13話
「お母さんとは一緒に食べなくて良いの?」
「だーいじょうぶ、大丈夫。そんな気にすることないって!」
からからと笑いながら、シュガーはソルトを連れてゆく。
その行き先は彼の家で、村長の家からそう遠くはない位置にある。
彼が実家に入る言葉を考えたり、心の準備をしていたりとしている間に、その腕はあっさりと彼女に引かれて家の中へと入っていた。
「こんにちはー! 隣のシュガーですー!
お宅のソルトくんを連れてきましたよー!
お裾分けのお肉も持ってきましたよー!」
引き戸を開けると共に、そんなことを言い放ったシュガーである。
当然、家の住人は突然入ってきたシュガーとソルトを見て軽い混乱をきたすことだろう。
そう思ったソルトの常識的な想像は、至極あっさりと裏切られた。
「おや、お帰りソルト。シュガーちゃんもいらっしゃい」
彼の母親は少しも慌てることなく、むしろ彼と彼女が帰ってくることが当然であるかのように振る舞ったのである。
長年に渡って離れて暮らしていた息子が突然帰ってきても動じないというのは、どうだろう。
情が薄いからなのか、それともある程度予測していたからなのか、どちらとも言い切れない。
まあ、自分の母親らしいとは思うソルトであった。
「お邪魔しまーす! はいこれ、少し前に獲ったお肉です! どうぞ食べてやって下さい!」
「あらあらありがとうね。早速今から使わせてもらうわ」
「今からお昼なら手伝いますよ! お肉はどう調理します?」
「そうねえ……あ、ソルトはその辺でゆっくりしてなさい。疲れてるでしょう」
「……まあ、そうだね」
そこはかとない疎外感を植えつけられながら、ソルトは窓際の椅子へと腰を下ろした。
水差しの水を飲みながら、シュガーと母親の様子を伺う。
彼女らは台所でなにやら姦しげに騒ぎつつも、しっかりと料理をしているようで、次第に食欲を誘う匂いが漂ってくる。
こうしてのんびりと食事を待つのは、どれくらいぶりだろう。
思えば、朝も昼もそして夜も、ずっと知識を詰め込み、技術を研鑽するばかりで、ゆっくりとした時間を持ってこなかった気がしてならない。
彼はその点について少しも後悔は感じていないが、それでもこうした時間を持つのも悪くはないと思うのだ。
久しくなかったゆっくりとした時間を、ソルトは窓の外の景色を見て、青い空を眺めながら、それとなく味わうのだった。




