ヒロインと悪役令嬢たちの関係が明らかになりました
短編ですが『無印のヒロインを探していた2の悪役令嬢は4の悪役令嬢と共に3のヒロインに出会いました』の続きで、他のシリーズ作品とも繋がっています。
そのためシリーズを読了済みであると前提して、ところどころ説明を端折っている箇所があります。
今作が当シリーズの初見という方には意味がわからない話かと存じますが、ご容赦いただければ幸いです。
君となシリーズ7作目。
船をトライアの港へ預けた一行は馬車に乗り換え、途中昼食休憩を取りながらその日の昼過ぎにルハートに入り、そのまま登城することにした。
道すがらルリアーナやアデルはリーネに「休憩が必要であればいつでも遠慮なく言ってね」「急いできたから何か入用なものがあれば今のうちに買うといいですよ」と提案したりもしたのだが「今私に必要なのは鈴華です」「入用なものは鈴華だけ」と全く聞く耳を持たなかったため、ならばいっそさっさと結果を出そうというわけである。
だが、気にかかることが二つ。
「……これでイザベルちゃんが鈴華ちゃんじゃなかったら、リーネちゃんどうなるんだろう…」
「愛が行き過ぎてて、ちょっと不安ですね…」
「それにイザベルちゃんが鈴華ちゃんだった場合もどうなるか読めないわ…」
「イザベル様は回復したばかりですし、そうだった場合、今記憶を取り戻したらまた体調を壊しちゃうことも…?」
はあーっと向かい合ってため息を吐くルリアーナもアデルも、それが一番心配だった。
先に聞いた前世の話ではぼかされていたが、恐らくリーネは復讐のために鈴華殺しの犯人を捜していたのだろう。
そこまで思い詰めるほどに大切な妹に会えるという期待が空振った時、果たして彼女はどんな行動に出るのか。
もしくは期待通りだった時、彼女はイザベルをどうするつもりなのか。
全く想像がつかない。
「まあ大丈夫でしょ。3ヶ月だけハーティアを離れていた人はバートランド嬢以外にもいただろうけど、ここまで条件が合う人ってことを加味したら滅多にいないだろうし」
「それに例え違っても、アディたちの友人同士が友人になるだけだよ」
「そうそう。んなの気にしてたってしょーがねーよ」
「人生なんて、なるようにしかならないもんね」
2人のこそこそした囁き合いは、しかし存外に大きな声だったため男性陣にも聞こえていたようで、しかも彼らは揃って彼女たちの心配は杞憂に終わるだろうという意見だった。
それは確かに尤もだと頷ける意見であり、今ここで気にしていても詮無いことであるのは間違いない。
だがもう一つの気がかり、他国の平民であるリーネとハーティアの王太子妃候補になった公爵令嬢であるイザベルの身分差もまた、如何ともしがたい壁だった。
「……陛下とオスカー様のお願い聞くの、早まったかなぁ…」
せめて保留にしておけば、王太子妃候補ではなくただの侯爵令嬢としてならば、まだもう少し自由はあったろうに。
あの時はリーネに会えるとも思っていなかったし、リーネとイザベルに繋がりがあるかもしれないことなど考えもつかなかったのだから仕方ないこととはいえ、ルリアーナはそのことに責任を感じていた。
「うーん、リアは考え過ぎだと思うよ?後になればこれでよかったと思うかもしれないし」
「つーか、全部が全部自分の行動のせいだと思うとか、マジで意味わかんねぇ。お前が操ってそうしたわけじゃねーんだから気にするだけムダだと思うぜ?」
「彼の言う通りですね。貴女がそこまで責任を負う必要はないと思います」
「そーそ。それより俺、気になってることがあるんだけど」
気落ちしたルリアーナを慰めようと男性陣がルリアーナのせいではないと伝えるが、その時、フージャが手を挙げてリーネ以外の面々を見回した。
ルリアーナたちは互いに見交わし、代表してヴァルトが「なにかな?」と問えば、
「スズカ…バートランド嬢?が王太子妃候補だから王宮に行くのはなんとなくわかるんだけど、そんな立場の人に知り合いだからっていきなり行って会えるのかなって…」
思うんだけど、とぽりぽり頬を掻きながら言うフージャの言葉に全員が口を閉ざしたため、彼は何か拙いことを言ってしまったのかと気まずくなる。
しかし彼らが口を閉ざしたのは別の理由からだった。
「……誰か、彼に僕たちのこと説明した?」
「…私はしていないわ」
「私もしていません」
「…僕もしていないね」
「まあ、俺がしてるわけないわな」
恐る恐るというように口を開いたヴァルトの確認に全員が否やを返す。
誰もが『誰かが説明したよね』という思い込みをして、結果誰もしていないことがわかった。
「そ、そっかぁ…」と自分たちの失念に呆れながら、ヴァルトは微妙な表情で事の成り行きを見守っていたフージャに向き直る。
「…ごめん。別に君に隠していたわけじゃないんだけどね」
「はい」
そしてそう断りを入れながら苦笑を見せたヴァルトは自分たちの身分を明かした。
