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月の手毬 (月星雪✻②✻) 中巻  作者: YUQARI
第一章 風神雷神
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雷神

 時は少し遡る。


 蒼人(あおと)の屋敷の前で、白狐が未だ頑張っていた。

 そんな白狐を見上げながら、澄真(すみざね)の心は痛む。


(何故、こんな事になってしまったのか……)

 小さく溜め息をつく。



 そもそも前の日に、慣れない酒など飲んだのが間違えだった。

 もう二度と飲むものか! と澄真(すみざね)は決心しながら、屋敷の門を開けた。




 ──ピシッ……。ガラ、ガラガラガラ……。



(……崩れたか)


 澄真(すみざね)は、軽く息を吐く。


 本来なら、門を開けただけで崩れるはずがない。

 こんなにも簡単に崩れたのは、ひとえに狐丸が体当たりしていたからだ。


(狐丸……)

 澄真(すみざね)は、白狐を見上げた。


「……っ」

 狐丸の痛々しい姿を見て、澄真(すみざね)は息を飲む。


 血だらけの狐丸の金色の目は、もう、何も映していない。

 虚ろな瞳を澄真(すみざね)に向けながら、機械的に唸り声を上げているに過ぎなかった。


(……)

 澄真(すみざね)は、思わず苦痛に顔を歪める。


 無理に結界へ突っ込んだ見返りに、体を切り刻まれ、皮膚という皮膚に無数の裂傷痕があった。


 塞がれた傷口もあったが、ボタボタと赤黒い血液が溢れている箇所もまだまだ多い。


 真っ白な新雪のようだった毛並みは、赤黒い血液に染まり、もうその面影はない。

 澄真(すみざね)は唇を噛む。


 早く手当しなければ、いくら妖怪と言えども、出血多量でいつ倒れてもおかしくない。


「……」

 澄真(すみざね)は、狐丸から目線を離さないように気をつけながら、門を閉めた。



 ──パタン。



 軽い音が響く。

「……」


 そのまま位置をずらし、通りを背に澄真(すみざね)は立った。

 万が一、狐丸の攻撃が外れても、被害を最小限に抑えるためだ。


「狐丸……」

 澄真(すみざね)は狐丸に呼びかける。


 小さく耳がヒクついただけで、唸るのを止めない。

(これは困った……)

 大きく息を吐くと、狐丸に改めて向き直る。


 性根を据えて掛からないと、こっちが殺られる。

 澄真(すみざね)は気合いを入れ直す。




 ──グルルルルル……。




 低く唸りながら、木の上に伏せていた狐丸が、立ち上がる。

「!」

 立ち上がると共に、傷口から血液がほとばしる。




 ──ボタボタボタボタ……。



「狐丸……っ!」

 澄真(すみざね)の顔が歪む。


 思わず手を伸ばす。

 けれど相手は木の上。届くわけがない。

「……っ」


 名を呼んだ時、再び屋敷の門が開いた。

 蒼人(あおと)である。


 思わず、澄真(すみざね)の目線がそちらへ動く。



 途端──!




 ──ぐがあぁぁあぁぁ!!




「!」

 物凄い唸り声を上げて、狐丸が澄真(すみざね)に襲いかかった……!


 ハッとして、澄真(すみざね)蒼人(あおと)を見る。


 蒼人(あおと)は明らかに、攻撃の準備をしている。

 鋭い視線を白狐に向け、右手は懐に差し込んでいる。護符を出す気だ!


「やめろ! 蒼人(あおと)っ」

 叫ぶが間に合わない。


 蒼人(あおと)は懐から護符を出す。



 ──バッ!



 一振りすると、護符が弓に転じる。


「!」

(弓鬼(きゅうき)!?)

 澄真(すみざね)は目を見張る!


(まずい……っ)

 澄真(すみざね)は狐丸に向き直ると、咄嗟に叫んだ。


「《捕縛符》!!」



 ──ビュオッ!



 風が吹き、狐丸の腕に巻きついていた捕縛紐が、澄真(すみざね)に向かって飛んでくる。



 ──パシッ。



 紐を掴むと澄真(すみざね)は、ありったけの力で、狐丸を引っ張った!


 襲いかかる勢いに加え、捕縛符が縮む力が加わり、狐丸の速さが加速する。


 けれど、蒼人(あおと)も負けていない。

 ギリッと弓を引き絞り、低く唸る。


急急(きゅうきゅう)如律令(にょりつりょう)……!」



──ギリギリギリ……ッ!




 蒼人(あおと)が、弓弦(ゆみづる)を引き絞る!


 風が弓に集まり、矢となった。


「雷……神……っ!」

 言うが、手を離す……!



 ──キン……ッ!



 弓弦が高く鳴る。




 ──シュンッ……!




 矢となった雷神が、狐丸に襲いかかる!




「……なっ」

 澄真(すみざね)が、悲鳴を上げる。


(《雷神》だと……っ!?)



 引き寄せる捕縛符に意識を集中させながら、狐丸に願う。


(狐丸……! 人形(ひとがた)を、取れ……っ)


 声に出せば、確実に届くかも知れない。

 しかしそれでは雷神の速さに、間に合わない!


 式鬼(しき)の契約をしていれば、届く事もある。

 けれど、澄真(すみざね)は狐丸と最後まで契約を結んでいない!


(お願いだ……!)

 切実に願う。




 ──バリバリバリッ!




 火花を散らし、雷神が迫る!


 澄真(すみざね)は唇を噛む。切れて血が滲む。

(くそ……っ! 無理か……)


「……っ」

 狐丸は相変わらず、大きな体をしならせ、澄真(すみざね)に向かっていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんの一瞬の出来事が、1部分に。おお、面白い。 [気になる点] 真空ではないですし、気温のよっても違いますが……。仮に距離10メートルとして。 雷神が届く時間(電気の速度=光速)  10…
[良い点] 2/2 ・いやー、ガタガタ! [気になる点] すっげーピンチだ。なんかやばいですよ [一言] これはまじで痛いですな。そして熱い てかよくこんなイベントを用意したものです。
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