37話 廻廊にアビスレインはわらう
ハーメルンの方で短期連載をやっていたので、投稿を中断していました。また連載を再開します。
「やはり他パーティーのメンバーと臨時に組むのはダメね。信用も信頼も足りないし、連携もとれないでしょうからかえって動きが悪くなるわ」
話し合いの結果、そうユリアさんは結論づけた。
「そやな。ワイもミヤジマちゃんと二人で何とかしてみるわ」
【鉄壁の巨蟹】リーダーのソウテツもそう言った。
つまり残った『巨蟹』の二人は他のメンバーと組まず二人だけで。
『白羊』は3と2に別れて。
俺達『双魚』は3と3に別れて回廊に挑戦することになった。
「その代わり、回廊を抜けたなら私ができる限り【小癒】で負ったケガを治すわ。さすがに全員は無理だから早い者勝ちだけど」
そして組み合わせと順番はこのようになった。
最初はユリアさんとサンカイ。サンカイがユリアさんをかばいつつ、ユリアさんがサンカイの負ったケガを光魔法【小癒】で治しながら行く。後続でたどり着いた者のケガも彼女が治す。
二番手は【眠る白羊】残りのグレン、ニキッド、シュウスイ。それぞれの装備と技と魔法で降ってくる攻撃を迎撃しながら進む。
三番手は【鉄壁の巨蟹】の残り二人。装備と肉体で攻撃に耐えつつ行く。
さて、我ら【はねる双魚】だが。
実はまだ決まっていない。
どう組み合わせを考えても、女達三人が生き残る目がないからだ。
特にカルマーリア。
駆け抜ける足も攻撃に耐える肉体も迎撃する技も魔法もない。
必然的に俺とライデンとマユが迎撃したり守りながら進むしかない。しかし、それで全員生きてたどり着けるほど甘いものでない試練であることは、スゴ腕パーティー【鉄壁の巨蟹】のメンバー三人が全滅したことでわかっている。
とりあえず、俺はこう指示を出した。
「とりあえず全員休息。マユも地脈から魔力を補給しといてくれ。次に指示を出すときはかなりキツイことを指示するかもしれん」
とりあえずの答え引き延ばしだ。
俺は眼のおおいを取り門の中を見る。隣のアビスレインはあえて無視する。
魔術的結界はあるが、竜眼で凝視してみると段々中が透けていき構造が見えてきた。
中はアビスレインの言う通り廻廊の両脇に崖があり、その上に弓や魔術杖を持つゴブリンがいた。ただし普通のゴブリンではなく、兵隊ゴブリンだ。
廻廊は所々曲がっているが、基本的に一本道。ただし足を止めてしまうような仕掛けがいくつもあり、嵌まるとヤバイ。
「ヒロトよ。潮時かもしれん。アビスレイン殺るか?」
そうライデンが提案してきたが、俺は首をふった。
「それができるなら、『巨蟹』の大将がやっているだろ。見ろ。憎々そうにアビスレインを見ているが、やり合おうとはしない。多分、仲間を殺られた時さんざやったんだろうが、捕らえられなかったんだろう」
「ワシらと『巨蟹』の残り二人が協力してもダメか?」
「いいや、勝負時じゃない。ここは奴の領域|《テリトリ-》。仕掛けても形成は不利だし、大番狂わせを起こそうとも逃げられる。ゲーム自体も無くならない。無駄すぎるな」
「意外じゃのう。『女達を犠牲にするなら』とイチバチで勝負に出るかと思ったが。それでどうするんじゃ。女達は置いていくのか? それともワシらがかばいながら万一に賭けるのか」
それなりの強さをもった『巨蟹』や『白羊』のメンバーでも死人が出る。俺達がかばいながらくぐろうとも、生き残る確率は低い。
普通に考えるなら『貧弱な女達は置いていき、俺とマユとライデンだけで挑戦する』が最善か。
ふと、ニヤつくアビスレインと目が合った。
その目は推しのアイドルを出番待ちするドルオタのように期待に満ちている。
なるほど。俺がこの結論にたどり着き、決断できるか否かをはかっているというわけか。
非情な決断か愚かな決断か。
それとも決断しない最悪の選択か。
さて、どうしたもんかね。
「それじゃ、行くわね。ヒロト、情報ありがとう。おかげで作戦がたてられたわ」
ユリアさんは【眠る白羊】の巨漢メンバーのサンカイと共に立ち上がった。
俺は竜眼でわかった限りの廻廊内のコースやゴブリンの配置を全員に教えた。みんなこれでどうにか突破してくれればよいが。
「ああ。ユリアさん、サンカイ。気をつけて」
ユリアさんは廻廊入り口に行く前、俺に近づき小声で言った。
「お礼に一つだけ忠告するわ。ヒロト。リーダーにはどんなに悲しくても『非情の決断』というのが必要な時があるわ。そしてどんなに苦しくても必ず決断は出しなさい」
いまだに決断できない俺を見抜かれたか。
ユリアさんの言葉に、前に読んだビジネスハウツー本の言葉を思い出した。
『部下を泥船に乗せるな』『心の迷路におちて決断を遅らせるな』
「じゃあの。ユリアは必ず守るわい」
二人は守りの防備を固めて廻廊内に入っていった。
俺は祈るように廻廊内を竜眼で見通し、二人の行方を追った。
二人は予定通り、降ってくる矢と魔法を巨漢のサンカイが防ぎながら順調に進んでいった。
だが……………
「………………っく!」
「ヒロト、どうした? 中の二人に何か?」
「サンカイが射貫かれた。アビスレイン! あれがエリートゴブリンとやらか!?」
「ハハハハ。『あれが』と言われても私には見えんよ。だがまあ、あの硬そうな大男を貫いたのなら奴だろうな。【魔弓のベリアス】という奴だ。君の見たとおり、奴の矢は躱すことも防ぐこともできん」
アビスレインはまるで自分の子供でも自慢するように言った。
くそっ。本当に、この廻廊は死人を出さずには通れないのか………?