「僕はヴァルト・ウィル・ロウ・ディア。そしてこっちが奥さんのルリアーナ・バールディ・ロウ・ディア。名前の通り、ディア国の王太子と王太子妃だ」
「…え?」
「そしてあちらがクローヴィア国王太子のライカ・ジュリアス・ロウ・クローヴィアと婚約者のアデル・ウィレル嬢」
「…え、ええ?」
「で、君の横に座っているのが、つい昨日からリアの護衛になったルカリオ。世間では『金影』と呼ばれていた元暗殺者だよ」
「え、ええええええ!?」
だが明かされる度、スペーディア貴族の一員であるフージャは顔を青くさせる。
まさか彼らが周辺国の王太子と王太子妃(候補)とは思わず、今まで全く敬う素振りも見せずタメ口をきいていたことに貴族として戦慄したのだ。
このままでは自身の不敬罪だけでなく、スペーディアとディア及びクローヴィアの国家間問題になるかもしれない。
「し、失礼、いたしました。知らぬこととはいえ、王太子殿下方になんたる無礼を…」
「あー、いいから、気にしなくて。僕たちも言うの忘れてたし」
「で、ですが」
青褪めたばかりか小刻みに体を揺らし、冷や汗と脂汗をだらだらと流して震えるフージャに「いや本当に」とヴァルトは言うが、貴族として育てられた者には土台無理な話である。
王太子と言えば国の高き位に御座す国王、王妃に次ぐ存在であり、何れはその高き座に就く人間を示す言葉であり、自国に置いては後の自分たちの主となる人間を指す。
もちろん、君とな3の攻略対象者であるフージャの同級生にはスペーディアの王子がいたが、だからと言って慣れるものでもなく、それが他国ともなればこうなるのは必至だった。
そして横にいる、口は悪いが天使の如く愛らしい美少年もまた問題だった。
彼が本当に『金影』なら、自分は生きて再びスペーディアの地を踏めないのではないかとさえ思ってしまう。
ちらりと横目で様子を窺えば、すぐにバレてこれ見よがしに大きなため息を吐かれた。
「あのさぁ、俺、快楽殺人者でもなけりゃ無差別殺人者でもないから。正体知った途端にそんな風にされると傷つくんだけど?」
ルカリオは先ほど見せた顔をひっこめ、そう言って言葉通り少し悲しそうな顔をした。
愛らしい少年が見せたそれはフージャの良心を痛いほど刺激する。
「ご、ごめん!そんなつもりじゃ…」
慌てて自分の態度について詫びるが、ルカリオの表情は晴れない。
どころかより一層沈んでいく。
「別に。慣れてるし、いいけどさ」
「う…」
「初めて年の近い友達ができたみたいで嬉しかったのは俺だけなんだろうし」
「うう…」
「犯罪者が突然一般人になろうなんて、やっぱ無理だったんだ」
「ううう…」
そしてそんな彼から発される言葉の数々にフージャはさらに狼狽える。
おろおろと助けを求めてヴァルトやライカを見たが、彼らもまだルカリオとの付き合いが浅く、どうするのが正解かわからないでいた。
「ルカリオ、あんまりからかってはダメよ?」
そんな中フージャに救いの手を差し伸べたのはルリアーナだった。
「貴方そんなことで傷つくような可愛い神経してないでしょう。それに、そんなこと言えるほど仲良くもなってないし」
「あ、そう言えば」
「ちょ、バラすなよ」
「…まったくもう」
ルリアーナはそう言いながら困った弟を窘めるようにルカリオに笑って見せる。
男性陣が「え?そうなの?」という顔でルカリオを見れば、彼は素直に「ちぇ、わかったよ」と言って表情を元に戻した。
それを見てフージャは一安心と胸を撫で下ろしたが、ルカリオは少し不満気だった。
「おい姫さん、もう少し遊ばせてくれてもよかったんじゃねぇの?」
せっかくいい感じに引っ掛かってくれたのにさぁ、とルカリオは今度はルリアーナに向かって口を尖らせた。
属性てんこ盛りの彼にはショタ属性もあり、こういった子供っぽい一面を見せることもあるのだ。
もちろんそれはヴァルトの似非ショタとは異なる、紛れもない彼の一面だ。
「そろそろ馬車にも飽きてきたんだよ」
そう言ってルカリオが退屈を示すようにくわっと欠伸をした時、
「なら丁度良かったね。王宮に着いたみたいだよ」
窓の外を眺めていたライカがアデルの手を取り、馬車を降りる準備を始めた。
「ルリアーナ様、アデル様、お帰りなさいませ!」
皆様も長旅お疲れ様でしたと言って笑顔で7人を迎えたのはイザベルだった。
「あちらにお茶とお菓子を用意してありますわ」
大好きな2人が帰って来てよほど嬉しいのだろう、今まで見せたことがないくらいにこにこと笑い、2人の手を取る。
無邪気なその姿は年相応で大変愛らしくはあったのだが、今は再会を喜ぶよりもやることがあるのでそちらを優先しようと、ルリアーナは意識を向けてもらうためにイザベルの手を強く握り返した。
「イザベルちゃん、その前に貴女に紹介したい人がいるの」
「え?」
イザベルはルリアーナの言葉にきょとんと目を丸くする。
昨日は色々なことが起き、且つすぐにハーティアに移動するために夜はごたついており、イザベルには大体の到着時刻と、君とな3の登場人物であるフージャとリーネとシャーリーが追っていたルカリオの3人を連れて帰ることしか知らせていなかった。
