45話
少女の発言にソルトは何の反応も示すことなく、ただその真意を見抜こうとするかのように視線を合わせたままでいる。その瞳に澱む不吉な紅色は、少女の態度から泰然を奪って焦燥を掻き立て、言い訳がましい台詞を並べさせた。
「明日の討伐作戦で使われる魔道具を、そなたは扱っているのだろう? その魔道具が本当に役に立つのか、魔法技術に不備はないか、少しで良い。すぐ間近で見せて欲しいのじゃ」
「……別に良いけど、君は魔道具のこと知ってるの?」
「手を加えたことはないが、基本的なことは知っているつもりじゃ。
魔法に携わる者で隆盛を極めつつある魔道具に注目しない者は、怠惰に堕ちたる愚者であろうよ」
少女の言い分は、彼に少なからぬ興味を覚えさせたらしい。
僅かだが、澱んだ紅い瞳の中に好奇の輝きが灯ったような感覚を、少女は確かに認識したのだ。
「……君、何者?」
ソルトは適当に対応していた相手が、妙な口調をしているだけの少女ではないと思い至ったらしい。
魔道具や魔法についての知識はともかく、その風貌、口調に付随している自信、帽子に巻きついている魔道具などは、どうにも見た目の幼さにそぐわぬ圧力を彼に感じさせたのだ。
少女は、少年の自身を見る目にようやく興味の光が宿ったのを見出すと、にわかに居住まいを正して真正面から向き合った。
帽子を取り、フードを下ろし、艶のない白髪と黒目を明かりの下に晒す。
それは彼女なりの、彼に対する敬意である。
「我の名はバニラ。
今回の大型魔物討伐作戦において、上級冒険者パーティの一員として参加している者よ」
「上級冒険者の一員、ね……」
彼のくぐもった呟きに、微かな感嘆が乗せられた。
上級冒険者と言えばこの大陸においても数が少ない一流の腕前を持つ者たちとされている。
民衆の一部からは英雄として崇められ、敬意を集めるほどにその名声は高い。
ギルドマスターの大部分が上級冒険者から輩出されていることからも、その権威の高さを察せられよう。
ソルトは敬意や憧れ、そして妬みの入り混じった視線をバニラに向けているが、しかしその瞳は依然として濁って澱んでおり、彼女の方からは彼の視線に含まれた複雑な感情を読み取ることはできなかった。
ゆえに彼女は、再び彼に対して真摯な態度をもって見学を申し込んだ。
名声と実力を有する相手を仕事場に招くという緊張や喜び、羞恥などと手を取り合って小躍りしている少年の胸中など露知らず、公私の入り混じった好奇の心でもって、彼の仕事場へと入る機会を獲得したのである。




