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月の手毬 (月星雪✻②✻) 中巻  作者: YUQARI
第六章 策略
33/40

人形

『しかし、よくまぁあの状況で、無事でしたなぁ』

 鉄鼠(てっそ)が感嘆の声をあげる。


 狐丸の背から飛び降りると、ポン! と軽い音を立てて、元の牛サイズのネズミになった。

 ぎしっと、東屋が揺れた。


 大きくなった鉄鼠(てっそ)を見て、狐丸は目を見張る。


『うわ! 凄い!! みんな自由自在に大きさを変えられるんだね』

 驚く狐丸に、玉兎(ぎょくと)がクスクスと笑う。


『何をおっしゃるのですか。大きさを変えるよりも、人形(ひとがた)をとる方が難しいのですよ』

『え? そうなの……?』

 狐丸は、キョトンと返した。


『それはそうですよ! (わし)などは、未だに人形(ひとがた)はとれませぬゆえ……』

 鉄鼠(てっそ)が細い指で頭を搔きながら、困った顔をする。


『ふふ。何を言うかと思えば……』

 玉兎(ぎょくと)が笑う。

鉄鼠(てっそ)はそもそも人形(ひとがた)になろうなどとは、思っていないでしょう……!?』

 うふふふふ。と手を口に当てて玉兎(ぎよくと)が笑う。



 鉄鼠(てっそ)は、それほど人間に執着していない。


 ネズミである己に誇りを持っているし、人に変化(へんげ)しなくとも、ネズミである限り、今の世の中では十分やっていける。

『そう……だな。違いない……!』

 鉄鼠(てっそ)もガハハと笑った。


 そんなみんなの様子を見て、姮娥(こうが)も困ったように微笑んだ。



 姮娥(こうが)玉兎(ぎょくと)も、そして鉄鼠(てっそ)も、狐丸が人形(ひとがた)をとれることを知っている。


 知っているが、その裏に秘められた()()に気づいているのは、姮娥(こうが)だけだろう。

 その()()が、姮娥(こうが)を底知れぬ恐怖に陥れる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 鉄鼠(てっそ)人形(ひとがた)をとろうとは鼻から思っていない。

 玉兎(ぎょくと)は興味を持っていた時期もあったが、難しいと言って、今は諦めている。

 ()()()気づかないのだ。


「……」

 姮娥(こうが)は、初めて狐丸を見た()()()を思い出し、青くなる。

 初めて出会った時、狐丸は人の姿をしていた。


 完璧な姿ではなかった。

 所々、妖怪の本性が漏れていた。


「……っ、」

 おそらく玉兎(ぎょくと)は、その事実を《人形(ひとがた)をとるのが難しいから》とでも思ったのに違いない。


(……あれは、違う)

 姮娥(こうが)は、唸る。


 思い出しても、鳥肌が立つ。

 気づかれないように、姮娥(こうが)はそっと、自分の腕をさすった。


 あの時狐丸は、人形(ひとがた)であったのにも関わらず、信じられないほどの濃い瘴気を放ち、その身に青い鬼火を纏っていた。


 もともと天女であった姮娥(こうが)にとって、人形(ひとがた)をとるのは造作もないことなのだが、普通の妖怪は違う。


 多くの妖力を必要とするために、人形(ひとがた)になってもなお、鬼火を纏えるものはそう多くはない。


 しかし狐丸は、当たり前のように鬼火を纏い、地を蹴って追いかけてきたのだ。

 途中、何に怒ったのか、人形(ひとがた)を放棄し、本性をさらけ出しはしたが……。



 思い出して、姮娥(こうが)はブルっと震える。

(あんな妖気を、並の妖狐が纏えるものか……)


 あの狐丸を見て、逃げ出さない者などいるわけがない。

(現に、あの場にいた陰陽師すら、逃げ出したではないか……。)

