表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の手毬 (月星雪✻②✻) 中巻  作者: YUQARI
第五章 企て
24/40

鉄鼠

 《ん……? あれは……》


 狐丸は蒼人(あおと)の屋敷を出てすぐに、妖怪の気配を察知し、近くの木に身を隠した。


 気配がしないように、そろりそろりと覗く。


 《あれは……ネズミ?》

 相手はネズミのようだ。



 結構、禍々しい気配をまとわりつかせているが、見た目は小さい。

 普通のネズミより、少し小さいのではないだろうか?


 上手い具合に周りに溶け込み、気をつけていなければ、見逃すところだった。


 しかし気配が特殊なので、妖怪が変化(へんげ)しているのは、ひと目見て分かった。


 《屋敷の様子を窺ってる……?》



 どうやらネズミは、蒼人(あおと)の屋敷を探っているようだった。


 チョロチョロと行ったり来たりしつつ、中を見ようと必死になっている。


『ふふ……』

 狐丸は思わず笑う。


 《あんな事をしても、見れるわけないのに》

 可笑しくて、目を細めた。



 蒼人(あおと)は陰陽師の家系だ。

 澄真(すみざね)の家と違って、屋敷の周りは常に結界で覆われている。


 たとえ、飛び上がって塀の上に登れたとしても、中は見えない。

 そういう仕組みになっている。


 《小物の妖怪なら入れるだろうけど、()()では無理だ》


 両腕に頭をちょこんと乗せて、狐丸はネズミ……変化(へんげ)した鉄鼠(てっそ)を見た。


 《結構、古参の妖怪みたいだ。……そのうえ……》


 ほんのり玉兎(ぎょくと)の匂いがした。

 狐丸は、眉をしかめる。


 《玉兎(ぎょくと)の知り合い……? それとも……》

 ()めつけるように、そのネズミを見下ろす。



 玉兎(ぎょくと)は、古参の妖怪ではあるが、力は弱かった。


 新参者の狐丸ですら、見ただけで分かる。

 今まで何事もなく生きてこられたのが不思議なくらい、儚げで消えてしまいそうな存在だ。


 とにかく他の妖怪から逃げて、逃げて、生き延びてきたのに違いない。

 足の速さだけ見れば、驚くほど速かった。



『……』


 もしかしたら、知り合いかも知れない……と狐丸は思い、しばらくの間ネズミの様子を窺うことにした。


 ネズミはしきりに、塀の向こうを見ようと頑張っていた。が、どんなに頑張っても覗くことは無理だと気がついたのだろう。


 ネズミは半ば諦め、頭を項垂れながらチョロチョロ、チョロチョロと動き回り、今度は塀の隙間を探し始める。



 チョロチョロ……チョロチョロ……。



 探すが、隙間は見つからない。


 それもそのはず、蒼人(あおと)はマメな性格だ。

 時折屋敷を巡っては、点検をしているのである。


 そこのところは、抜かりはない。


 そうこうしているうちに、ネズミはフラフラ~と、門にたどり着く。

 特殊な気配のために、門番は気づかない。


 それをいい事に、ネズミは門番の足元をウロチョロしている。

 いったい、何がしたいのか……。


 すると、突然!

 不意に動いた門番に踏まれそうになる!


『!?』

 《うわ……! 踏まれる!?》

 覗き見ながら、狐丸はドキッとする。


『ひっ……!』

 思わず小さく悲鳴をあげ、毛並みを逆立たせた。



 幸いにも、踏まれたのはしっぽだった。

 長く伸ばしていたしっぽを、根元からガッツリ踏まれた。


『……っ!』


 狐丸はビクッと身震いすると、自分のしっぽを丸めた。

 ギュッと二本のしっぽを抱きしめる。


 《……あれは、絶対……痛い……っ》


 あれだけ見事に踏まれれば、飛び上がって痛がるに違いない。

 顔をしかめて、恐る恐るネズミを見た。


 けれど、予想に反して、ネズミは痛がらない。

 どうやら、踏まれたことに気づいていないようだ……。


 《……な、……鈍感なの……?》

 狐丸は目を細める。


 踏まれた本人より、見てる自分が痛がるとかって、どうなんだ……。と、狐丸は唸った。


 見ている狐丸の方が、ビクビクとしているのに、当のネズミはいたって平気そうである。相変わらず隙間はないか……とキョロキョロしている。


 場所を移動しよう……! とでも思ったのだろう。ネズミは不意に腰をあげた。


 けれど前には進まない。

 しっぽを踏まれているから、当然である。


 いくら頑張っても前に進むことが出来ず、キョトンとしている。


 必死に進もう、とするのだが、何かに引っかかっているようだ。

 なんだよ……と言う表情で、自分のそのしっぽを見た。


 次の瞬間──!


