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月の手毬 (月星雪✻②✻) 中巻  作者: YUQARI
第一章 風神雷神
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雷神と白狐

 そもそも、本来なら《弓鬼(きゅうき)》など使わない。


 確かに速さと命中率、それに長距離戦には向いている。

 けれどその分、体力を消耗する。


 万が一当たらなかった時には、狙った妖怪の反撃のチャンスとなり、それは術者の死をも意味する。


 実用には向いていない。


 けれど、蒼人(あおと)の使ったのは《雷神》。


 《雷神》は神鬼の中でも高位にあたる。

 なので簡単には消えない。


 狙った獲物が捕まるか、時が過ぎるのを待つかしかない。

 しかしだからこそ、術者である蒼人(あおと)も、これ以上の攻撃は無理だろう。


 澄真(すみざね)の視界の端で、蒼人(あおと)が片膝を付くのが見えた。

「っ!」


 けれど、それどころではない!


 蒼人(あおと)の放った雷神が、狐丸に迫る!


「……っ」

 ひゅっと澄真(すみざね)の喉が鳴る。

(もう……ダメ、か……っ!?)


 澄真(すみざね)が諦めかけたその時、




 ──ぽんっ!




「!」

 軽い音を立てて、狐丸が人形(ひとがた)を取ったのである。




 ──シュンッ……!



 雷神が狐丸をかすめ、向かいの木に当たる。




 ──カッ! バリバリバリィ……!




 ボッと音が立ち、木が燃え上がる。


「狐丸……っ」

 泣きそうになりながら、澄真(すみざね)は狐丸を抱きとめる。


 が、かなり勢いがのっている。

 簡単に、抱きとめられるわけがない。




 ──ズザザッ……!




「……っ!」


 けれど澄真(すみざね)も、せっかく捕まえた狐丸を離すわけにはいかない。

 必死になって、狐丸を胸に抱きしめながら、地を転がった。



「ぐぅっ……」

 呻きながらも、狐丸を衝撃から守る。




 ──ザザザッ……。




 砂ぼこりが舞う。


 勢いが完全になくなってから、澄真(すみざね)は、腕の中の狐丸を覗き見た。


「狐丸……。狐丸! 狐丸っ!」


 必死に呼びかけるが、反応がない。

 気絶しているようだ。


「……っ」

 無理もない。


 本来弓鬼(きゅうき)とは、弦を(はじ)いて妖怪や悪鬼の行動を封じるものである。


 妖力の多い狐丸では役に立たないだろうが、今は状況が違う。

 手負いの狐丸には、抗い切れなかったのだろう。


 鉄にも似た、血液の匂いが澄真(すみざね)の鼻をついた。

 ねっとりとした血液が、手に絡みついてくる。


「狐丸……っ」


 澄真(すみざね)は、その名を呼びながら、強く抱きしめた。

 微かだが、鼓動を感じる。


 気を失っているようだが、息はあるようだ。

 ホッとして、その髪に頬を寄せた。



 しかし、安心してはいられない。


 相手は雷神なのである。

 あのまま、消える訳がない。


 次の攻撃に備えなければ、今度は狐丸だけでなく、澄真(すみざね)の命まで危うくなる。


「狐丸……っ」



 澄真(すみざね)は、気を失った狐丸を着物の袖に包み隠す。


 澄真(すみざね)の着ている着物は、陰陽師特有の衣である。

 当然、妖怪や神鬼に対して、目くらましの術が施されている。


(これで、暫くは持つはずだ……)



 雷神の目をごまかす為に、狐丸の髪の毛を数本もらおうとして、手を止めた。

「……っ」


 べっとりと張り付いた血液で、髪の毛を引き抜くのが躊躇(ためら)われたのだ。

(これで代用するほか、ないか……)


 思いながら、流れ出る狐丸の血液をすくい取り、空に撒く。

「具現化せよっ!」


 途端に、血液の飛沫(しぶき)は白狐と化す!

 



 ──ケーン……!




 高い鳴き声を上げながら、数匹の具現化した細長い白狐たちは、四方に散る。




 ──ぐがあぁぁあぁぁ!!



 鬼の厳つい顔を更に怒らせ、雷神が唸る。


「!」


 腹の底に響きそうな唸り声に、澄真(すみざね)の肝が冷える。

(……っ、あんなのと、やり合うのか!?)


 雷神は、澄真(すみざね)の袖に隠された狐丸には気づかず、具現化された白狐たちを追いかけ始めた。


 雷の化身である雷神もさることながら、具現化された白狐たちも、驚くほど速い。

 なかなか捕まらずに、雷神は焦れて、落雷を落とす!




 ──ピシャッ! ゴロゴロゴロゴロ……!



 ──ガラガラガラ!



 ──バリバリバリィ……!




(今の、うちに……)

 澄真(すみざね)は、懐から護符を出す。


(あ……)


 手についた狐丸の血液が、護符に染み込む。

(しまった……)


 しかし、手をこまねいている場合ではない。

 具現化された狐たちが、捕まり始めたのである。

「……っ、仕方がない」


急急(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)!」


 言いながら、召喚する相手を選ぶ。


 向こうは雷神である。

 それに見合った鬼神を出さなければ、せっかくの具現化された白狐たちの苦労が泡と消える。


 澄真(すみざね)は、目を見開く。


「《風神》! 我らを守れ!」




 ──ぶわっ……!!




 一陣の風が吹く。


 現れたのは、異国の衣を纏った、たおやかな天女。


 ふわりと風になびく、淡い色の衣をまとい、七色に輝く羽衣を手にしている。

 右手には花の刺繍が施された、丸団扇を持ち、優雅に微笑んでいる。


「な……っ」


 澄真(すみざね)は、目を見開く。

(失敗、か……!?)


 呼び出したはずの風神は、雷神と対になる鬼神だ。


 見た目も同じはずなのだが、今、目の前に現れた風神は、全く別物。

 別物どころか、戦えるのかすら怪しい。



「……っ」

 澄真(すみざね)は思わず、息を飲む。


 今の今まで、失敗した事などない。


 何が起こったのか、理解出来ずに、激しく動揺する。


 その動揺を悟ったのか、見目麗しいその天女は、面白そうに(あで)やかに笑ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人の姿に戻って回避は、面白い。 [気になる点] またまた、続く!! これわぁ〜。
[良い点] 3/3 ・やべ。ハプニングですよ [気になる点] 誰だ、誰だその天女、まさか作者? [一言] うーむ。カッコいい。セリフというか掛け声というか。さすがです
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