05話 ガクラン最強番長
第一ゲームの課題のゴブリンを倒す数が二百匹というのはさすがに多すぎると書いているうちに気がついたので、80匹に直しました。
「ガクランだ………」
そこに寝ている最強男。種族は人族のままだがガタイがかなりデカい。
面はもの凄いケツアゴで、顔面凶器と言えるくらい剣呑なコワモテのオッサンだった。
そして何より目を引くのが着ている服。
いい年して変形学生服。いわゆるガクランというやつだ。
「ダサい。死ぬほどダサい。けど………」
モテも社会性もかなぐり捨てて貫くそのファッションは、ある種の感動を覚えてしまう。
1960年代から70年代。
ガキ大将が死ぬほどカッコ良かった伝説の時代。
このオッサンは、その時代を今も熱く生きている。
「裕人、見てないで話さなきゃ」
「お願いします白川さん」
「コーン。あたしはちょっと離れてますから」
悲しいのは、鑑賞していたいだけのこのオッサンに声をかけねばならんことだ。
男が俺一人だけなので、選択の余地なく俺がやらねばならない。
で、一生分の勇気を出して寝ているオッサンを起こしてパーティーに誘った。
だが、返事はやはり悲しいものだった。
「ワシは誰とも組む気はない。一匹狼でいく」
「俺の探索と分析能力はかなり便利だよ。どうせ強制的に同じ場所へ送られるんだし、しばらく一緒にやるというのは?」
「どうかお願いします! 私たち、あまりにも貧弱な者が集まってしまって不安なんです。ほんのしばらくでよろしいですから」
一馬がいった! その美貌、無駄にするなよ!
「じゃかぁしゃぁ! わしゃあ足手まといなどいらん! どうせポイントとやらを身を守ることに使わず、くだらんモンに使ったんじゃろう。自業自得じゃ。異世界で厳しさ学んでこいやぁ!」
一馬撃沈! やはりその美貌は巨大な無駄だったな。
確かに俺たちはポイントをくだらんことに使い、足手まといになった者だらけ。
だから余ったのだ。
仕方ない。あとは粘りでいくしかないか。こういったことは営業で慣れっこだ。
俺は一馬に目配せすると、声を揃えてガクラン男に頼み込んだ。
どれだけ罵声を浴びせられても退かない。
誠意をもってこちらの考えつく限りのメリットを並べたてて説得する。
「フン、ヒョロイくせにしつこいのぉ。なら言葉だけでなく根性も見せたれい。ワシにタイマン挑んでみせい。勝ったらお前らと組んでやるわい」
ああ、やはり来たか。じつは先程から竜眼がこの展開の未来を見せていたのだ。
「コーン! ど、どうするの? やる人とかいるの!?」
「一匹狼キャラを仲間にする定番イベントですか。実際見ると感動します」
「なんと完璧な拒絶! これを破れる営業など………ってやるのかよ裕人!?」
俺はワイシャツの胸元を上の部分だけ開けてオッサンの前に立った。
このオッサン、話した限りじゃかなりの硬派だ。男気の一つも見せねば仲間などになってくれないだろう。
「白川さん。やるのはいいですが、まさか私をここに置いたままやるつもりじゃないでしょうね!? ミンチになる予感がビシバシです!」
「ああ、悪い沙霧ちゃん。一馬、たのむ」
肩の上の沙霧ちゃんを一馬に預けてオッサンの前に再び立つ。
やはり最強だな。竜眼で強さをはかってみた限り、俺の百倍は強い。
「そのクソ度胸に敬意を表して名乗ってやろう。ワシの名は大光院 雷電! 鎌倉菩薩高校の番格、南鎌倉六校の総番である!」
ダイコウインライデン!? まさかそれ本名!? 親は本当にそんな名前つけたの!?
俺よりオッサン顔なのに、『ワシ』とか言っているのに高校生!?
そのガクラン現役だったの!!?
番格とか総番とか…………まさかコイツ、別の時代とかから来たんじゃ!?
ダメだ! 名乗られただけでツッコミが追いつかねぇ!
「もう一つ教えてやろう。ワシは家の方針で修験者の修行もしておる!」
どんな家だよ!? 修験者の修行をさせる家って!
「さらに取ったスキルも教えてやろう。【勇者の紋章】ひとつじゃ!」
「………ば、バカな!! 『まず生き残れません』と書かれたアレか!? 正気か貴様ァ! 生きて帰るつもりはないのか!?」
「フフフフ。ワシはな、こんなことに巻き込んだヤツを一発ぶん殴らねば気が済まん! そして『この世界最強の存在』とは其奴のことじゃろう。故にこのスキルを得れば、自動的に其奴にたどり着くという寸法よ」
なんと男らしい……………いや、どこまでもヤバイやつだよ!
そんな『敵の黒幕を探し追い求め立ち向かう』とか、貧弱揃いの俺たちにつき合えるわけないだろう!