そのため彼女はこれから紹介されるのはヴァルトとライカの後ろにいる3人のことだろうと思い、「ああ」と笑い、再びルリアーナの手を引く。
「3人の紹介でしたら、あちらについてからゆっくり聞きますわ?」
だからまず移動しましょう、と言い差したところで、その3人の中から1人が飛び出してくる。
「あの!」
飛び出してきたリーネはイザベルの前に立つと胸を押さえ、ぐっと唇を噛み締めながら潤む瞳で彼女に訊ねた。
「あの、貴女は鈴華では、ないかしら?」
「…スズカ?」
目の前に思いつめたような顔で立つリーネからの言葉を、イザベルは首を傾げて繰り返す。
確かそれはルリアーナからの手紙にあった、海賊が探しているという何かではなかったか。
それが何故自分だと?
イザベルはじっとリーネを見て、それから首を振った。
「申し訳ありませんが、スズカというのは私ではないと思います」
「そんな…!?」
イザベルの否定にリーネはショックを受けたように仰け反るが、すぐに「そんなわけない!」と彼女に詰め寄る。
「だって、貴女からは間違いなく鈴華の気配がする!!記憶がなくても私にはわかる。貴女は私の妹の鈴華よ!!」
「妹…?」
「そうよ!あの日、私を置いて死んでしまった、私のたった一人の大切な家族!!」
リーネは泣きながらイザベルに縋った。
間違いなくイザベルは妹の鈴華の生まれ変わりであると。
しかしやはり記憶のないイザベルは戸惑っているようで、リーネを扱いあぐねているのが窺える。
これは一度仕切り直しをした方がいいだろう。
そう思ったルリアーナが「ちょっと一度落ち着きましょう」と言うのと、
「もう二度と、私を置いて、行かないで!!」
リーネがそう言ってイザベルを抱きしめたのは同時だった。
そしてその言葉に、イザベルの身体がびくりと動いた。
『…ぬな!鈴華!!』
頭の中で誰かの声が反響する。
『死ぬな!私を置いて、行かないで!!』
それはディア国を彷徨い、あと少しで命が失われようとしていた刹那に見た幻夢。
その時誰かが私を抱えて、死ぬなと言っていた。
そうだ、その時に聞いたのだ。
鈴華という名前を。
「……あの夢…」
イザベルは呆然としたように口を開く。
「…私を抱えて、辛そうに泣いていた人、あれは、…貴女?」
唐突にイザベルは今しがた思い出した記憶の中にいた人が目の前のリーネだったのではないかと思えた。
理由はない。
強いて言うなら、雰囲気が、身に纏う空気が似ていたように感じたから。
「今、思い出しました。ディアでアデル様たちに出会う直前、私は夢を見て、その中で鈴華と呼ばれていた。そして」
顔を上げて、リーネを正面から見据える。
「誰かが私を抱えながら、『死ぬな』と。『鈴華、私を置いて行かないで』と言いながら泣いていました」
「っ!!」
イザベルがそう言った瞬間、リーネの目から涙が溢れた。
そしてイザベルの目からも。
「夢だと思っていたあれが前世の記憶だと言うなら、きっと、鈴華は私です」
貴女の、妹です。
イザベルのその言葉に全員が驚きと納得の入り混じった表情を見せる中、世界を越えて再会を果たした姉妹は互いを強く抱きしめ合った。
リーネから前世のことを聞けば他の記憶も戻るかもしれない。
イザベルがそう言ったのは当然と言えば当然の帰結だった。
しかしそれは同時に、殺されたであろう瞬間の記憶が甦る可能性も孕んでいる。
いくら前世の出来事とはいえ、殺された瞬間を思い出して精神的なショックを受けない人などいないだろうし、それによってやっと回復してきたイザベルの体調が悪くなるのは避けなければならない。
さて、どうするのが一番いいのか。
ルリアーナはそれについて小1時間程悩んだが、「突然思い出して倒れるより、コントロールできるかもしれない安全な状況で思い出してもらった方が安心じゃね?」というルカリオの言葉で目から鱗が落ち、翌日2人が落ち着いた状態で話し合わせることにした。
「それなら今日は早目に解散して、明日の朝食後にまた集まりましょう」
その言葉により、その日はお開きとなった。
翌日。
ヴァルトとライカはオスカーに呼ばれ欠席となったため、6人で円卓を囲う形となった。
ルカリオは「俺超部外者」と気まずげだったが、部外者だからこそ何か発見があるかもとそのまま臨席してもらうことにした。
「まずは何から話すのがいいかしら…」
腕を組んで「うーん」と唸っている、この中で一番位が高く年齢も上であるルリアーナがこの場を取り仕切る。
最終的には全てを教えるつもりではあるが、しかし事が事だけに話す順番を慎重に選ばなければイザベルに取り返しのつかないショックを与えてしまうかもしれない。
なるべく刺激の少ない話題から順を追って話さねば。
「…イザベルちゃんとリーネちゃんの姉妹に共通する家族とかの記憶から語るのが無難、かな」
「そうだと思います」
