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竜眼でゴブリンゲーム  作者: 空也真朋
第3章 ゴブリンの森でつかまえて
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28話 【幕間】カルマーリアの花束

 (あ~あ。早くヒロト、帰ってこないかな)


 心の中でそっと呟いた。

 いつも面倒な交渉を引き受けてくれるあいつのありがたさを、深くかみしめている最中だ。


 オレはカルマーリア。実は春島一馬という元男で、今は異世界のエルフアイドルだ。

 さて、オレ達のリーダーのヒロトが現在出張中のため、現在は冒険者活動はできず、金策の歌の仕事に励んでいる。

 相変わらずオレのステージは評判が良く、熱心なファンもついてけっこうな金を稼げている。


 しかしアイドルにとってファンという存在はありがたい反面、ありがたくないファンというものもいる。

 応援じゃ満足できなくなり、”やらかし”や”ストーカー”に反転した者達だ。


 さらにここは異世界。中世さながらの貴族なんかもいる。そういう連中がファンになると、堂々と愛人になることを迫ってきたりするのだ。

 これは異常なことではなく、芸能の世界では有力者の愛人になることなどは普通で、むしろありがたいものなのだそうだ。


 だがオレにとってはありがたくない。特にしつこい相手には。



 「カルマーリアよ。何故(なにゆえ)我の申し出を受けぬ。我の申し出を受ければ、そなたの生活は一変するのだぞ」


 と、オレの正面にいる『見るからに貴族』な格好をした中学生くらいのアレクというお坊ちゃんに愛人になるよう迫られている。(この年で愛人を持とうとか!)

 場所は冒険者ギルドの奥にある一室。このお坊ちゃん、ギルドにとっても相当に厄介なお方らしく、ギルマスがわざわざ貸してくれた。


 このアレク坊ちゃん。直接オレに話せることに浮かれているのか、相当にオイシイ条件を並べ立てオレを説得する。かぐや姫にでもなった気分だね。

 が、オレの返事は決まっている。


 「私は今の生活が気に入っております。仕事を離れ、あなた様一人に歌いお仕えする気はございません」


 「なんだとエルフ!」「無礼な!貴様、誰に向かって言っている!」


 はい、これは後ろの腰巾着さんたちですね。(坊ちゃんの護衛らしい)

 このアレク坊ちゃん、とてもとても高貴なお身柄であるにもかかわらず、わざわざ御大を汚らしい冒険者共の集うギルドへとお運びいただいているのだそうだ。(腰巾着さん談)

 『誰に向かって』と言われても、どこのお貴族様か言ってくれませんのですがね。


 「黙れ。そなたら、我とカルマーリアとの会話に口をはさむな。我は彼女のこういう無礼なところも気に入っているのだ」


 どこか無礼がありましたか? 最高に重要な顧客と話す営業トークで話してますが。


 「わかった、カルマーリアよ。そなたが歌の仕事を続けたいなら我は最大限の支援をしよう。『貴族御用ギルド』へ所属させ、大きな舞台(ステージ)で歌わせてやろう!」


 『芸能ギルド』とは歌や芝居の公演をする者を統括するギルドだ。只の『芸能ギルド』に所属するだけでもけっこうなハードルだが、『貴族御用』ともなれば貴族に披露するだけあって最高級の演者しか所属できない。

 つまり最高に栄誉なことだが………


 「申し訳ありません。辞退させていただきます」


 「何故(なにゆえ)だ!? そなたは何故にそこまで(かたく)ななのだ!? 大きな舞台で歌ってみたいとは思わんのか!?」


 思いだけはあるんだけどね。

 ゴブリンゲームがあるんだよ。

 それに参加して勝ち抜かなきゃ消されてしまう。

 だから冒険者はやめられず、歌の仕事もここの冒険者ギルド限定だ。


 「こうして話してもらちがあかぬな。よし、ここは我の力を見せてやろう。カルマーリア、そなたに決闘を申し込む!」


 「はぁ? アレク様と私が決闘をするのですか? 私に勝って何の力を証明なさるので?」


 スライムより弱いオレに決闘を挑むだと? 奈落の底まで名を(おとし)めるぞ。


 「無論、互いに傷など負えぬ身だ。互いに代理人をたてよう。カルマーリア、そなたはあの用心棒の大男を出すがよい」


 「ライデンですか。彼は強いですよ。勝てる者がいるとは思えません」


 「それを打ち破ってこそ意味がある。もし私の代理人に勝てたならそなたをあきらめることにくわえ、五千ラーリを支払おう」


 日本円にして5百万円くらい? なんという金満家だ!