だが後で別れるにしても、序盤はコイツの圧倒的武力がいる。
今のままでは異世界に行ったとたん即死だ。
「俺は白川裕人。会社員。スキルは【竜眼】ひとつだ」
「竜眼? 確かポイント100を全て使うそんなスキルがあったのう。やたら光っているその目がそれか? フッ、しかしポイント全てを一つのスキルにつぎこむとは中々に剛気じゃのぅ。本当にワシに勝ったらダチになってやろう」
『こんな暑苦しいオッサン高校生なダチはいらん!』と言いたいが、こんな状況じゃこの脳筋オッサン高校生は頼もしいのが泣けるところだ。
「よいぞ白川ァ! どこからでもこい!」
「ああ。それじゃ」
俺は両手をぶらりと下げ、そのままスタスタと雷電に向かってゆっくり歩いて行く。まともに戦っても通用しないのは見えているからな。
「なんじゃ、やる気がないのう。ならば大光院流拳法菩薩拳!
飢えず渇えずさ迷わず菩薩に召されるがよい!」
キリがないからもうツッコまんぞ。
雷電は俺の顔面にパンチを喰らわせてきた。
本気だったら武神の申し子のようなこのオッサン高校生の拳。
動きは竜眼で見えても、体は反応することは出来なかっただろう。
だがこの大ぶりな一発は、紙一重俺を外して打ってきた。
全ては見えていた。
だから逃げずにそのまま雷電の懐に入る。
そして下顎の来る予定の位置に足を置いておく。
パンチが通り過ぎると、俺は予定通り雷電の下顎を蹴り上げた!
――――ゴキィッ!
数秒前に雷電の行動も体の位置も竜眼で見たからこそのカウンターだ。
「俺の勝ちだな。これでいいか?」
派手にぶっ倒れた雷電は忌々しげに俺の顔を睨む。
正直、何と答えるのか竜眼で見えない。どうやら、未来はどう転ぶかわからない場合があるらしい。
ならば望む未来を引き寄せるまで!
「圧倒的実力差を覆されたことからも分かるだろう? 何が起こるかわからない異世界で俺の竜眼は必ず君の役に立つ。どうか了承してくれ!」
もし『負けを認めない。勝負はこれからだ!』とか言われたら大変だ。
正直、さっきは雷電が俺をなめていたから勝てた。
まともに俺に拳を打ってきたら一発でダウンだ。
俺の目をジッと見ている雷電。
いきなり「フッ」と笑いだした。
「よかろう裕人。貴様の勝ちじゃ。いっしょにやってやろう! そして約束通りダチになってやろう!」
――――パチパチパチパチパチパチ……
何故かみんな拍手をしてきた。
「ヤメロ! 恥ずかしいだろうが!」
最後のメンバー、大光院 雷電が入って俺たちのパーティーは完成した。
パーティー結成の方法をタブレットで調べると、他のパーティーはみんなもう完成していた。
どうやらパーティー名は星座の十二宮が元になっているらしい。
他のパーティーをざっと調べてみたが、こんな感じだった。
【眠る白羊】 美人で体格の良い女一人と男四人のパーティー。全員が知り合いらしく、よくまとまっている。
【猛る金牛】 全員男。体育会系の部活の仲間らしく統率もよくとれている。獣人もいる。全員戦闘系スキルで固めたような体格をしている。
【寄りそう双児】 魅力値をかなり上げたらしく、全員美形でウェーイな男ども。サークルの仲間っぽいが、スキル選択は真面目にやったらしく体格は良い。
【鉄壁の巨蟹】 これも戦士系なでっかい兄ちゃん姉ちゃんのパーティー。男三人女二人。
【咆吼の獅子】 武闘派チンピラ兄ちゃんの集まり。獣人もかなりいる。現代で見かけたら速攻逃げる!
【笑う乙女】 全員が女。戦士系と魔法系が半々。仲の良い友達同士といった感じだ。
【守護の天秤】 男三人女二人。こんな場所だというのに、妙に全員規律正しい。
【暁の射手】 異世界転生の話を話す者と聞いている者がいる。このあたりから余った者同士か? アドバイザーがいるせいか、戦闘職としてはそれなりに見える。
【這いよる天蠍】 美形の男と女のパーティー。優秀そうではあるが、戦闘は微妙?に見える。こういった異世界やらキャラ作成には不慣れか?
【幻影の魔羯】 さらにひどい。どこにポイントを使ったのか、戦闘する人間には見えない。
【溢れる宝瓶】 絶世の美女三人とスケベそうな男二人。女の方はどれだけ魅力値を上げた?
やはり前半に作られたパーティーの方が強そうで、ポイントの振り分け方も習熟している感じだ。
後半に作られた方は、状況がよくわかっていない人間も多そうだ。
それじゃ、俺たちもパーティーを作ろうか。
何もしなくても自動的に編成はされるはずだが、今後の結束のためにも『自発的に作った』という過程が大事だからな。
前作は劣化ファントムブラッドだったので、今回は劣化スターダストクルセイダーズを目指します。
裕人:情報探索系リーダー
雷電:オラオラオラオラ系最強キャラ
一馬:レロレロレロレロレロ系美形枠
りっちゃん:愛されポルポル系マスコットキャラ
真由:大火力兼参謀キャラ
こんな感じでやっていきますのでよろしくお願いします。