20話
「ふわー……こんな魔道具もあるんだ! すごいねー……!」
「うん」
シュガーの感嘆に、ソルトはそっけない言葉を返した。
が、ソルトも内心では喜んでいて、それがあまり表に出ていないだけのことである。
早速、中に入ってみようと行動を始めた彼女に続いて、彼も建築物の中へと入る。
建物の内部は既に、店舗としての役割をある程度果たせる装いとなっていた。
丈夫で艶のある木材で作られたカウンターが設置されており、魔道具を並べる大きな空棚が壁際に並んでいる。
けれども天井の高い、開放感のある空間が内部を多く占めていた。
採光のための天窓による光の加減も相まって、都会の片隅に佇んでいる小さな喫茶店のような過ごしやすさを感じさせる。
「お洒落な建物だねー! 店とは思えないくらい居心地が良いよ!」
「うーん……だとすると、客用の椅子くらいは用意した方が良いかもしれないね。
外観や内装による居心地の良さは利点だけど、置ける魔道具の数は限られるかな……。
場合によっては、倉庫と作業場を拡張する必要があるかもしれない……」
「ソルトくんは相変わらず真面目だなぁ!」
シュガーが微笑ましそうに見ているそばから、ソルトは手にした袋から見栄えの良い魔道具を次々と取り出しては、空の棚へと入れていく。
彼の手際は良く、そう時間も掛けない内に、空の棚を全て魔道具で埋めてしまった。
「んー……やっぱりもうちょっと棚を増やすべきかな……。
でも、この広さは取っておきたい感じもあるからなぁ……」
「ソルトくん、その袋もやっぱり魔道具なの?」
「……ん? そうだよ?」
彼の持つ袋が魔道具であることは、もちろん彼女も分かっていた。
だが、それでも聞かずにいられなかったのは、自身の持つそれよりも、内包できる量が遥かに大きいからだ。
「ああ、これは僕が市販の袋を改良して作ったんだよ」
何気ない口調で言ったソルトだったが、このときシュガーが受けた衝撃は大きい。
正直な話、彼女は彼がいうところの魔道具屋というものに対して、大した興味を抱いてはいなかったのである。
いや、正確には今もなお大した興味を抱いてはいない。
ただ、普及している魔道具を自身の手でより便利で使い勝手の良いように改良できるソルトのことを、見直したという話である。
(いつまでも、子どもじゃないんだよね)
それは彼女自身も同様であり、そして悪い癖だと自覚してはいるのだ。
直そうとも、思ってはいるのである。
けれども、どうしても自身より頭一つ分は背が低く、口下手である彼のことを、弟分として扱う癖が抜けないでいるのだ。
それを、どこかでもどかしく感じている自分がいることを感じつつも、されど意識しないままに置いていた。
気づいてしまえば、今までとは同じでいられない予感を、未知にも似た恐れや不安を感じるようになるだろう予感を、心のどこかで分かっていたからである。
「お店はいつ頃から開く予定なのかな?」
そんな自身の心からさらりと目を背け、シュガーは変わりない態度でソルトへと尋ねた。
彼は少し視線を上げて考え、呟くように彼女に答えた。
「そうだね……看板も作っておきたいから、明日の午後か、或いは明後日くらいを考えてる」
「宣伝とかもするの?」
「そこら辺はシュガーのお母さんが広めてくれるでしょ」
「ソルトくんのお母さんもね」
二人は、口が軽くて仲の良い、互いの母を思い浮かべて、どちらともなく微笑み合った。