なのでリーネが語りやすく、且つショックの少ない話題としてそれを選び、アデルもそれに同意した。
家族との思い出という温かな記憶から思い出していくのがいいだろうと。
しかし彼女たちはあることを失念していた。
「じゃあ、えっと、…鈴華は3歳年下の妹で、成績は真ん中より少しだけ上くらいの、国語が得意な子でした。よく図書館に行っては本を借りてきて家の隅で静かに読んでいるような大人しい子で、でも友達もちゃんといたから虐められることもなく、健やかに育ってくれたと思います」
リーネはそう話を切り出し、イザベルに笑いかける。
「…そういえば鈴華は中学2年生の時に友達に面白いゲームがあると教えられて、一緒にやりたいから買ってと両親に強請っていました。初めてのお願いが割と高額なものだったから、両親は「もう少し小出しにしてほしかった」と言って、それでも父のボーナスからそのお金を捻出して、クリスマスプレゼントとして鈴華にゲームを買ってあげたんです」
「わ、私、そんな我が儘を言ったんですか?」
当時を思い出してクスクスと笑いながら話すリーネが語った前世の自分らしき人物の行いに、イザベルは顔を赤くする。
今の自分が恥ずかしがるのはおかしいが、なんとなくいたたまれない気分になった。
「でもお父さんもお母さんも喜んでいたわ。初めてお願いしてもらえたって。本を読む以外にやりたいことが見つかってよかったって。鈴華もすごく喜んでて、それもまた嬉しいって」
「…素敵なご両親だったみたいね」
「そうですね。……って、あ」
そこでようやくアデルは自分たちの失敗に気がついた。
家族の話題が温かいものだけではなかったことに。
先日のリーネの話によると、この2年後に2人の両親は…。
「中学3年の時はずっとゲームをしてたわ。そこで初めて私たちは「まずいものを与えたかも」と思ったけど、でも鈴華が楽しそうだからいっかって。成績が落ちたわけでもないし、問題はないって放置した。そして高校受験も問題なくクリアして、高校に入って、すぐに…」
ぐっ、とリーネがスカートを握った。
「…鈴華が友達の家に泊まりに行ってる時だった。その日は私もサークルの歓迎会で家に帰るのが遅れて、帰宅した時家が真っ暗だったのは両親が寝たからだと思ってて。翌日になってから2人がいないことに気がついた」
「……え?」
「そして家の電話が鳴って、警察からで、「ご両親が信号無視の車に突っ込まれて亡くなりました」って」
「…!!」
そう、彼女たちの両親は亡くなっていたと聞いていたのに。
リーネにまた辛い記憶を話させてしまった。
そして、イザベルにも辛い話を聞かせてしまった。
「あ…」
ルリアーナはしまった、と顔を歪めた。
せめてその話は後にするように言っておけばよかった。
いずれ聞かせるにしても、きっとそれは今じゃなかったのに。
そう悔やんでいると、すぐに隣のルカリオから「ほらまた」と声を掛けられる。
「いつかは話さなきゃなんない話なんだし、話すと決めたのはリーネなんだから、姫さんが気にする必要はないって」
彼はそう言って「な?」と笑顔を見せてルリアーナの心を軽くしようとしてくれた。
確かに姉であるリーネが話すと決めたなら、他人であるルリアーナが口を挟むことではない。
気に掛けることは出来ても、最終的にこれは2人の問題なのだから。
「…そうね、ありがとう」
ルカリオのそれはまだ出会って間もないとは思えない、ヴァルトですらできたかどうか怪しいほどの完璧なタイミングでの完璧なフォローだった。
これが元暗殺者の技能なのだろうか。
「……あれ?でもルカリオってそういうキャラでしたっけ?」
ルカリオに微笑みを返すルリアーナの横でアデルが自分の記憶に首を捻るが答えは出ない。
「…それから私たちの生活は変わったわ。私は大学を辞めて働いて、鈴華もゲームや友達と遊ぶのをやめて学校の後はバイトをしてくれた。「お父さんたちの保険金もあるし、まだ高校生なんだから気にせず友達と遊んでてもいいんだよ」って言っても「私もお姉ちゃんを助けたい」って言って笑ってくれて。それが嬉しくて、ついバイトを許してしまった」
ルリアーナたちの会話の横で話し続けていた彼女は「でも」と、くしゃりと顔を顰め、イザベルを透かして『鈴華』を見るように眼差しを遠くした。
「許してはいけなかった。そのせいで鈴華はあいつに目をつけられた」
「あいつ…?」
その言葉と表情に、リーネが何を言おうとしているのか察したルリアーナは流石にこれは止めなくてはと思い「ちょっと待って!」と制止の声を上げたが、話すことと自分の感情を抑えるのに一生懸命になっていたリーネにその声は届かなかった。
ルリアーナの声に隣にいたフージャも事態に気がつき止めようとしたが、残念ながらその手が届くよりも早く、リーネの口から言葉が発されてしまう。
「そのせいで貴女は、あいつに殺されたのよ!」
どくん、とイザベルの心臓が大きく鼓動した。
「…は、…え?」
なに、言って…、え?
