04話 狐娘と手乗りJK
マズイ! 二人揃って戦闘系スキルを全然所得していない!
こんな二人が組んで、ゴブリン百六十匹なんて狩れるわけがない!
「ぐうっ頭痛が止まらない! 確か竜眼には『常時魔力を使う』ってあったな。これはその影響か」
頭痛でフラフラだ。これじゃバッドステータス持ちじゃねぇか!
「大丈夫か、裕人? とにかく休め」
「休んでいるヒマなんてあるか! いくぞ一馬」
「ど、どうする?」
「パーティー編成に望みを託す! 戦闘系の強いメンバーと組んで、その補佐の位置におさまって何とかするんだ!」
――――結果。
俺たちとパーティーを組む奴なんていなかった。
青い顔してフラフラしてる奴と組む奴なんているわけがない。
それでも一馬一人なら「引き受けてもいい」という野郎はいた。
そいつがまともな奴なら、俺も送り出してやった。
だがそいつは一馬の弱い立場につけこんで体をいじり回すゲス野郎だった。
「あれはない。気持ち悪さMAXで、あれと一緒になる位なら裕人と死んだ方がいい」
「うおっ! 美人が言うと凄え殺し文句だな。ともかく謎男の言う通りなら、誰かしら余るはずだ。そいつらに会ってみよう」
ここにいるのは60名。そして5人一組で12パーティーできるようになっている。つまり、必ず誰かが余るはずなのだ。
もっともここで余る奴など、俺らと同じようにスキル編成で失敗した奴に決まっている。
で、余って仕方なく俺らと組むことになったメンバーの二人と顔をあわせた。
だが、余り物だけあってオレらに並ぶに残念メンバーだった。
「湯上立花って言います。中学二年生です。よろしくお願いします。コーン!」
髪を肩あたりで切りそろえられた活発そうな女の子が自己紹介した。
耳は狐。ふさふさの尻尾もはえている狐の獣人だ。
湯上ちゃんの能力はこんなだった。コストつき。
種族:【獣人(狐人) 20】
兎人に次ぐ索敵能力、敏捷性がある。ただし腕力、体力は獣人としては低め。
【幸運力 70】【料理才能 5】【裁縫才能 5】
「…………………幸運力、取ったんだ」
「お小遣い少ないから懸賞をやっているんですけど、なかなか当たんなくて。だからこれを取ったら凄イの当たるかなって。えへへっ」
確かに運が良いのはいいことだ。世の中運がいいだけで得する奴はいるもんな。
けど、今ポイント70も使って身につけるものでもないだろう!
それに獣人は同コストでもっと強そうな種族があったのに狐とか、料理裁縫の才能とか!
この子、ゲーム内容を完全に忘れて自分の趣味に全力疾走してるよ!
それでもこの狐っ子は身体能力だけは高そうだからまだ救いがある。
もう一人の彼女に比べたらそう思えてしまう!
「沙霧真由です。横浜の高校一年生です」
この子が湯上ちゃんの頭から髪をかき分けて出てきたときにはビックリした。
そして今、俺の手の平の上で話している。手乗りJKだ。
「いったいなんで小人になっちゃったの? 南くんの恋人にでもなりたかったの!?」
「おつゆ飛ばさないで話してください。かかったら全身ベトベトです。それより誰です? 南くんって」
なんと、この娘は体長10センチほどしかないのだ。これは選んだ種族の影響らしい。
「土の精霊ノームです。種族選択に風の妖精とか他の四大精霊はなかったのに、これだけはありました。おそらく”土”という性質上、物質の割合が高いからだと推測しますが」
「どうでもいい! いったい何がしたかったのよ、君? このゲームがバトルだってこと忘れているなら、第一ゲームの内容もう一度言おうか!? ………ううっ頭痛が」
「大丈夫ですよ。ちゃんと戦略に基づいたスキル選択ですから。白川さん、【魔力UP】を最高値まで取ることを試してみましたか?」
「いいや。だが取るほど体力と腕力にマイナス補正がかかるそうだから、相当虚弱になるんじゃ?」
「私は実際試してみましたが、ちょっと運動しただけでバテてしまうくらい虚弱になってしまいましたね。最強魔法使いとかは諦めるしかないでしょう」
「魔法が戦闘でどの程度使えるかもわからんし、魔法は補助程度にした方が良いだろうな。…………ああ、そのナリになった理由がわかった。そんな普通な選択はできなかったんだ?」
「ええ。私は諦めませんでした。その答えがこの【ノーム】なのです。これなら移動は誰かのポケットにでも入っていればいいし、守ってもらうのも簡単です」
自身満々の沙霧ちゃんの取ったスキルはこんなものだ。
種族:【ノーム 20】
土の精霊。土魔法に大きな才能があり、器用さ、素早さ、魔力も高めで成長が早い。しかし体長が10センチほどになってしまい、体を使った戦闘などは不可能。土魔法以外の魔法は使えない。
【魔力UPⅠ~Ⅴ】(計75) 【魔力供給 5】
「魔力供給? なぁ、これってもしかして……」
「ええ。自分が大魔法を使うだけじゃなく、他の人に魔力をあげてその人にも大魔法を使わせます。どうです。この天才の発想!」
「ちょっと試してみてくれ。俺に魔力をくれ」
「いいですよ。『右手に宿るほの暗き魔の力! 仲間に送る魔力波動!」
ポコンッと殴られると同時に、沙霧ちゃんの右手から大量の魔力がきた。
しかしさっきの呪文は何だ?
