表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の手毬 (月星雪✻②✻) 中巻  作者: YUQARI
第四章 池の秘密
18/40

澄真との距離

 傷の確認をして、すっかり安心した澄真(すみざね)は、庭の池を見る。

「……やっぱり、あの池は素晴らしかったな」

「?」


 澄真(すみざね)の言葉が、蒼人(あおと)は理解できない。

「どういう意味でしょう? うちの池の話など、何も出なかったではないですか」

 訝しむように、蒼人(あおと)が唸る。


 話に出てきたのは、本家の池であって、ここのではない。

 形も全く違うこの池に、どう繋がっていたのか、見当もつかない。



 そんな蒼人(あおと)の様子が嬉しいようで、澄真(すみざね)は愉しげに笑う。


「ふふ。お前のお爺さまも不肖の孫を持ったと、草葉の陰で泣いているところだろうよ」

 あまりの言い草に、蒼人(あおと)はムッとなる。


「分かるように、説明をしてください!」

 思わず声が荒くなる。


 けれどそれを意に介することなく、澄真(すみざね)は池の方へ目を移した。




 ──ぱしゃん……!




 池では緋色の鯉が、優雅に跳ねた。

 澄真(すみざね)の伏せ気味の瞼が、少し憂いを秘めて震える。



「……。澄真(すみざね)さま?」


 その様子に、蒼人(あおと)は少し心配になる。


 澄真(すみざね)は口を開く。

「お前の祖父は、見鬼(けんき)の才に恵まれていたのだな……」

 ポツリと呟いた。


 見鬼の力を持った者に対しての哀れみを、澄真(すみざね)は、自分のことと重ねて想っていたのだろう。

 少し悲しげなその声で、蒼人(あおと)は全てを悟る。


「……」

 確かに、蒼人(あおと)の祖父は、その力に秀でていた。

 けれど、その力が現れたのは大人になってからだ。何も分からない、子どもの頃に手に入れていたものではない。


 上手い具合に立ち回っていた……と、蒼人(あおと)は聞いている。


 蒼人(あおと)は、ゆっくり口を開く。

「……えぇ。もともとはそのような力は無かったのだと、以前父が話しておりました。急に目覚めたのだと……」


「……急に……目覚めた……?」

 澄真(すみざね)は目を丸くする。

 蒼人(あおと)は頷いた。


「はい。澄真(すみざね)さまもご存知の通り、うちが本家と分かれ分家となったのは祖父の代からです。祖父はもともと鬼を視ることは出来なかったのですが、ある日突然見えるようになって……。そこからは代々鬼を視る者が現れています。……まぁ、代々と言いましても、まだ父と私の二代ですから、今後はどうなるかは分からないのですが……」

 はにかむように、蒼人(あおと)は答える。


 力に目覚めたのは、祖父は大人になってから。

 父親と蒼人(あおと)は、生まれつきではあったが、力を持つ祖父に助けられ、澄真(すみざね)が思うような苦労は味わっていない。

 それが少し、蒼人(あおと)は申し訳なく思っていた。


「そうか。それは……ちょっと、意外だったな……」

 澄真(すみざね)は呟き、薄く笑った。少し、ホッとしたような笑顔だった。


「そう……ですか? しかし、突然現れた才能でしたが、かなり力は強かったようです」

「……」

「陰陽師としての職にはついていませんでしたので、名が広まることはありませんでしたが、私的(してき)にそれらしい事は、していたようでした」

 言いながら池の方を見る。



 実際蒼人(あおと)も、祖父の力を見たことがある。


 祖父は正規の陰陽師ではなかったので、護符が使えなかった。けれど、護符がなくても式鬼神(しきがみ)を使うことが出来たのだ。となると祖父は式鬼を従えていたことになる。


 しかし、正規の陰陽師ではない祖父に、そのような事が出来るはずはないのである。

「……」

 祖父のいない現在、真実を聞くことは出来ない。



 式鬼神を出すような、大きなことには手を出さなかった祖父だったが、一度だけ蒼人(あおと)は見たことがあった。


(あれは、いつだったか……)


 いつの事だったか記憶は曖昧だが、透き通った美しい女神(おんながみ)蒼人(あおと)は見た。

(そうだ……あの時も、どこからか落ちようとして……)