『……? !? ウヂュー!!』


 自分のしっぽが踏まれている事に、ネズミはやっと気づいて、変な悲鳴をあげた。


 《は、反応……にぶ……っ》

 あまりの鈍感さに、狐丸は唸る。


 しかし悲鳴はかなり大きく、門番二人がビクッと肩を揺らした。


『……あ。これは、見つかるな』


 狐丸はもはや、呆れ返るしかない。

 眉をしかめ、黙ってネズミの様子を見た。


 悲鳴に気づいて、門番は驚いて飛び跳ねる。

「な、なんだ!? 今の音はっ!?」

「近かったぞ!? 地中に妖怪でも、いるのではないか!?」


 二人は一生懸命、地面を見渡し警戒した。

 しかし、見つけることが出来ない。


 《! へぇ……》

 狐丸は感心する。


 ネズミは特殊なその気配のおかげで、いつの間にか難を(のが)れ、近くの草陰に隠れようと、ワタワタと走っていたのである。


 ……足は、速くはない。むしろ、遅い。


 《……運がいいとしか、思えない》

 狐丸は頭を抱えたが、興味も湧いてきた。



 門番二人は、しきりと足元を探しはするものの、結局何も見つからなかった。


「……と、とにかく今日は気合いを入れて、門をお(まも)りするぞ……!」

「お、……おう!」

 ギラリと周りを睨みつけ、門を固めた。


 これでいよいよ、屋敷の中を見るのは難しくなる。


 しかし無事逃げおおせることが出来て、呆れ返りもしたが、内心狐丸はホッと胸を撫で下ろしていた。


 冷静を装ってはいるものの、心臓がバクバクと音を立てている。


 他人事なのに、見ていてハラハラした……。

 はぁ……と大きく息をつき、見つからなかった事にホッとした。


  どっと疲れが襲ってくる。

『……』


 ホッとしている自分に気づいて、狐丸は頭を振った。

 《いやいや、……なんで僕が、ホッとするの……》

 苦笑いしながら、再びネズミを覗き見た。


 当のネズミは(くさむら)に頭を突っ込んで、ぶるぶると震えている。


 《……ぶっ。いやいやいや……》

 狐丸は再び頭を抱える。


 隠れるのはいいのだが、それは頭だけ……。

 肝心の首から下は見事に丸見えで、クルリと丸めた長いしっぽが可愛かった。


『ぐふっ……。何してるの? アレ……』

 狐丸は顔を伏せ、思わず吹き出してしまう。


 玉兎(ぎょくと)の匂いをさせるくらいだ。

 おそらく玉兎(ぎょくと)と、何らかの関わりがあるのだろうとは思われる。


 だがあの様子では、玉兎(ぎょくと)に危害を加えるのは無理だ。

 もしかしたら逆に、尻に敷かれているかも知れない。


 ネズミはかなり……おマヌケだった。


 そう思うと可笑しくなって、狐丸は笑いを堪えるのに必死になった。


 《ダメダメ……笑ったりしたら、見つかってしまう……》

 ぷぷぷ……と、前足で鼻を押さえながら、必死に笑いを(こら)え、狐丸は肩を震わせる。




 ──ギギギギギ……。




『!』


 不意に、門の扉が開いた。


 狐丸はピクっと身を震わせ、体をあげる。

 誰かが屋敷から出てくる!


 門が開けば、そこの結界は一時的に弱くなるのは常識だ。

 弱くなれば、ネズミの妖怪もすり抜けられるだろう。


 屋敷に忍び込む、絶好の機会である。


 眉をひそめ、狐丸は唸った。

 《あいつ……忍び込む気じゃ……》


 どうやらネズミも同じことを思ったようだ、チョロチョロと(くさむら)から這い出して来て、屋敷の中に入ろうとした!


 《! あいつ……!》


 狐丸はグルル……と鼻にシワを寄せる。

 カッとなって立ち上がったが、門から出てきた人影を見て、気が変わる。


 出てきたのは、澄真(すみざね)だった。


 ハッとして、狐丸は再び木の影に身を伏せた。



 澄真(すみざね)は、陰陽師として力があると黒狐(こくこ)寺のみんながそう言っていた。


 《本当にそうか、試してやる……!》


 ニヤリと笑って、狐丸はしっぽをフリフリ、高みの見物ときめこんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] またしても、動物大行進! いいかも。 [気になる点] 扉が開くと結界が緩むという設定いいですね。どこかで、使いたい。
[良い点] 24/24 ・かわいい。ネズミ観察日記 [気になる点] 何気に狐丸の感情が揺れ動いてますね。そりゃすみさん出たらそうなるか [一言] さあどうなるか。ぷちゅー
2021/06/04 07:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