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「弟が失礼した。お詫びと言ってはなんだが、時間があればお茶会に招待させてもらえないだろうか。我が国は交易も盛んに行なっているのでな。貴女が食べたことのないお菓子をたくさん用意させよう」
「お菓子!?」
タイシの褒め言葉はどこへやら、一瞬で目の色を変えたフェリシアは友人三人を振り返った。
「行きたい! 行ってきてもいい?」
「……いいけど」
フレーディアが不信そうな半眼で答えた。「時間には戻ってきなさいよ」と一応は続けたが、無駄だろうけどと思っている目だ。
「時間がお有りなら皆様もご一緒にいかがです? 是非とも人魚の皆様と楽しい時間を過ごさせていただきたい」
「申し訳ありませんが、わたし達は魔王様に言い付けられた用がありますので」
「それは残念」と弟殿下は肩を落としたが、すぐさま笑顔になって。
「お帰りになるまでに一度はお美しい人魚の方々とご一緒する栄誉に与りたいものです」と続けたのだから三人は愛想笑いで交わすに留めた。
※
いそいそと兄殿下達に着いていくフェリシアの後ろ姿を見守った三人は真顔を見合わせあっていた。
『あのお兄様殿下、嘘つきね』
『ええ、嘘つきだわ。ローニアのこと、フェリシアじゃないって知ってたみたい』
『一度もフェリシアを見なかったのは不自然よねぇ。普通、知らない女の子達が四人もいたら、全員に目を向けるものよ。金髪の人魚だって知ってたんだわ。最初からフェリシアを連れていくつもりで声をかけたのね』
『偶然ってのも、嘘。族長様の屋敷でのお茶会だって、すぐに用意が整うものじゃないもの。簡単なものなら出来るだろうけど、外国のお菓子でしょう? フェル用に用意してたと見たわ』
『大嘘つきねぇ』
『けどフェルはついてったわね』
『うん、ついてった』
三人はご機嫌な後ろ姿を同時に思い浮かべて、頷いた。
『なら心配なし』
『人を見る目だけはあるものねぇ』
『野生のカンよ。野生の』
にべもなく言い切って、三人はさっさとその場を後にする。
レティシアがフレーディアに尋ねた。
『魔王様の用事って何かあったっけ』
『ああ、嘘よ、嘘。……だって。ねぇ?』
フレーディアは悪びれずに舌を出した。
『やっぱりわたしは二本足ってちょっと苦手。ヒレが割れてるのなんて気味が悪くって』
『魔王様はいいのに?』
『しつっこいなぁもう!』
大国の城の奥深くに似つかわしくないはしゃぎ声がこだまする。
何事かと目を向けた兵士達がその目をそのまま奪われるほどの美少女人魚達は、人間の目を無視して楽しいおしゃべりに花を咲かせたのだった。
※
兄殿下に連れられて、通されたのは華美な内装の談話室だった。
足元から天井までの高さの大きな窓が三つもある、なかなか広い部屋だ。赤い天鵞絨のカーテンが金の房飾りで纏められている。陽の光を存分に取り入れた部屋は明るくて居心地が良さそうだ。
床に敷かれた絨毯は踏むのが申し訳ないほど緻密な花々が描かれて、テーブルと椅子には螺鈿細工が施されている。壁に飾られている絵画には噴水広場で遊ぶ猫が描かれていて可愛い。
よく見ると、そこかしこに猫の置物やら飾りがあった。
「キース殿下のお兄様は猫がお好きなの?」
上の兄、オーグストが答えた。
「ああ。よく分かったな。猫は好きだよ。五匹ほど飼ってもいる。みんな美人でね、君にもぜひ紹介させてもらいたい。……ところで、フェリシア嬢」
魚を咥えた陶器の猫に目を奪われていたフェリシアは呼びかけられて振り返った。
「なんでしょう?」
「なに。たいしたことではないのだが──キース殿下のお兄様、というのは些か長くはないかな? それにお兄様というのでは、私たちのどちらも当てはまってしまう」
「猫が好きなのも共通していますしね」
「下のお兄様も猫がお好きなのね」
「うん、そうなんですけどね。その、下のお兄様というのは、なんとも味気がない」
二人の言いたいことが分からずにフェリシアは首を傾げた。
「ダメ?」
「そのように聞かれてしまうと駄目とは言い辛くなりますねぇ。美しいご婦人のお願いとはなんでも聞いて差し上げたくなるものですが……」
「ならお前は下のお兄様で居れば良い」
しっしっと手を弟に向けて、兄殿下はフェリシアに向き直り、人差し指を立てた。
「私は是非とも他の呼び方をしてもらいたいのだよ。例えばそう……オーグ兄様というのはどうかな?」
「それは狡いですよ、兄上。ならば私はアデル兄様とでもしましょうか」
パチクリと目を瞬いたフェリシアは、二人の王子を交互に見た。期待の篭る四つの目に悪意は欠片も見当たらない。
満面の笑みになって言った。
「分かったわ。オーグ兄様。アデル兄様」
兄弟王子は目元を手で覆う同じ仕草で天を仰ぎ、同じ言葉を溢した。
「こんな妹が欲しかった……」
感極まり天に拝む二人の姿に、フェリシアは自らの直感が当たったことを確信した。
──この人達、良い人だわ。
タイシのお兄様だから良い人なのは当たり前だけど。
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