貴女って、鈴華、よね?
殺された…?
事故かなにかで死んだんじゃなく、誰かに、殺されて死んだの?
鈴華が、私、が?
…ドスッ
重い音を立てて、何かが腹に刺さった気がした。
「馬鹿リーネ!!」
「……あ」
フージャがリーネを叱責する。
そこで初めて自分が何を言ったかを理解したリーネは口を押さえ、イザベルを見た。
そしてイザベルの顔が、それまで公爵令嬢然としていた表情が、変わった。
「……ぅうああああああっ!!!」
「イザベルちゃん!」
「イザベル様!?」
勢いに任せて円卓を蹴り上げながら立ち上がったイザベルの表情。
それは平和な日本で16年間だけ生きた少女が初めて絶望を知った時の顔だった。
「いや、だ!いやだ!!来ないで、お願い!助けて!!」
頭を抱えて涙を流し、ガタガタと立っていられないほどに震え、床に蹲る。
耳を塞いで目を閉じて、恐怖が過ぎ去るのをただひたすらにじっと待つような、無力な少女がそこにいた。
「怖い、痛い、寒い、暗い、冷たい。なんで、なんでなの!?私、何かしたの!?もうやだ!お姉ちゃん!!」
ガタガタと震えながら姉を、リーネの前世の姿を求めて泣き叫ぶ。
だが姿が異なるせいか、すぐ横に求める姉がいることには気がつかない。
「お姉ちゃん、美涼お姉ちゃん!どこなの?なんでいないの!!」
「鈴華!!」
だからリーネは行動で示した。
パニックになっているイザベルをしっかりと抱きしめ、その背を撫でる。
上から下へ、また上に戻って下へ。
一定のリズムで一定方向に優しく背を摩る。
「鈴華、鈴華。ごめんね、助けてあげられなくて。痛かったよね。辛かったよね…」
リーネはイザベルが感じている不安を消し去るように、彼女に言葉を掛ける。
背に触れる手を止めず、自分の温もりを渡すように撫で続ける。
「ねえ鈴華。あの時はもう残り時間が少なかったし、突然のことで言葉が出なかったけれど」
撫でる位置を背中から頭に変え、リーネはゆっくりとイザベルに囁いた。
「貴女にずっと、言いたいことがあったの」
その言葉に少し顔を上げたイザベルに、リーネはにっこりと笑って見せる。
「鈴華。私の可愛い妹。大好きよ。貴女がいたから私は頑張れたの」
リーネはイザベルをもう一度抱きしめ直すと、
「だから今度は、2人とも幸せになろうね」
イザベルの額にこつんと自身の額をくっつけ、涙に濡れた彼女の瞳と自分の瞳とを合わせた。
「いやはや、何はともあれ記憶が戻って何よりだわ」
「…ルリアーナ様、なんか投げやりになってません?」
「なってない、なってない」
「うわ、嘘くさ…」
2人の間に入ることは憚られて、少し離れてその様子を見ていたルリアーナとアデルとルカリオはひと段落したようだと胸を撫で下ろしつつ、結局こうなってしまったことへの後悔と、何もできなかったという無力感にも似た感情によって脱力し、結果「ま、いっか」と開き直った。
最善ではなかったかもしれないが最悪は避けられた。
今は素直にそれを喜ぼう。
3人は誰ともなく微笑み合い、イザベルが蹴り上げて乱した円卓の上を片付けて新しくお茶を入れ直すと、静かに2人の涙が止まるのを待つことにした。
「…すいません、俺も仲間に入れてください」
そしてリーネを諫めた後は3人と同じ立ち位置になっていたフージャもそれに加わり、4人は現実逃避するようにお茶とお菓子を楽しんだ。
「取り乱してしまってすみません」
「お見苦しい姿をお見せしてしまいました…」
4人が2杯目の紅茶を半分まで飲んだ頃、やっと涙が落ち着いた2人は気恥ずかしそうに円卓に戻ってくる。
目元は赤く腫れ上がり鼻もぐずついているが、それでも憑き物が落ちたような、さっぱりとした晴れやかな顔だった。
「イザベルちゃんの記憶が戻って、鈴華ちゃんだってわかってよかったわ」
「ようやく姉妹が再会できたんです。こちらのことは気にしなくていいですよ」
ルリアーナとアデルは2人に向かってにっこり笑い、「どうぞ」と温かいお茶と甘いお菓子を差し出す。
「……変わり身早いなぁ」
「女なんてそんなもんだろ?」
