10話
シュガーはソルトの返事に首を傾げつつも、それほど気にした様子はない。
彼女は肉塊となった猪の側にしゃがみこみ、確かに生命が失われていることを確認すると、何事かを低く呟いた。
後からソルトが聞いたところ、呟いた言葉は狩人としての、獲物に対する儀礼のようなものであるらしい。
生命に対する祈りと思っても、間違いではないそうだ。
祈りを終えると、彼女は背負っている袋から小ぶりのナイフを取り出して、さくさくと肉塊の解体を始める。
その捌きは実に鮮やかで、手の動きに迷いがない。
皮を裂き、肉を部位ごとに分け、内臓も傷つけることなく取り外していく。
捌いた臓物や肉だけではなく、血液にも利用価値があるらしい。
流れてしまったもの以外はしっかりと管のような魔道具で吸い取り、皮袋にしっかりと封入していた。
「ま、こんなところでしょ!」
「へー、見事なもんだね。すっかりベテランの狩人って感じだ」
「まだまだ半人前だけどねー」
捌いた獲物を冷気袋に保管した後は、その場を掘って血の臭いがついた土をしっかりと埋めていく。
土を掘る道具も背負った小さな袋から出ており、その袋もどうやら魔道具らしいことが伺えた。
「狩人も魔道具を使うんだね」
「そりゃあ、便利な物は使っていくよ。
わざわざ不便な思いをすることはないしさ!」
「ごもっとも」
捌いた獲物や荷物を背負い袋に放り込むと、シュガーは立ち上がった。
軽く伸びをし、骨を軽快に鳴らして、背負った銃を抱え持つ。
「いやー、それにしてもこんなところでソルトくんに会うとはね!
学校の方は順調なの?」
「んー……まあ一応」
彼は、学校を卒業したとは口に出さなかった。
言ったのならば、その後どうするかを聞かれるのが分かりきっているためだ。
今後どうするつもりなのかは、彼自身ですらもまだ考えてはいないのである。
「そっか。まあ、こんなところで立ち話もなんだしさ。家に帰ろうよ。
おじさんとおばさんもソルトくんの顔見たいだろうし、学校の話とか聞きたいだろうしさ!」
「学校の話はともかく、帰ることには賛成だね」
「よしよし! では出発ー!」
シュガーはソルトを引き連れて、山道を進んでゆくのだった。




