22話
行くと話が決まれば、ソルトは行動が早かった。
狩りに必要だと思われる魔道具の装備を数分で揃え、店外で待っていたシュガーを驚かせたのである。
「随分と、重装備だね……?」
「そうかな? 素人だから、これくらい準備しなきゃ辛いと思ったんだけど」
彼の格好はパワードアーマーとでも称すべきほどのもので、堅固且つ鈍重な、さながら動く要塞であった。
全身の装甲は隈なく複合素材によって繋がれた金属繊維の塊で、そこに魔力を通す細い管が全体に行き渡ることにより、通常時でも強固な装甲であるのに、さらなる防護を与えるものであったのだ。
野生の獣の、例えば巨大熊の一撃であれば、彼を殴り飛ばすことは可能であろう。
しかし、それでもその装甲にかすり傷ひとつ与えることはできず、また、装甲の内部にいる彼に衝撃の余波を与えることすらかなわないに違いない。
着ている服の素材ひとつ取っても、それだけの技術が詰め込まれているのである。
装甲服に内蔵されているギミックを全て挙げていけばきりがない。
加えて、彼の持ち物はまだあって、獲物を仕留めるための武器、回収・保存するための魔道具、疲れや痛みを軽減させる医薬品、そしてそれらを自在に取り出すことのできる携帯袋など、大陸どころか世界中のどこに行こうとお目に掛かれない優れた魔道具の数々を、彼は狩りのためだけに用意したのである。
「うん、仕舞ってきなさい」
「えっ……せっかく用意したのに?」
「うん。戦争に行くわけじゃないからね。気楽な散歩にその装備は過剰だよ」
「でも、せっかく性能テストができると思ったのに……」
「森がなくなりそうだからやめてね?」
「分かったよ……」
シュガーの笑顔から発せられる圧力に屈したソルトは金属と機械が奏でる重音を立てながら店内へと戻った。
準備するときよりも時間を掛けて戻ってきた彼の姿はいつも通りの黒ローブであり、高まっていたやる気が随分と沈下していたことは明らかで、彼女の苦笑を誘ったのであった。




