28話
村から下山する入口付近に、冒険者ギルドの出張所が建っている。
他の家屋と同様の木造建築で、けれどもギルドとしての面子や役割を果たすため、村の中でも有数の建築物となっている。
ソルトは森から戻ってくると、すぐに冒険者ギルドへと駆け込んで、森に潜んでいるだろう魔物の脅威を焼写紙による証拠と共に伝え、冒険者による討伐隊の編成を依頼した。
しかし、ギルドマスターを兼ねている受付嬢は、彼の依頼を受け入れることはできないと、淡々と返したのである。
「……何故です?」
ソルトの声音はいつもと変わらぬ平坦なものであったが、その分厚い眼鏡の奥にある目つきは平時よりも鋭さを数段増している。
見る者の心胆を寒からしめるほどの、紅い光が湛えられている。
そんな彼の瞳を真正面から平然と見返しながら、受付嬢は事情を説明していく。
「見て分かる通り、ここのギルドに人手が無い」
ギルド内には中年どころの冒険者が三人いるだけであり、そしてそれがこの出張所における冒険者の全てであった。
さらに言うなら、三人は下級の上位ランクに属する冒険者であるが、ソルトの示した魔物を倒せるほどの実力を持っていないと彼女は言う。
ここにいる冒険者たちは村での畑仕事の手伝いや、害獣狩りを目的としている者たちであり、魔物に対する討伐意欲をも持ち合わせてはいないのだそうである。
「であるなら、麓の町から応援を呼ぶのはどうです?」
「応援を呼ぶなら、金が掛かる。それも、大金と呼ばれるほどの額だ」
受付嬢の見る限り、彼の示した魔物は熊をも屠れる大物だ。
まず間違いなく、大型の魔物であり、見習いや駆け出しの冒険者には荷が重い。
となると、中堅どころの冒険者を応援として呼ぶ必要があるわけだ。
が、その中堅冒険者と認められるほどの者たちを呼ぶには、相応の金が必要となるのである。
彼らも人々の善意によって生活できているわけではなく、働きに相応するだけの報酬を必要としており、その対価として仕事を引き受けている。
今回の大型魔物の討伐を目的として依頼書の発行を考えるとなると、中堅どころの冒険者が四人以上は必要であろうと受付嬢は考える。
なにせ、命の危険がある依頼だ。それなりの報酬を用意しなければ、彼らは見向きもしてくれないだろう。
「それだけの金を、君は用意できるのか?」
さらに言えば、現状は大型の魔物がいる痕跡があるというだけであり、まだ魔物が視認されたわけでも、被害を出したわけでもない。
順序としては、魔物が山中に存在するか否かを調査する依頼を先に出し、いたら討伐を依頼するということになる。
そして調査の段階においても金が掛かるし、討伐の段に至っても金が掛かる。
「常識的に考えて、君の出る幕ではない。諦めることだ」




