02話 ヒロトは竜眼を手に入れた!
謎男は説明を終えるとどこへやら消えてしまったので、再びタブレットを調べることにした。
アバター制作欄の次を開いてみると、何故か画面が鏡に変わった?
次に開くと最初の画面に戻った。これで一通り見たな。
とりあえずは【能力作成】ってのが気になったので、これを試してみることにした。
下に【戻る】の選択もあって、やり直しが出来るようだし。
もっとも隣に【確定】がある。間違えてこっちを押さないように。
絶対に間違えんなよ! 俺!
種族選択:人族。
【腕力UPⅠ 5】を押すと、いきなり体に筋肉がついた。
「うおっ、すげぇ! マジだ!」
そして押した場所は【腕力UPⅡ 10】に変わっていた。
さらにそこを押すと、さらに体がムキムキに!押した場所は【腕力UPⅢ 15】になっていた。
さらにさらに押していくと、さらにさらにムキムキになり、まるで大柄の野球選手みたいな体になってしまった。
タブレットを鏡にして見てみる。
「誰コレ? どこのヤクザな人?……ああ、このためについてたのか。この鏡」
さて、【腕力UPⅤ 25】まで押すとそこで腕力UPは消えてしまった。どうやらⅤまでが上限らしい。もっとも、それ以上は消費ポイント的にきびしいだろうが。
「…………お前、裕人か? あまりこの状況を疑っていなかったが、やはり全部マジなんだな」
一馬はムキムキマンになった俺を『信じられない』という目で見ていた。
「らしいな。【魅力】も試してみよう。何故ゴブリン退治にこんなものがあるのか謎だが」
俺は一旦スキルを初期に戻し、【魅力Ⅰ】を押してみる。
「ぐはっ! 本当にイケメンになった! こりゃ、絶対これにつぎ込む奴はいるぞ!」
一馬はムキムキマンになったときより驚いていた。
タブレットを鏡にして見てみると、確かにちょいいい男になった俺がそこにいる。
「…………ふむ。よし、これも最高値に挑戦してみよう!」
「や、ヤメロ! 見たくねぇ!」
………と、いう一馬の叫びも無視して【魅力Ⅴ】まで押してみたが。
「ヒィィィコワイ! 来るな近づくな! 美しすぎてコワイ!!!」
と、一馬はすっかりおびえてしまった。
俺もこの姿を鏡で見たが………本当に見なきゃ良かったよ!
とにかく遊びはここまでだ。一馬とこれからのことを話そう。
俺たちは互いに調べたことを話しあった。
一馬は才能欄を調べていたらしく、後半には【料理才能】だの【鍛冶才能】だの【商売才能】だの【裁縫才能】だの戦闘に関係ないものがあったらしい。
さらに後ろの方にはポイントを50以上も使う謎スキルまであったそうだ。
「異世界で怖いのは病気やケガなんだが、光魔法で治せるらしい。もっとも魔力は上げるほど体力や腕力が下がってしまうと書いてあった。魔法才能も高めだし、魔法はあまりコストは良くないな。【医療才能】ってのもあるし、こっちにするか?」
「すっかりやる気だな。こんなワケわからんことに」
「なんだ、裕人はやらんのか?」
「やるしかないだろう。意地を張っても死ぬしかないみたいだし。まぁ、こういったゲームは昔からさんざんやったし、何とかなるだろ」
すると一馬はカッコよく「チッチッチ」と指を揺らして言った。
「わかってねぇなぁ裕人。これはゲームじゃないんだぜ? これから送られるのはマジの異世界。戦闘だけじゃなく生活まで考えなきゃ速攻詰むぞ」
「そ、そうか! そこまで考えると、まるでポイントが足りない! 遊びに使えるポイントなんてない!」
「だろ? まずは70ポイント使って戦闘のスキルを選択しよう。最悪二人だけでもクリアできるよう、隙のないスキルを取ることを考えるぞ。残り30は生活スキルにあてる」
「うーん、具体的には?」
「まず、ゲームのような一点突破型にはしない。ミッションが戦闘だから当然戦闘系スキルは取るとして、どちらかは回復系の光魔法も取る。もう片方はサバイバルも想定して火と水の魔法を取ろう」
「結局、コストは高くても魔法は取るのか?」
「医療才能があっても、治すには薬やら道具が必要で金の方のコストがかかるだろう。魔法ならタダだ。………多分」
「気がつかなかったな。じゃあ俺は火と水がいいかな。魔法剣士って少し憧れていたんだ」
「ならオレは回復の光魔法か。武器の才能はどうする? ……って、魔法剣士なら聞くまでもないか」
「剣一択!」
「オレは後衛になるから槍か弓。いっそ種族で『エルフ』を選ぶか? 20消費するし体力も落ちるが、魔法と弓の才能は魅力だ」
「でも亜人は生活の方で問題がありそうだよな。『後ろ盾のないエルフは奴隷狩りの対象になる』ってあるぜ」
「普通に人間の方が無難か。んじゃ、とりあえず戦闘系スキルを作成したらお互いに確認だ。
いいか? 戦闘系だけだからな。才能欄には他にも面白そうなスキルがあるが、手を出すなよ?」
一馬のやつ、アイドルに信じられないほど貢いでいるダメ男なのに、こういうときは頼りになる奴だったんだな。
と、いうわけで俺と一馬は作成にはいった。
こういったゲームのキャラ作成は何度もやったので簡単だ。
【剣才能】【火魔法才能】【水魔法才能】これでコスト25.
