ひったくり
「ひったくり」
私は田舎から大学入学を期に上京してきた女子大生。まだ東京には慣れていないし、不安なことが沢山ある。想像していたキャンパスライフとは程遠く、勉強にバイトと毎日忙しい日々を過ごしている。最近では、自宅と大学、バイト先、近所のコンビニを行き来する生活だ。何か人生がパッと明るくなるようなことが起きないか、そう思いを馳せながら過ごす毎日だった。
バイトが終わり、最終電車に乗るため私は急いでいた。私と同じように最終電車に乗ろうとする人が道を歩いている。それは駅に近づくにつれて増えていった。私は、毎日この道を歩いていたから近所の人にしか分からないようなマイナーな近道を知っていた。しめしめと周りの人を横目にその道へ入っていった。いつもは人通りがほとんど無いその道も、金曜日の夜だからだろうか私の他に男性が1人歩いていた。私と男性の足音が響いている。東京で孤独を感じていた私には、その足音が並んで一緒に歩いているように思えて安心した。その瞬間、私の右肩に大きな衝撃が走った。ひったくりだ。相手は自転車に乗っている。
「誰かその人止めて!!!!」
誰かって、この道には私とひったくり犯、それに男性が1人しかいないのに、とっさに口走ったのはいいものの無駄な抵抗だと私は思った。すると、少し先を歩いていた男性が手馴れた様子で自転車を止めひったくり犯を捕まえたのだ。
「おい、こんな道を女が1人であるくんじゃねぇよ!!!!!!!!!!」
え?なんで、怒られて、、、。さっきまで私を安心させてくれていた足音の持ち主はどこへ行ったのか疑うほどの威圧感だ。
「ご、ごめんなさい。」
「謝らなくていい、気をつけろって言ってんだ。」
「その、ありがとうございます。」
「礼はいい。仕事のうちだ。こいつの始末は俺がしておくから、一応何があったかだけ署に行って話してもらってもいいか?今仲間が来るから。」
私は、彼に言われるがまま警察署にいって話をした。彼は警察官だった。
「大丈夫か?」
「は、はい。」
「終電逃しちまったよな、送るから乗ってよ。」
「え?」
「だから、家まで送るから乗ってけって言ってんだよ」
動揺で頭が混乱している私は言われるがまま車に乗り、送ってもらった。言葉遣いは荒いけれど何故かそれが優しく感じた。
「ありがとうございました。おやすみなさい。」
「おう。またなんかあったら連絡しろよ、」
そう言って無理やりちぎったようなメモ用紙に急いで書いた電話番号、それを渡して彼は行ってしまった。
さっき会った知らない人に連絡先渡すなんて、変わった人だな…。まぁいっか。今日は疲れた早く寝よ!
1話fin