なかった。
彼が嘘をついた可能性もあったが、すぐにそれは杞憂となった。
彼の差し出した学生証には、確かに卒業したことを示す魔力印が刻まれていたからだ。
これは学校組織が正式に卒業を認めたという証であり、トリントルという魔法の名門校を知る国であるならば、国内外を問わず、身分証として通じるほどの効果がある。
「なるほどな……まさか、お主がトリントル卒だったとはな。
流石の腕といったところじゃの。先輩として鼻が高いわ」
「えっ、先輩?」
「うむ。何を隠そう、我もトリントルで学んでおったのじゃよ」