【腕力UP】【素早さUP】【体力UP】【器用さUP】【魔力UP】を一段階取る。これでコスト50。
【腕力UP】と【体力UP】をもう一段あげて硬い剣士を目指そう。
「終わったぞ。一馬、これでどうだ………ってなにやってんのオマエ!?」
なんと一馬はまったくタブレットも見ずに、アホ面でどっかの女子高生を眺めまわしている!
「うわっ! オマエ誰だ!?………って、魔法剣士になった裕人か。スマン。『ピュアフレンド』の遙ちゃんや『セイントキッズ』のノリミちゃんにクリソツな子がいきなり現れて………」
なるほど。確かにさっきまでいなかったアイドルやら女優やらイケメン俳優みたいなのがそこら中に出現した。【魅力】スキルの威力がわかって使ったのだろう。
特に女子がヤバイ。アイドルやらモデルやらに出てきそうな子があちこちに出てきたのだ。どうやら女の本能で美貌を競い合っているらしく、歯止めがきかなくなっているらしい。
「そんなもん見てないでキャラ作成早くやれ! パーティーメンバーも探さなきゃなんねぇんだ」
「そ、そうか! パーティーに遙ちゃんやノリミちゃんが入ることも………」
「ねぇよ! 思いっきり足手まといだ! さっきオマエに感心したオレを返せ!」
それにしても【演技力】だの【音楽才能】などがあるのがわかった。これはワナだ。ゲームⅤまでクリアしてその才能を持って帰れば芸能人になれる。
だが、そんな誘惑にのった奴が、このわけのわからんゲームに生き残れるとは思えない。戦闘系スキルが足りなくてあの世行きだろう。
さて。一馬が作成やっている間ヒマなので【才能欄】を見ながら生活スキルを何にするか探していたのだが、最後の方に妙にポイント消費の激しい謎スキルがあった。
【邪眼 50】その目で睨んだもののステータスを低下させ、混乱、錯乱を起こさせる。
【竜眼 100】全てを見通す目を持つ。近い未来なども見ることができる。(常時魔力を消費する)
【武の達人 85】腕力UPⅡ 体力UPⅡ 素早さUPⅡ 器用さUPⅡ 剣才能 槍才能 弓才能 斧才能 体術才能 盾才能
【賢者 75】光魔法才能 水魔法才能 土魔法才能 魔力UPⅣ
【大魔導師 65】火魔法才能 風魔法才能 魔力UPⅣ
【幸運力 70】大きな幸福を引き寄せる。クジなどはほとんど当たる。
【神聖力 100】光魔法の威力が三倍になる。大きなカリスマを持つ。
【勇者の紋章 100】腕力UPⅢ 体力UPⅢ 素早さUPⅢ 器用さUPⅢ 魔力UPⅢ 剣才能 槍才能 斧才能 弓才能 盾才能 火魔法才能 勇者と呼ばれるための大いなる試練がふりかかる。この世界最強の存在が敵になるかも?(まず生き残れません)
さすがにどれもチートだけどないな。ポイント消費が多すぎて一点突破になってしまう。
特に【勇者の紋章】は、取ったヤツがいたら絶対仲間にしてはいけない。
『この世界最強の存在が敵になる』とかどんな冒険をさせる気だよ!
その中で惹かれるのは【竜眼】だ。さすがにポイントを100全部消費するので選択は論外だが、本当に未来が見えるのか試してみたい。
俺は一旦全ての選択を戻し、【竜眼】を押した。
ポイントは0になった。
「さあ、未来は見えるか?」と思ったのだが…………
「なんだこりゃ?」
なんとその竜眼を得て見た景色は、首を左右に振ったように激しく揺れているのだ。いや、それだけじゃなく激しく立ったりしゃがんだりするように上下にまでブレている。
「ひでぇ。こりゃダメだな。まぁ、元々選ぶつもりはなかったがな」
タブレットの【戻る】を押して竜眼を解除をする。
俺は【戻る】を押したつもりだった。
ところがさっき述べたように、俺の視界激しくはブレまくっている。
おかげでその横の【確定】ボタンを押してしまったのだ!
画面には『キャラクター作成は完了しました。次は冒険者パーティーを組んでください』の文字が!
「ギャアーーー!! 俺は何てことを!?」
混乱した俺は立ったりしゃがんだり、首を左右に激しく振り回したり、転げ回ったり。
(ああ、さっき見たのはこの光景だったのだな)
混乱した思考の奥で、そんなことをうすぼんやりと考えたのだった。
はからずも竜眼だけで異世界へ行くことになってしまった裕人。
望みを親友の一馬に託す!
はたして一馬の身につけるスキルは?