38話 廻廊にて倒れゆく者達
最近忙しくてなかなか執筆の時間がとれません。更新はかなりゆっくりになります。
全員がそれぞれのタブレットを見て二人の生死を確認する。
俺だけは竜眼で直接二人の状態を確認できるので、廻廊のを覗き込んだまま。
幸いなことに、サンカイは重傷を負いながらも生きていた。ユリアさんの小癒である程度傷を治し、再び二人で廻廊を進んだ。だが…………
「さ、サンカイ――――――!!!」
「どうしたんやヒロトはん! うっ!? デカ兄ちゃんのマークが?」
タブレットのサンカイのゲーム状況が、たった今ノークリアからデリートへと変わった。
「ユリアさんは今、廻廊を突破した。しかしエグいことをしやがる」
「ヒロト、サンカイはどうしたんじゃ。 何故奴が?」
ライデンもめずらしく蒼白な顔をしている。
「出口手前20メートルほどから攻撃は緩くなる。プレイヤーは一気に駆け抜けてゴールしようとするが、手前5メートルほどから最大火力の魔法が襲う。防御をあまくしたプレイヤーはそれで………」
俺は親指を下に向けるゼスチャー。
「ダウンだ」
そのとき、アビスレインはけたたましく笑った。
「ハハハハハハ。まったく竜眼持ちとは無粋なものだな。ゲームの一番オイシイ部分を種明かしで台無しにしてしまう。本来ならここで何が起こったかの恐怖で面白くなる所をなぁ」
「クッ……!」
悔しそうにアビスレインを睨む【鉄壁の巨蟹】のリーダ-ソウテツに、俺は話を聞いてみることにした。
「なあ。あんたメンバーの三人がやられた時、アビスレインの奴をどうにかしようとはしなかったのか? あんたならケンカの一つも売りそうな感じだが」
「ああ、もちろんいてこまそうと思ったワイ! じゃがあんのハゲチビ、消えたり現れたり、幽霊みたいな奴での。疲れるばっかでどうしようもないんじゃ!」
「幽霊?」
「『なに言っとるか』ってか思っとるかもしれんがのう。事実じゃ。奴とはとてもケンカなんぞできん」
「いや、大体わかった。そんなことだろうと思った。それが奴の能力らしい」
俺は次に、廻廊へ挑戦すべく入り口で準備している白羊三人に声をかけた。
「大丈夫か、あんた達」
「ええ。サンカイは残念ですが、悼むのは後にします。向こうにいるユリアが心配ですし、間を置かず挑戦することにしました」
「エリートゴブリンとやらの位置もわかったし、最後の罠も知れた。だったら、俺らが殺されるはずがないだろうよ」
「ヒロト、情報ありがとよ。お前さんもできるなら生きて突破してきてくれ」
『白羊』残りの三人は、時を置かずすぐに『廻廊』に挑戦した。
結果は…………
「グレンがやられた」
火魔法の使い手のニキッドが消滅した。三人は順調に矢や魔法を迎撃して進んでいたが、やはりエリートゴブリンとかいう奴の矢は迎撃出来ず貫かれた。しばらくは生きていたが、死亡したと思われた瞬間消滅した。
ニキッド、グレン。悼みます。短い間だったが君達と知り合えて良かったよ。
「死人出さないで終わらせた例はなし。ホンにエグい廻廊やで。ま、やるしかないの、ミヤジマちゃん」
「この地獄マラソン、抜けられるかしらねソウテツ」
そんなとを言いながら『巨蟹』の二人は準備運動をしている。
彼らは何らかのアスリート選手だったらしいが、実にサマになっている。
「ちょっといいか、お二人さん」
そんな二人に俺は声をかけた。竜眼で見て分析した限りの廻廊の詳しい情報を二人に教えるためだ。
…「見た限りのゴブリンの配置、廻廊のコースは、といった感じだ。あのエリートゴブリンとやらは想像以上にエグい。参考になったか?」
「ああ、あんがとさん。ヒロトさんよ。せいぜいワイらを参考にして自分に役立ててくれや。ワイらの真似はできんやろがな」
見抜かれていたか。
俺がこうして挑戦者の観察をしているのは、ゴブリンの配置、コースの把握によって全員が助かる道がないかを探すため。もっとも、いくらか緩い場所や注意点はわかったものの、それでどうにかなりそうな方法はいまだ見つかってないが。
「いくで! これが韋駄天アスリートの足や!」
二人はクラッチングスタートからダッシュで廻廊に突入した。
結果は………
「二人とも生存。ただしどちらも重傷。特にミヤジマさんはヤバイ………か」
俺はポツリと言った。
ミヤジマさんはまだデリートしていないとはいえ、意識がなくソウテツさんに抱えられて廻廊を出た。開腹術が間に合わなければ死んでしまうだろう。
この無残な結果も、このゲームの黒幕は見ていて楽しんでいるのだろうか。
これで全チーム全員、廻廊で必ず何らかの負傷したことになる。
俺達よりはるかに格上で優秀な冒険者だった彼らをもってしてもだ。
この絶望的な結果に、ウチの女達は蒼白。とても生きて廻廊を出られるとは思えないからだ。
「さて、お前達の番だが、組み合わせは決まったのか?」
「………………っく!」
「フハハハハハ。ノロマな指揮官、いわば無能だな。まぁ、ゆっくり決めろ。制限時間は突破した奴らがダンジョン核を破壊するか、二日後のリミットまでだ」
アビスレインの挑発にも俺は動かない。じっと廻廊の億を観察しながら覚悟を決める。
ここまで本気の覚悟がきまったのは初めてかもしれない。
「マユ、どうだ?」
「ほぼフルに魔力を補充できました。いつでもいけます」
「そうか。ならそろそろ行くか」
マユが植物の根に変えた足を元に戻すのを待って、彼女を肩に乗せた。
杖を握り、防御マントの止めヒモをしっかりと結び直す。
「ヒャハハハハ。臆病リーダーがカスのような勇気を振り絞ったか。さて、誰を切り捨てるか切り捨てられないか決められたかな?」
「そうやって笑っていろ」
「なに?」
俺はアビスレインの目をしっかりにらみつけて言う。
「今はこのクソッタレなゲームにつき合ってやる。だがいつか貴様にも貴様の背後にも必ずしかるべき報いをくれてやる」
「………ほう。追い詰められた小物の目ではないな。覚悟はあると見える。では聞かせてもらおう。貴様の選択を」
俺は【はねる双魚】のみんなに向いて決定を言った。
「みんな、待たせたな。これから廻廊に入るメンバーは俺、マユ、カルマーリアだ」




