29話
「――のように、門前払いを受けるでしょうね」
シュガーの話を聞いた彼女は、母としてではなく、村の長としての厳しさを示して言った。
彼女が村ではなく、ギルドを統率する立場であったとするなら、人に害を成すであろう魔物が近くに生息していると聞いても、討伐隊を組織することはないだろう。
「でも現実として、お母さんは村長としての立場を重視するでしょ?
ギルドが討伐隊の人員を出せないなら、村長としてはどう対処するつもり?」
「そうねぇ……」
己の娘に曖昧な返事を残したまま、村長はポケットから通信機を取り出した。
最新型ではないものの、有用性は既存の中で最も優れていると評判の型式である。
「とりあえず、貸してる人たちから少し返してもらうとするわ」
「……貸し?」
「その点は気にしないで。シュガーはソルトちゃんのところに行って、村長がなんとかしてくれるって伝えといてくれる?」
「んー、気になるけど分かったよ!
ギルドで暴走されても困るし、さっさと連れ戻してくるとするね!」
元気な返事を残したシュガーは、母に対する信頼を根拠としてその場から一目散に駆け出した。
魔物の討伐に対する目途が付いたと言えば、ソルトは大人しくギルドから撤退してくれることだろう。
無愛想を常としている難しい少年ではあるが、精神が常人よりもいささかばかり繊細であることを、けれどもいざという時には絶対に退かない強さを持っていることを、幼い頃から彼女は知っているのである。




