42話
しばらくして、魔道具は計測結果を示してみせた。
彼女が自覚している魔力総量に近しい値を、その魔道具は示してみせたのである。
その事実は、棚に並べられている魔道具が一般に普及されている品よりも、遥かに高度の技術が用いられていることを物語っていた。
(これは面白い……!)
少女は示された結果を見て、深く昏い笑みを浮かべた。
その笑みはとても年相応のものとは言い難く、欲深い情念が込められたような、見る者をおぞましがらせる類の表情である。
されど彼女にはそういった思念は何一つ宿っておらず、ただただ顔面の筋肉が残念な動きを取るだけであったのだから報われない。
少女には陰謀などを巡らすような悪意など微塵もなく、単純に高揚し、喜んでいるだけであった。
しかし、そうして浮かべる表情は幼い頃から彼女に付き纏い、その周囲にあらぬ誤解を撒き散らし、結果として少女の性格を人好きのしない小難しいものにしてしまったという過去がある。
二つ名に示される魔女の名称に、自身のどうにもならぬ側面が含まれていることを、彼女は確かに承知している。
否定や非難、悲観など、いまさらになってするつもりは毛頭ない。
とはいえ、二つ名と表情による色眼鏡を掛けてきた者を、掛けて対応してきた者を、彼女は微塵たりとも赦すつもりはないけれど。
ともあれ今は自身の過去よりも、これらの魔導具が重要だ。
「おい、店主よ! いるか!?
いるならすぐに出てくるが良い! 我は客であるぞ!」
クレーマーにも劣らぬ乱暴な語調で、彼女は店長を呼びつけた。
居丈高なその言葉に対して、店の奥からは返答はない。
けれども人の気配は確かに感じられるので、少女は再三再四に渡って声を張り上げた。
「……どちら様?」
奥からのっそりといった様子で姿を現したのは、不機嫌を表情に貼りつけたようなソルト少年であった。
眼鏡の奥に潜んだ目つきは重たげに細められ、まぶたの合間に見える紅い瞳は少女に負けず劣らず澱んでいる。
金の髪は煤けたかのように色艶を失い、持ち主の荒んだ気性を表しているようであった。
陰鬱が形となって現れたような少年の姿を見た少女はしばし言葉を失ったが、その眼が自身の姿を映したと察した瞬間、ふてぶてしい表情を顔に浮かべた。
「なんじゃ小僧。我はここの店主を呼んだのであって、見習いを呼んだのではないぞ」
「……僕がここの店主だけど」
不機嫌そうな顔を隠さず、ソルトと少女は互いに不躾な視線を交わしあった。