それを見ていたフージャとルカリオがぼそぼそと何事か呟き合っていたが、幸いなことに女性4人には聞こえなかった。
「さて、落ち着いたところでリーネちゃんに1つ聞きたいのだけど」
リーネが席についてお茶を一口飲んで落ち着くのを確認したところで、前触れもなくルリアーナはそう切り出した。
「…はい?」
それにリーネ本人も周りの人間も不思議そうな顔をするが、ルリアーナは気にせずリーネに問い掛ける。
「貴女さっき美涼って呼ばれてたけど、もしかして中村美涼だったりする?そう思えばなんだか雰囲気が似てるなって気づいたのだけど」
どうかしら?というその問いに姉妹は揃って目を丸くした。
「え?なんで?」
「どうしてルリアーナ様がお姉ちゃんのこと…?」
それは問いの内容が正しいことを意味した反応であったため、ルリアーナはぽんと手を打ち合わせると、
「やっぱり!ほら、高校の時3年間同じクラスだった野田芽衣子って覚えてない?」
あれ私なんだけど、と言って嬉しそうに笑った。
「えー!?貴女、めいちゃんなの!?」
その言葉に、せっかく落ち着いて席についたリーネは立ち上がってルリアーナを指差す。
「そーよー」
それは王族に対して平民がするにはあまりにも無礼な仕草だったが、ルリアーナは気にも留めずに両頬に両手の人差し指を当てにぱっと笑い、「まあまあ座んなさいよ」と再び席につくようリーネに促した。
「はー、…マジで?」
「マジマジ。超マジ」
「マジかー」
そして椅子に沈みながら「そんな偶然信じられない…」と驚くリーネに本当だと言って「こんなことあるんだねー」とさらに笑みを深めた。
「私は就職して忙しかったから高校時代の友達とは全然会ってなくて、あんたが大学行ってからのことはなにも知らなかったんだけど、そんなことになってたとはね」
「私もびっくりよ。両親や鈴華のことでそれどころじゃなかったのもあったけど、同級生のことなんか何も知らなかったから」
「まあね。私21歳で死んだし」
「え?なんで?」
「多分熱中症?あんまり覚えてないんだけど、炎天下で走ってて、そのまま倒れたのよ」
「えー?なんでそんな中走ったのよ」
「知らないわよ。君となの限定品でも買いに行ってたんじゃない?」
「ホントにそうなら間抜けすぎる」
「でもそれ以外思い浮かばない私の人生マジ草ー」
2人はけらけらと笑いながら、まるで女子高生に戻ったようにポンポンとリズムよく会話を重ねる。
そしてあまりの会話の展開速度に男性2人は揃って口を開け、記憶が戻ってきた混乱が落ち着いたところにもう一度混乱材料を投げ込まれたイザベルは目を丸くし、その隣のアデルは絶句していた。
「にしても21歳か。若いねー」
「って言ってもあんたも22、3歳で死んでるってことでしょ?」
「そう言えばそうね。なに、うちの年代呪われてた?」
「もしくは高校とかー?」
和やかに続く会話の中で「まさかねー」と笑って言ったルリアーナのその言葉に、ふとリーネが黙る。
「……もしかしてそれ、あるかも?」
そして不意にそんなことを言い出す。
ルリアーナの推測があながち間違いではないかもしれないと。
「…どういうこと?」
それにルリアーナが首を傾げると、
「鈴華も私たちと同じ高校に入学したのよ…」
リーネはちらりとイザベルを見てそう言った。
「…え?あ、そうですね。私もお姉ちゃんと同じ高校に行きました」
視線を受け、イザベルも間違いないと慌てて頷く。
中村家から比較的近かったこと、ある程度のレベルの進学校であったこと、そして何より大好きな姉が通った学校であったことなどからイザベルはリーネやルリアーナと同じその学校へ入学していた。
「へー。まあ、姉妹ならそれもあり得るか」
ルリアーナは感心したように頷き、くるりとアデルを振り返る。
「そういえばアデルちゃんってどこの人だったの?」
「あ、えっと…」
「鈴華ちゃんと同じ人にストーカーされてたってことは、もしかして近所?」
「え!?そうなんですか!!?」
「ああ、鈴華には言ってなかったっけ。アデル様って鈴華の後にあいつに目をつけられちゃった子の生まれ変わりなんだって」
