06話 はねる双魚
「パーティー結成にはまずリーダーを決めるらしい。リーダーのパーティー枠にメンバーが登録して結成するそうだ。で、誰がリーダーをやる?」
「それは白川さんでしょう。大光院さんを見つけてメンバーにした手腕はお見事でした」
「とってもかっこよかったです。コーン!」
「その大光院さんは俺より貫禄ありまくりなんだが。リーダーは見た目の押しも大事だし、彼じゃないか?」
「では、一応聞いてみましょう。大光院さん、あなたがリーダーになったらどのような方針でやっていくおつもりですか?」
「フン。お前ら、そろいもそろって碌でもないことにポイント使って失敗したそうじゃのう。じゃが、安心するがいい。ワシが大光院流修験者修行で鍛えに鍛えぬき、戦う力を養ってやるからのぅ。まず早朝は軽く20キロほど走らすか」
ファ!? 何言い出すの、このガクラン? いきなり暴君リーダー宣言!?
「昼には岩でも山頂まで動かしてもらい、夜にはワシがジックリ実戦で格闘というものを教えてやろう。夜明けまでな!
『耐えれば極楽、耐えらねば土の下』の大光院流修験者修行。感謝して受けるがいい。グハハハハハー!」
どちらにしろ『死』あるのみじゃねぇか!
ゲームより先にコイツに殺されてしまうわ!
「はい、やはり私はリーダーは大人の方が良いと思うのです。貫禄があっても、社会を知らない未熟な学生では荷が重すぎると思うのです。りっちゃん、どう思います?」
「そ、そうだよね! 大光院さんには悪いけど、リーダーはやっぱり大人の人でなきゃ! コンコーン!」
「そうそう! この場合のリーダーは、やはり力より大人の経験の方が重要だろう」
やりたくねぇ~。俺の経験なんてゲームとアイドルの追っかけだけだぞ。あとはしょうもないアニメの知識ぐらいか。年だけはくったが、中身は大人の責任から逃げ出したい君ら以下のガキだぞ。
「大人の経験というなら一馬、お前もじゃないか? 営業成績は部署でもトップだし、営業でならした交渉術はリーダーやるのに最適だと思うが?」
「優秀でも、大事なポイント全てをアイドルエルフ作りに溶かすような人にはリーダーやってもらいたくありません。お金とか預けたくないです」
うわっ、沙霧ちゃん辛辣だな。さすがに一馬もいじけている…………
………なにこの悲しそうな乙女?
悲しそうな仕草が何でそんなに麗しいの?
一馬。お前は腐れドルオタのダメッぷりを指摘されていじけているだけだろう?
まったく、腐れドルオタの本性知っている俺ですらヤバイ気持ちになる美貌だから始末におえない。
こんなナリの一馬にリーダーなんてやらせられないか。
男をあしらう方が忙しくなるだろうし。
「わかった。俺がやろう。君がノームじゃなければ、君にリーダーをやってもらうんだが。仕切り方が実に見事だ」
「いえいえ。さすがにガクラン修験者番長や、だめんずTSエルフを率いる自信はありません。では時間もないことだし、みんなでパーティー登録といきましょう」
それじゃリーダーとしての最初の仕事をするか。一馬みたいなボケもいるし、簡単なことでも手は抜かずに。
「注意事項がそこに書いてあるが、一応俺の口からも言っておく。
みんな俺のパーティー枠に名前を入れてもらうが、そこに書いた名前がギルドに登録される。それが今後の異世界での名前になる。登録前に何という名前にするか言ってくれ。
あと向こうでは一般人に名字はないらしい。当然、ただの冒険者である俺たちにもない。それを踏まえて登録してくれ」
「ワシは『ライデン』。今後は名前の方で呼んでくれ」
「あたしも『リッカ』でいいです。狐ッ子リッカ爆誕! 真由ちゃんは『まゆゆん』にしない?」
「しません。『マユ』で」
「俺も『ヒロト』でいいか。ゲームのアバターじゃ大抵これだし」
「じゃあ、オレも『カズマ』………」
「いいや待て待て! お前、そのナリで『カズマ』にするつもりか!?」
「はっ? いやオレが二十数年使ってきた名前だが? 裕人が一番呼んでいるんだが?」
キョトンと首をかしげる美貌のエルフ。
ああ糞、可愛いな! 無垢な瞳が素敵すぎる。
「だからだよ! 頼むからそのナリでいる間は別の名前にしてくれ。実はさっきから『一馬』って呼ぶたびに、ひどく微妙な気持ちになるんだよ!」
「そうですね。春島さんは今後女性として行動して頂かねばなりませんし、一人称も『オレ』ではなく『私』。名前もその姿にあったものに変えてください」
「ふむ………よし! これからオレ、いや私は『カルマーリア』と名乗ろう」
「早いな。それになんか厨二みたいなネーミング?」
「『私は永劫の業の森に住まうエルフ。新たな罪業を生みつづける悲しき聖母』………よし、美女エルフの間はこのキャラでいこう!」
「やめろ! ファンタジー世界でそれはシャレにならん! 『異端審問』なんてものがあったらたらどうする!?」
『新たな罪業を生み続ける』とかピッタリだけどな!
信じられんボケを生み続ける美女エルフとか、恐怖そのものだよ!
最後にカルマーリアが登録すると、俺たちのパーティーは完成してタブレットに文字が浮かんだ。
『パーティー結成! あなた達のパーティー名は【はねる双魚】です』
十二宮最後の双魚宮か。
やがてタブレット下の時刻が【0:00】になった。
するとまたもや謎男がどこからともなく現れて宣言した。
「時間だ。これより君たちを我らの世界へと転移させるが、最後に重要な必要事項を話そう。各自持っているタブレットは転移後も手放さず持っているように。ゲームの進行を常時示すし、連絡事項もこれに表示される。
何より異世界人である君たちの存在を固定化させるのに必要だ」
地雷をふみ抜いた忌々しい思い出のあるものだが、持ってなきゃダメか。
「では、転移を開始する。転移先はパーティーごとに各地の冒険者ギルド近辺となる。行きたまえ、子供たちよ!」
『いや、大人もいるぞ!』と思った瞬間、目の前は光につつまれ意識は暗転した。
パーティー名も決まり、ついに旅立つ異世界。
そして始まる【ゴブリンゲーム】
次回より第2章開始!