 姮娥(こうが)はそっと玉兎(ぎょくと)を見る。


 もしかしたら、とんでもないモノと知り合ったのかも知れない。

「……」

 しかし、それを玉兎(ぎょくと)に伝えるのは(はばか)れた。



『ふふ。でも良かったです。こうしてまた狐丸さまにお会い出来ましたから……』

 玉兎(ぎょくと)は笑う。

 心からホッとした微笑みだった。


 姮娥(こうが)はそれを見て、小さく溜め息をつく。

(……しかしそれも、(わたくし)の杞憂かも知れない……)

 そう思い、微笑む。


「陰陽師が目の前に現れた時は、驚きもしましたが、まさか屋敷に招き入れられるなど、思いもよりませんでしたわ」

 姮娥(こうが)は続ける。

「絶対、祓われる! と覚悟したのですよ……」


 その言葉に玉兎(ぎょくと)が耳を伏せる。

『あれは……私が助けを求めてしまったんですよ……』

「え……?」

 姮娥(こうが)は驚いて、玉兎(ぎょくと)を見た。


 玉兎(ぎょくと)は、しゅん……と耳を伏せ、上目遣いで狐丸を見る。

『あ、……あの時は、本当に申し訳ございません。……その、ひどく……狐丸さまが、怖くて……』

 言いながら手をモジモジと動かす。

『目の前に陰陽師が現れたので、……その。……陰陽師ならば、この場を丸く収めてくれるのではと……』



 実際、言葉にして助けを求めた訳ではない。


 玉兎(ぎょくと)は助けて欲しいと言ったふうな顔を、澄真(すみざね)に向けただけだ。

 当然相手は陰陽師。下手をすれば、祓われていたかも知れない。

 しかし、あの時、そんな事を考えるような思考は飛んでいた。


 追いかけられている恐怖が上回り、藁をもすがる思いで無意識のうちにやってしまった事だった。


 しかし、それを聞いて鉄鼠(てっそ)は青くなる。


『なっ! 玉兎(ぎょくと)! あれほど人に頼るなと、言っておっただろう? お主は世間知らずもいいところだ! 陰陽師は特に危険なんだ! 相手が良かったからいいようなものの、下手をすれば祓われていたのだぞ!!』


 叱られて、玉兎(ぎょくと)は更に小さくなる。鉄鼠(てっそ)の言っていることは正しい。


『ご、ごめんなさい……』


 泣きそうな声を出す玉兎(ぎょくと)が可愛そうになり、狐丸は思わず助け舟を出す。

『で、でも、こうして無事だったんだから、……次は気をつければ……ね?』

 スリスリと玉兎(ぎょくと)に頬ずりしながら、狐丸が(なだ)める。

『はい……! 申し訳ございません』

 玉兎(ぎょくと)は素直に、狐丸に身を寄せる。


『ふふ。でも、相手が澄真(すみざね)で良かった』

 狐丸は、微笑む。


澄真(すみざね)……? と言うのですか? あの陰陽師は……」

 姮娥(こうが)が顔をあげた。


 あの時の陰陽師は、こう言っていた。





 ──「何をして、狐丸を怒らせた?」




 話しぶりからして、狐丸の知り合いであることは、間違いない。

 しかし結果的には攻撃を仕掛け、追い込んだのも、その陰陽師なのではないだろうか?

 あの場のあの惨状だ。結局仲違いしたのだと思い込んでいた。


(万が一、仲違いしているなら、言葉に気をつけないと……)


 そう危惧していたが、今の口ぶりだと、そうではないかもしれない。

 少し、カマをかけようと、澄真(すみざね)のことに話を振った。


『うん。澄真(すみざね)とは最近知り合ったんだけどね。良い奴だよ!』

 狐丸は、にこにこと微笑んで答えた。


(《良い奴》……か。ならば、関係はよいのか……)