魔力が体に満ちると俺の頭痛は治まり楽になった。なるほど、沙霧ちゃんは戦力になりそうだ。何より常に魔力を必要な俺にはありがたい。
「話を聞く限りけっこういけるな。しかしなんで余りものになったんだ? 君の発想を理解する人はいなかったのか?」
「いえ、そもそも話すらできませんでした。このナリでは誰にも気がついてもらえませんし、タブレットも持てなくて動けません。走り回って遊んでた湯上さんが見つけてくれなきゃ詰んでましたよ」
天才の発想もでっかい穴ボコが空いていたな、沙霧ちゃんよ。
「『りっちゃん』でいいよー。あたしも『まゆゆん』って呼ぶから。コンコン♡」
「『まゆゆん』はイヤです。それはともかく、参りましたね。残ったのが、大人の男の人と元男だったので少しは期待したのですが、まさか、りっちゃん以下の非戦闘スキルだったとは」
返す言葉もない。いい大人がそろってスキル獲得失敗だ。
「白川さん。『これはゴブリンを狩るためのスキル』だってことを思い出してください。『のぞき』に仕えそうなスキルだからってポイント100ものスキルを何の考えもなしに取ってしまって」
「のぞきのために取ったんじゃねぇ! 不幸な事故なんだよ!」
「とにかくこれでは、前衛は白川さんとりっちゃんにやってもらわなくてはならなくてはなりませんね。うん、実に紙のような前衛です」
「ええ!? あたし!? コーン!」
どう考えても、全滅確定だろう。このパーティー。
「ところでもう一人は? あと一人いるはずですが」
そう。俺たちは皆がパーティーを作ったあとの余り物同士。もう一人がどこかに余っているはずだ。だが、もうすぐどこかへ転移される時間になるのに、メンバーを探しているような奴はどこにもいない。
「竜眼で探すか。沙霧ちゃん、魔力をくれ」
「はいどうぞ。『右手にやどるほの暗き魔の力! 仲間に送る魔力波動!』」
ポコンッと殴られると同時に魔力がきた。しかしコレ、いちいちコレやんなきゃいけないのかね。
沙霧ちゃんが魔力をくれて竜眼の力が使えるようになったので、俺はここら一帯全ての人間の位置や動向を知ることができた。
すると皆から外れた片隅の方に、パーティーも作らずたった一人で寝ている男が見えた。
「向こうにそれらしいのがいる。しかもかなり強い………いや、ここにいる中で最強か?」
「便利ですね竜眼って。強さまでわかるんですか?」
「ああ。竜眼の力をはじめて使ってみたが、隠れているものまで見えるし、ここにいる人間の強さもだいたいわかる。さすがポイント100のチートスキル」
「コーン♡ あたし、物をよく無くしちゃうんで白川さんとお知り合いになれて幸運です。ハッ! これが『幸運力』の力?」
「そんなヤツがいまだソロなのは、多分仲間は作らないつもりなんだろう。しかしオレの溢れんばかりの美貌で誘惑しても仲間にしてやるわ!」
「そうだな。せっかく無駄に美人になったんだから、せめてここで役にたてよ。一馬」
俺たちはその最強っぽい男のもとへと駆けていく。
「ところで白川さん。この中で最強と言いましたが、あそこの虎さんよりもですか?」
俺の肩の上の沙霧ちゃんがある一点を指さす。
そこには、武闘派ヤンキーみたいな連中に混じって巨大な虎の獣人がいた。
「種族に虎の獣人を選び、【腕力UP】を上げるだけ上げたってところか。いや、ああいう単純な力じゃなくてもっと安定してるっていうか……」
どうも竜眼で見た分析は説明するのが難しい。
しかしこの竜眼。沙霧ちゃんとやっていくなら、けっこう使えるんじゃないかと思いはじめてきた。
沙霧真由ちゃんは昔書いた小説のキャラです。
久しぶりに書きたくなったので、出しました。
この子が主役の話もハーメルンのマヴラブ2次にあるので、よかったら読んでください。
まぁ、同姓同名の別人ということになりますが。