 それがどこだったか思い出せないが、その式鬼神は落ちる蒼人(あおと)を助けてくれた。

 女神ではあったが、その手は大きくて、ひどく優しかったのを覚えている。けれどそれ以来、高いところが苦手だ。


 蒼人(あおと)自身は祖父と違い、生まれつき鬼を視ることが出来た。そのため、何かと不便を被った。

 そんな折り、祖父が甲斐甲斐しく助けてくれたのだ。


 父に至っても、それは例外ではない。

 祖父の存在があったからこそ、蒼人(あおと)蒼人(あおと)の父親も、人並外れた力を持ってはいたが、比較的一般的な生活を送ることが出来たのである。



 けれど、……と、蒼人(あおと)は思う。

 普通の生活を送れたのは、運が良かったからとしか言えない。

 祖父がいたから。祖父が……その式鬼神が護ってくれていたからこそである。


 《鬼を視る者》など、たいてい何かしらの迫害を受けている。

 特に力の強い澄真(すみざね)や、陰陽師頭(おんみょうのかみ)吉昌(よしあき)などは、いい例だ。


 それは妖怪が……ではなく、()()()受ける迫害だ。


 相手が妖怪なら、手の打ちようもある。

 しかし人となれば話は別で、静かに隠れ住むより他はなかった。現に澄真(すみざね)は長いこと屋敷に閉じ込められていた……。


「……」

 そこを思うと、蒼人(あおと)は胸が痛くなる。


 澄真(すみざね)の近くには、助けてくれるものがいなかった。

 相当苦労したはずだった。

 けれどそれを口にした姿を、蒼人(あおと)は見たことがない。


 いつか堰を切ったように言うのではないか……。蒼人(あおと)は毎回、身構える。




 ──お前は、恵まれている。私とは違うのだ。




 ……と。

 そう、澄真(すみざね)に、言われたくなかった。


 確かに恵まれていた。

 蒼人(あおと)には祖父や父、それに絢子(あやこ)がいた。

 誰かが助けてくれたし、構ってくれた。

 それは理解しているし、有難いとも思う。


 けれど、それが澄真(すみざね)と自分の間の距離を大きくさせ、間を裂く原因になるのではないかと、ひどく心配になる。


「そうか……」


 身構えた蒼人(あおと)だったが、澄真(すみざね)は一言、そう言っただけだった。


「……ふっ、」

 蒼人(あおと)はホッと、安堵の溜め息をつく。


「ん? どうした?」

「いえ、なんでもありません。……で、何故そのような事をお聞きになるのですか?」


 蒼人(あおと)は目を細める。

 自分と澄真(すみざね)の間を裂くものは、誰であっても許さない。

 そこはどうあっても、曲げるわけにはいかない。


(例えそれが澄真(すみざね)さま、自身であったとしても……)

 蒼人(あおと)は思う。


 過去の距離など、ねじ伏せてしまえばいいだけのこと──。


(これから距離を、縮めていけばいいのだから……)

 毎回不安になり、毎回そうやって己を奮い立たたせている。


 今までよりも、今日。今日よりも明日……。

(澄真(すみざね)さまの、近くへ……)

 蒼人(あおと)の決心は硬い。


 そんな蒼人(あおと)の決心に、全く気づかない澄真(すみざね)は、嬉しそうに顔をほころばせた。

 よこしまな自分の心とは裏腹の、無邪気な優しい笑顔。


「!」

 思わずドキッとする。


 あやふやな昔の澄真(すみざね)との思い出よりも、おそらく今が一番蒼人(あおと)にとって、幸せな(とき)なのに違いない。


 最近澄真(すみざね)は、良く笑うようになった。


 目が合って、自分だけに微笑(ほほえ)んでくれたことなど、幼い頃は一度もなかった。

 蒼人(あおと)は、触れてしまいたくなるような、その笑顔をじっくり噛み締める。


(自分だけのものであれば、良かったのに……)

 そんな想いで溢れ出す。

 けれどまだ、諦めているわけではない。

(いつかきっと、この手の中に……)


 そんなふうに思っている自分が、少し怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 18/18 ・あれですね。まだうじうじ中。 [気になる点] >──お前は、恵まれている。私とは違うのだ。  このセリフが出るの、すごい [一言] よしそろそろキリがいい。狐丸は起きるか…
2021/05/17 07:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