ルリアーナに問いかけられたものの、会話参加者が多かったせいでアデルは口を開く間がない。
だが彼女が口を重くして先を話さないのはそれだけが原因ではなかった。
軽く俯き、ぎゅっと口と手を結び、逡巡しているような、躊躇っているような顔でルリアーナの方を向いていた。
「……アデルちゃん?」
そんなアデルを見て何か様子がおかしいとルリアーナがそっと声を掛ける。
リーネとイザベルもどうしたのだろうと口を噤み、アデルを見た。
「あ、あの、ですね…」
アデルは全員が自分の言葉を待っているのだと感じ、ゆっくりと口を開いた。
しかし何から伝えればよいかと視線を泳がせ、意味もなく揺れる身体は落ち着きがない。
「あの、この間、リーネさんが話した時、私が言ったこと、なんですけど」
「うん」
「イザベル様の後に3人被害者がいたって、話を、したんですけど」
「うん」
「その内の、1人、が」
「うん」
「……ルリアーナ様、だと思う、んです」
「……うん?」
そしてそろりそろりと話始めたアデルに優しく相槌を打ちながら聞いていたルリアーナは、アデルの言った言葉の意味がわからず、首を傾げて見せる。
「アデルちゃん、どういうこと?」
詳しく説明をとルリアーナが促したところで、
「……熱中症で死んだ人?」
リーネがアデルからの話の中にあった被害者の死因を思い出し、ルリアーナとの共通点を見出した。
「はい、そうです」
アデルがそれに首肯を返せば「ちょっと待ってよ」とルリアーナが声を上げる。
「今時熱中症で死ぬ人なんて珍しくもないでしょう?それだけで私とは」
言えないんじゃない?という言葉をルリアーナが言う前にアデルはぶんぶんと強く首を振った。
「同じ人にストーカーされていたということは、私たちは近くに住んでいた可能性が高いです。というか被害者は全員あの高校に関わりがあるはずです。あの犯人はあの学校の制服を着た女性に馬鹿にされたことが原因であの学校の女子生徒を追いかけていたそうですから」
アデルはそう言い、ルリアーナを見る。
「…熱中症で亡くなった21歳の女性は体調不良で午前中で仕事を切り上げて家に帰ったところ、家の中を覗いている不審な男性に気がつき警察に電話しました。けれど電話中に犯人に見つかってしまい、逃げていた最中に亡くなったとされています」
「……そんな」
「ルリアーナ様にも妹さんがいらっしゃいますよね?その妹さんも同じ高校に通っていたはずです。そして犯人が狙っていたのは妹さんの方でした」
アデルはそう言うと目に涙を溜めてルリアーナを見る。
「妹さんの名前は野田美波」
そしてつうっと涙を流すと、
「彼女は私の、親友でした」
今まで気づかなくてごめんなさい、と言ってアデルは深くルリアーナに頭を下げた。
アデル自身はルリアーナの前世である芽衣子とは面識がなかった。
だからそれは無理もないことであり謝罪の必要などないのだが、この時のアデルは何故か謝らずにはいられなかったのだ。
「……間違っていたらごめんなさい。美波の親友ってことは、貴女は秋奈ちゃんかしら?」
ルリアーナの方も突然知らされた前世の繋がりに面を喰らい、なんと言っていいのかわからなくなった。
そのため咄嗟に浮かんだ、妹の話によく出てきていたアデルの前世らしき人物の名前を口にする。
そしてそれはアデルの回答によって肯定された。
「そうです。石橋秋奈。それが私の前世の名前です」
こうしてここにいる4人の奇妙とも言える前世の繋がりが発覚した。
イザベルの記憶を取り戻すだけのつもりだったが、予期せぬ事実の連続に、4人は漠然とこれが偶然ではないと感じ始めていた。
もしかしたらこの世界に転生した人物は、全員あの事件と関係があるのではないか。
それをはっきりさせるためにも、ここで一度情報を整理しておいた方がいいかもしれない。
「……一度今わかっていることをまとめて、リスト化しましょうか」
そう言ったルリアーナは部屋に置いてあったメモ紙とペンを持ち、これまでに判明したことをさらさらと書き始めた。
君となの登場人物に転生してきた人一覧
・君とな無印
ヒロイン:シャーリー…転生者。今はルカリオを追ってクローヴィア?