 「わかりました。ライデンに伝えます。場所はギルドに場をもうけてもらいましょう。そしてライデンが負けたならば、私はあなたのものになることを誓います」


 死ぬほど言いたくないセリフだが、言わねば収まらない。

 まぁライデンに勝てる奴などいるとも思えないし、いいんだけどね。


 「ふふん。そなたも高貴なるものの力を思い知るであろう」


 そんな不気味なセリフを言い残し、アレク坊ちゃんは立ち去った。


 



 そして決闘当日――――――


 「アレク様、これはいったいどういうことです?」


 オレは彼から貰った美しい花束を持ちながら(実に邪魔だ)、隣に座る彼にジト目でたずねた。


 場所はギルドが冒険者の闘技場に使っている広場。

 見物人はその異様さにざわめく。


 ライデンはいつもの皮鎧に木槍といういでたち。


 相対するは全身プレートメイルで実戦用の槍、剣で固めた完全武装の屈強な兵士。

 ――――それが100名。

 彼らは規則正しく整列し、無駄口ひとつたたく者はいない。よく訓練された本物の兵士だというのは素人目にもよくわかる。


 オレ達は最前列の、わざわざしつらえた他の観客より一段高い場所で観戦している。

 アレク坊ちゃんはそこに据え付けた豪奢な椅子に座り、いつもの腰巾着な護衛を両脇に控えさせ、実にご満悦だ。


 「カルマーリアよ。これが高貴なる者の戦いというものだ。我が戦いをなす時は(いくさ)以外ありえない。言っておくが、あの兵士一人でも冒険者一人など簡単に組み伏せるであろう」


 だったら一番強い奴一人だけ送れよ! 装備も天と地ほどの差があるし!


 「が、我はあえて汚名を被ろうとも、そなたに『高貴なる立場』というものをを知ってもらいたかった。これらは我の力のほんの一部。頑ななそなたにも、それに抗うことがいかに愚かかわかるであろう?」


 ううっヤバイ! オレはこの中学生くらいのガキんちょの愛人になるしかないのか? そしてゴブリンゲームにも出られず、消滅(デリート)の運命なのか?



 「アレク殿、いいかの」


 ふいに決闘場に立つライデンが声をかけてきた。


 「なんだ下郎。気安いぞ」


 「あんたがどれだけ上の人間だろうと、今は決闘の相手と相手。立場は対等じゃ。それともこの決闘、ご破算にするか?」


 「…………ちっ、いいだろう。用件を言え。もし、おりたいと言うのならその場で(ひざまず)き………」


 「勝負方法じゃがの。『このまま(いくさ)のように戦う。決着はワシかそちらの隊長兜を被っとる奴が降参する。もしくはワシかそちら全員が戦闘不能になる』これでよろしいか?」


 「は、はぁ? そなた戦う気か? 百名の兵士と? 正気か!?」


 「聞いとるのはワシじゃ。それでよろしいな?」


 あ、アレク坊ちゃん。百名もの完全武装兵士に、ちっともビビッてないライデンに逆にビビッている。


 「フ、フン。力の差を見せ、無駄な犠牲を出さぬよう配慮した我の慈悲を無にしおって。それで良い! パウルダーン、その愚か者を痛めつけてやれ!」


 「ははぁっ! 我が主の御下命、承りました!」


 いったい何者だろうね、このお坊ちゃん。

 さっき応えた隊長兜の人、どう見ても正規の騎士だぞ。

 なにはともあれ、立会人の合図で決闘は始まった――――――







 ――――そして結果。

 ライデンは返り討ちにしてしまった。

 彼は百名もの完全武装の兵士を全員を叩きのめし、これをうち破ってしまったのだ。

 多数の屈強な兵士がうめき声をあげて嗚咽している中、ライデンは悠然と立っている。

 伝説になる強さだな、まったく。


 「そ………そんなバカな! パウルダーンの隊が………」


 アレク君は左右の護衛と共に目をシロクロさせている。

 うむ。自分の力が及ばない権力者を見るのは実に気持ちがいい。

 

 おっと、こんな素晴らしいシーンにメインヒロインたる者が何もしないのはいけないな。


 オレはアレク君のくれた花束を主役のライデンに放り投げ、手を振った。


 ライデンは落ちてきた花束でオレに気がつくと、隊長兜を槍の穂先にかかげ、雄々しく応えた。


 するとワッと一斉に歓声がわき拍手が鳴り響く。


 まるで祝福される勇者とヒロインだな、と思った。


 


 

 次回より新章開始! 第二ゲームが始まり、新たな転移者の冒険者パーティーと出会います。

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