 姮娥(こうが)は、少しホッとする。

 仲違いしていないのなら、言葉に気遣うこともないだろう。


 そうホッとしたのも、ほんの少しの間だけだった。

 その言葉に鉄鼠(てっそ)が、噛み付いたのだ。


『《澄真(すみざね)》!? 今朝のあの陰陽師でありまするか!?』

 物凄い剣幕で、まくし立てた。


 姮娥(こうが)はギョッとなる。

「て、鉄鼠(てっそ)……!」

 青くなりながら、抑えようとするが、鉄鼠(てっそ)は黙らない。


『あの澄真(すみざね)と言う陰陽師に、今朝方(わし)は、祓われそうになった! ……こう、護符を向けられてな……』

 言いながら、護符を構える真似をする。


『あの時の、あやつの顔ときたら……! 黄泉の亡者ですら逃げる勢いの冷たさであったぞ!!……ゴフ。……こ、姮娥(こうが)、何をする……』


「……」

 姮娥(こうが)は、小さく《バカ!》と唸り、頭を抱えた。

 出来るだけ、狐丸の機嫌を損ねたくなかった。


 肘で思いっきり鉄鼠(てっそ)の、横腹目掛けて突きを入れ、狐丸の様子を窺った。


 けれど、狐丸は面白そうに笑う。


『ふふ。だって、鉄鼠(てっそ)。あそこは蒼人(あおと)の屋敷だよ? 澄真(すみざね)の知人の家で、代々陰陽師をしている。護りは完璧なのに、そこに入り込もうとチョロチョロしてるんだもん。僕だって気になったさ……!』

 その言葉に鉄鼠(てっそ)は、目を丸くする。


『え……? もしかして、ずっと見て……?』

 鉄鼠(てっそ)は驚く。


 長年、隠密業を得意として生きていた。背後を取られたことなど一度もない。そこは古参の妖怪としての、自負がある。


 それが、やすやすと背後を取られ、しかもその事に気づかなかったとなると、それは一生の不覚と言うべきものだった。


 鉄鼠(てっそ)は思わず黙り込む。


 しかし狐丸は、そんな事とは知らず、笑って返事する。


『うん。ずっと見てた。……ふふふ。玉兎(ぎょくと)鉄鼠(てっそ)ってね、面白いんだよ? しっぽを踏まれたのに、全く気づかないの……! もうね、全部踏まれてたんだよ? 見ている僕の方が痛かったんだから……!』

 カラカラと笑う。

『なに? 鉄鼠(てっそ)、そんな事になっていたんですか?』

 ふふふと玉兎(ぎょくと)も笑う。


『あ……あは、あはははは……』

 鉄鼠(てっそ)も、乾いた笑い返しながら、チラリと姮娥(こうが)を見た。


「……」

 姮娥(こうが)は、笑っていない。狐丸の異様さは、さきほどから痛いほどに気づいていたのである。

 むしろ、鉄鼠(てっそ)が、その事に気づいた素振りを見せ、ホッとしていた。


 姮娥(こうが)鉄鼠(てっそ)に、苦笑いを向ける。

『……』


 鉄鼠(てっそ)は悟る。

 何故、さきほど姮娥(こうが)が肘鉄を、お見舞いしてくれたのか。

 鉄鼠(てっそ)の笑いが固まる。


 《……やばい》

 基本鈍い鉄鼠(てっそ)が青くなる。


 《ただの妖狐じゃない……》

 疑惑は確信へと変わり、ゴクリと唾を飲み込んだ。

鉄鼠は、背後にいるものの気配は分かるのです。

が、今回しっぽには気を使ってなかったので、

踏まれたのに気づかなかった……


という事にしておいて下さい。(;A;)



しっぽ踏まれないと面白くないじゃなーい?

人がいるのは知ってたの!

しっぽがどこかは、気にしてなかったの!

しっぽに神経通ってなかったの!


……。はい。YUQARIの言い訳でしたm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] お、狐丸と澄真いい感じですね。これ、狐丸が攻めで澄真が受けってことですか? ショタ攻めなかなか。と、見せて逆?  [気になる点] タイトルですが「にんぎょう」と読めてしまうので()で振り仮…
[良い点] 33/33 ・やべえですね。  ようやく狐が、ニヤリ! [気になる点] 隠密のプロの裏をとる、やばいですよ。 [一言] ネズミさんかわいいかも
2021/07/01 00:31 退会済み
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