悪役令嬢:イザベル/中村鈴華…転生者(ストーカー事件被害者)ハーティア
・君とな2
ヒロイン:カロン…転生者?処刑済み
悪役令嬢:ルリアーナ/野田芽衣子…転生者(ストーカー事件被害者)ディア
・君とな3
ヒロイン:リーネ/中村美涼…転生者(ストーカー事件関係者)スペーディア
悪役令嬢:アナスタシア…不明
・君とな4
ヒロイン:ルナ…転生者。多分クローヴィア
悪役令嬢:アデル/石橋秋奈…転生者(ストーカー事件被害者)クローヴィア
「うん、こんなもんか」
シリーズ毎のヒロインと悪役令嬢の転生者か否かと現在地を書き込み、ルリアーナは「どう?」と4人にそれを見せる。
なお、男性陣2人は暇だということでルリアーナがメモを書いている間に王宮探検に出掛けた。
「はい」
リストを見ていたアデルが授業中のように手を挙げて発言の許可を求める。
「ルナが転生者ってなってますけど、そうなんですか?」
自分が関わっていた人物の横にあったその文字にアデルは驚いていた。
そして自分が知らないことをルリアーナが知っていたことにも。
「ああ、言ってなかったかしら?」
ルリアーナはそういえば言った記憶がないと苦笑し、アデルに頷いて見せる。
「アデルちゃんの話を聞いた時、この子も転生者だって気がついたの。だからライカ様の魅了を解いた後に私はルナに忠告しに行ったわけ」
「そうだったんですか…」
ルリアーナの話にアデルは「ほえー」と感嘆ともつかない声を漏らし、再びリストを見る。
「あの、カロン、さん?『処刑済み』ってなってますけど…」
イザベルはこれ聞いてもいいのかなという顔で、恐る恐るカロンの名前を指差す。
自分が経験した『国外追放』よりも重い罰を与えられた人がいたことに驚いたのだろう。
「ああ、カロンは多分、転生者だったんだと思う。私が転生した君とな2ってびっくりするくらい簡単に全員を攻略できちゃうから、逆ハーエンドでも試してみようと思ったんじゃない?でも、巻き込まれないようにしてた私に冤罪着せようとしたから断罪返ししたんだけど、そのせいで処刑されちゃった」
てへ、ルリアーナ失敗☆
ルリアーナはそう言ってわざとらしいほどおどけて見せる。
それはイザベルに気を遣わせないための配慮だったが、実際さほど惜しいとも思っていなかったことも大きい。
「…私は自分がヒロインだったと知った時にも驚いたけど、悪役令嬢がアナスタシア様だってことにもびっくりしてるわ」
リーネの方はリストに書かれた悪役令嬢の名前に驚いていた。
アデルのお陰で判明した君とな3の悪役令嬢だが、リーネには信じられないことだった。
「どちらかというとグレース様の方がそれっぽかったのに」
「ってことは転生者の可能性が高いわね。具体的に聞いてもいい?」
リーネの証言に、ゲームシナリオと異なる動きをする者は記憶がなくても転生者である可能性が高いと考えていたルリアーナは彼女に詳細を求める。
「えっと、アナスタシア様はスペーディアの王子ガイラス様の婚約者で、でも王子には全く興味がなさそうな感じで必要最低限の交流しか持たない、いつもつまらなそうな目をした人だったわ」
「つまらなそう?」
顎に人差し指を当てて記憶を呼び起こすリーネの言葉に早速引っ掛かりを感じ、ルリアーナはその言葉を繰り返した。
「うん。でも王子はアナスタシア様が好きで、生徒会室ではいつもどうしたら彼女に振り向いてもらえるかって話ばっかりだった」
「……王子は、婚約者なのでは?」
リーネは首肯を返しながら続きを話したが、今度はアデルの呟きに「そうなんだけどね」と苦笑を返す。
「彼は好きでもない相手と政略結婚させられるのは可哀そうだから、少しでも好きになってもらいたいって必死だったの」
王子、いい人過ぎるでしょ?と呆れ混じりに言い苦笑を深めた。
「でも結局彼女の態度はあまり変わらなかった。だから最後の賭けとして彼に婚約破棄するって言ってみたら?って言ったの」
「え?なんで?」
「いや、そう言ったら彼女の反応で王子のことどう思ってるかわかるかなって。そしたら彼女、あっさり同意して、あろうことか私との未来を応援するって言い出したの」
「……ああー、そりゃ理由はどうあれ王子と親しくしてたらそう思うか…」
「そうなのよ。で、アナスタシア様は婚約破棄されたと思って今は領地でのんびり過ごしているらしいわ。実際は破棄されていないけど…」
「なるほど」
一通り話を聞き終え、ルリアーナはアナスタシアの横の『不明』を二重線で消し、『転生者?』と書き換え、現在地として『スペーディア』と記した。
「…まあ、今わかってるのはこんなとこか」
ルリアーナは改めてリストを眺める。
そして「よし」と頷くと、
「話を聞きたい人の内2人がクローヴィアにいるっぽいし、行って話を聞いてきましょうか」
話を聞きたい2人、シャーリーとルナも何か知っているかもしれないと考えたルリアーナは話を聞くためクローヴィアへ向かうことを決めた。
読了ありがとうございました。