31話
そして、その日の夜である。
赤き陽の光が地平の彼方へと沈み込み、黒き帳が空を隈なく覆い始めていた。
星々の煌めきが躍るその下にて、頭上の輝きなどに目もくれず、多数の大人たちが囁き合いながら大きな建築物へと入ってゆく。
そこは、村の集会所であった。
基本的には冠婚葬祭などにおける会合を行うための建物で、その広さは村人たち全員を収容することができるほどの広さがある。
さらには、保存に適する飲食料や魔道具、貴金属といった、緊急時を考えた備蓄も密かに収められている。
集まったいずれの者たちも、既に村長によってある程度の事情を聞かされており、少なくない危機感を胸の内に抱いている。
それでも彼らが表面上落ち着いているように見えるのは、村長に対する信頼によるところが大きいであろう。
加えて、村に常在している冒険者ギルドの冒険者たちが集会所の周辺警備に回っていることが、村人たちの心に幾らかの余裕をもたらしていると考えて良い。
村のギルドに常在している冒険者であっても、当然、依頼に対しては報酬を要求することが常識である。
しかし今回の件においては、彼らは村に住まわせてもらっている一員として警備に参加していると明言していた。
依頼の「い」の字も報酬の「ほ」の字も口に出すことなく、集会所の入り口に立ち、用心の目を村の周囲へと向けている。
そしてその目が村の入り口に向けられたとき、冒険者たる彼らは異常を察知した。




