表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の手毬 (月星雪✻②✻) 中巻  作者: YUQARI
第六章 策略
35/40

大きなイチョウの木の上で。

 玉兎(ぎょくと)たちの隠れ家は、京の都の北はずれにある山の中だ。

 目指す中務省(なかつかさしょう)は、そこからさほど離れていなかった。四人は山を駆け下りると、都の外にある大きなイチョウの木に、ひとまず身を隠した。


『さて、どうしたものかな……』

 鉄鼠(てっそ)が唸った。

『まず、玉兎(ぎょくと)。お前はここに残れ』

 言葉は静かだったが、口調は厳しい。


 それもそのはず、ただ山を下りるだけなのに、玉兎(ぎょくと)は駆けるどころか歩むことすら出来ず、今、狐丸の背におぶされているのだった。


 鉄鼠(てっそ)の言葉に、玉兎(ぎょくと)はグッと言葉を呑む。


 本当は、《嫌だ!》と言いたいのだろう。

 けれど、今の玉兎(ぎょくと)では、明らかに足を引っ張ってしまう。

 耳を切なげに垂らし、狐丸の背に顔を押し付けた。

『……。分かりました。……狐丸さま、私はここで待ってますから、必ず帰って来てくださいね……』

 力なく呟く。


 そんな玉兎(ぎょくと)が可哀想だったが、今から行こうとしているのは、都の中枢部。その中には玉兎(ぎょくと)たち妖怪の宿敵である、陰陽師たちの本拠地《陰陽寮》がある。


 いくら澄真(すみざね)が、玉兎(ぎょくと)たちを助けてくれたからと言って、今回もそうであるとは限らないし、ましてや、他の陰陽師に見つかってしまえば、それで終わりなのである。


 ……もちろんそれは、狐丸でも例外ではない。


 さきほどの鉄鼠(てっそ)の話で、痛いほどに理解した。澄真(すみざね)はやはり陰陽師以外の何者でもないのである。


 狐丸は、ゆっくり口を開く。

玉兎(ぎょくと)。ありがとう……心配してくれて……」

『……狐丸さま』

 玉兎(ぎょくと)の声が、微かに震えている。


 本当は、一緒に行きたいのに違いない。しかし玉兎(ぎょくと)は、それをグッと堪えている。

 我慢する玉兎(ぎょくと)を見て、狐丸は今までの自分を少し反省する。

 思えばいつも、我儘(わがまま)を言っていたように思う……。


「僕ね、玉兎(ぎょくと)が羨ましい。……ずっと僕は一人だったから、仲間がいるっていいよね……!」

 少し悲しげに笑う。


 玉兎(ぎょくと)に仲間がいるのは、きっと相手を思いやる心があるからだ。

 人を思いやるとは、時として自分を殺さなければいけない時がある。


 普通、妖怪はそんなモノ持ち合わせていない。だからこそ、大抵のものは一人で行動する。

 一人であるが故に孤独だ。


 狐丸は、その孤独が嫌だった。




 ──誰かと一緒にいたい……。




 今までずっと悲しかったのは、多分そばにいる()()を感じなかったから。

 そして、その()()を求めるのなら、相手を思いやることだと狐丸は思った。


(……多分、それは今だ)


 いつも我儘を言っていた自分を振り返る。

 澄真(すみざね)は、自分の知らないところで、自分の為に動いていてくれていた。まずは、そんな澄真(すみざね)に、心配をかけてはいけない。


 狐丸は、少し目を伏せた。


 一人ぼっちだった自分に、ずっと傍にいてくれると言った澄真(すみざね)の顔が浮かぶ。

 そんな事がある訳がないと、最初は突っぱねたが、澄真(すみざね)は諦めなかった。

 諦めずに、仮契約をしてくれた。


(……でも、()()は意味が分かっていないはずだから)

 狐丸は頭を振る。


 勘違いをしてはいけない。自分は一人なのだからと……。



『な……なにを言いますのやら……!』


 半ば諦めた時に、そんな声が聞こえた。

「!」

 狐丸は驚いて、顔を上げる。

 声の主は姮娥(こうが)だった。


 《一人だった》と言う狐丸の言葉に、意を唱えたのだった。


 気落ちした狐丸に気づいたのだろう。姮娥(こうが)もまた、思いやっての事だと、狐丸は感じた。

 妖怪にそのような感情があるのが、狐丸には何だか可笑しかった。


『狐丸さまも、我々にとっては大切なお方! そのような悲しいことを仰せにならないでください』


「……姮娥(こうが)

 狐丸は少し驚きながら、ふふふと笑う。こんな自分を気遣ってくれる事が、何だか嬉しかった。


(……だけど、それも上辺だけだ)

 狐丸は思う。


 昨日今日出会ったばかりのモノに、心を許すわけがない。自惚れてはいけない。

 心配そうに狐丸の顔色を窺う姮娥(こうが)に、少し悲しげな目を向けて、狐丸は小さく呟いた。


「うん。そうだね……」



 狐丸が欲しいのは、()()()()()()()()()()……。


 この三人は、確かに狐丸に対して、親切にしてくれる。

 けれど、それだけだ。

 《仲間》ではない。



(仲間って、なんなの……?)

 狐丸は、ふと思う。


 三人の関係は、ひどく羨ましい。

 その関係が《仲間》なのだとは分かる。

 けれど狐丸は、その中には入れない。


 《入れて》と言えば、三人のことだ。入れてくれるハズだ。


 だが、それは()()()()()()だけで()()()()()()()()()()()()


「……」

 澄真(すみざね)との関係も、本当は()()と同じなのかも知れない。


(敦康(あつやす)って人に、命じられたと言ってたし……)

 自分の意思ではなく、仕方なく傍にいてくれるのかも知れない。

(だから、わけの分からない仮契約の事を話に出したんだ……)

 人である澄真(すみざね)が、あんなの承諾なんてするハズがない。


 そんな風に思いながら狐丸は、ぼんやりと澄真(すみざね)がいるだろうと思われる建物を見た。


 そこは大きな建物が混在していて、何が何だかよく分からなかった。

 その、何が何だか分からない所に今、澄真(すみざね)がいる。


 そして、そこに()()ということは、狐丸の()()()()ということに他ならない。


(……()であるなら、仲間にはなれないじゃないか……)

 狐丸は、小さく溜め息をつく。

 どう足掻いても、澄真(すみざね)は狐丸の()()陰陽師なのである。


 相容れぬ者同士なのだと言うことを痛感して、狐丸の心は複雑だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど。ロミジュリですか。 [気になる点] 狐丸は、まだ幼くて、恋愛と友情の区別がついていない?
[良い点] 35/35 ・狐さんが悩んでいらっしゃる。  ショタショタ [気になる点] くそう。勘違いしおって [一言] うわあ、この、この、なんでしょうね、この
2021/07/07 07:05 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