46話
表情の変わらぬソルト少年の後に、不気味な笑みを湛えたバニラが続く。
カウンターの奥にある小さく狭い廊下を真っ直ぐ抜けた先に、彼の仕事部屋が開かれていた。
そこは物識りである彼女が見る限り、職人の仕事部屋というよりも、小規模な魔道具工房という表現が相応しいように思われる。
成人男性の四~五人は寝転がれそうな作業台の上に、規格の違う工具の数々が、そして改造途中と思われる魔道具の部品と本体とが、作業者の性格を表しているかのように整然と、一定の間隔を保って並べられている。
それぞれの部品や工具には細い紐金が括りつけられ、その先には複数の数字と記号が刻み込まれた色紙が付けられている。
それは魔力に反応して光り輝く魔道具であり、万が一、遺失した際に発見するための用心である。
床には部品どころか塵の欠片すら落ちておらず、壁には未使用と思われる工具が天井の光を受けて鈍色の光沢を輝かせ、いつでも活躍する準備が整っていることを誇示している。
「ほう、これほど整っている工房は初めて見るぞ」
「まだ使い始めて日が浅いからね」
興味と好奇の色を隠さぬバニラに、ソルトは少しばかり苦笑した。
日が経てば経つほど、そして忙しくなっていくほど、彼は整理と整頓を二の次として、掃除もせずに放置していくのである。
整理整頓など後回しで良いという思考によって寮の自室がガラクタで埋まっていたことを、その悪癖を、彼はきちんと自覚していたのだ。




