35話
村長の呼びよせた冒険者チームが集会所で紹介されたとき、村人たちは心強い援軍を得られたという事実に湧いた。
魔物が退治されたわけではないが、それも時間の問題であろうと彼らは確信したのである。
村人たちの笑顔を視界に収めながら、村長は軽く手を叩いてそのざわめきを抑えてゆく。
「皆さん、これからギルドマスターによる説明が行われます。
聞き洩らさぬよう静聴し、今後の行動の指針として下さい」
村人たちは無言で首肯し、村長の隣に立った女性に注目する。
それは冒険者ギルドの受付にいつもいる、妙齢の女性であった。
この日の昼、ソルトに対して無為無策はならぬと諭した人物と同じである。
黒髪黒目の童顔で、背も低く、柔和な表情を湛えている辺りに少女のような愛嬌がある。
されどその瞳には人を惹きつける力強い光が宿っており、敵対する者に恐懼を与え、味方する者に勇気を与えることだろう。
受付嬢兼ギルドマスターたるその女性は皆を軽く見渡した後、姿に似合わぬぶっきらぼうな口調でもって、今回の件について説明を開始した。
「皆も知っての通り、村周辺の森にて魔物の痕跡が確認された。
それらの痕跡は発見者が焼写機で撮ってくれている。
見れば分かる通り、大物だ」
椅子に座る村人たちに、冒険者たちが焼き増しした焼写紙を手渡してゆく。
それらに写っているのは、内臓が喰われた熊の死体と、樹木の高所に付けられた大きな爪痕だ。
「魔物は恐らく、ブラックグリズリーだと思われる。
熊を一撃で屠る力、樹木に刻まれた爪痕の高さから判断して、まず間違いなく成体だ。
恐らくは、縄張り争いに敗れた個体が住処を追われてここに迷い込んできたのだろう」
村人たちは息を呑み、その脅威を認識した。
彼らとて、戦えぬ者たちばかりではない。
畑を耕すだけではなく、自身の畑に害を及ぼす獣を片手間で狩ることくらいは容易にやってのける狩人でもあるのだ。
その狩人としての勘が告げてくるのである。それに遭遇すれば、死は免れ得ないだろうと。




