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竜眼でゴブリンゲーム  作者: 空也真朋
第3章 ゴブリンの森でつかまえて
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24話 有翼族の少女 ノリミ

 俺はこのクエスト参加で相当数のゴブリンを見た。アビスレインの襲撃もあわせて、その恐ろしさもおぞましさも知り尽くしたと思っていた。

 だが、見ていないゴブリンの闇はまだあった。

 ゴブリンの苗床だ。


 「………うっ……うぇっ」


 その場所にきたとき、俺は思わず吐き出してしまった。

 そこには裸の様々な種族の女性の死骸がいくつもあった。

 さらにそこに小さなひな形のようなゴブリンが群がっている。生まれたばかりの子ゴブリンだ。

 ユリアさんの話によると、孕み袋にされた女性は死ぬと子ゴブリンのエサにされるそうだ。


 「あなた、この場所は初めてなの? 最初は大抵吐くものだけど、二回目からはそうでもないのよ」


 ユリアさんは事もなげに言った。

 本当にこの人の見方がすっかり変わったよ。最初に感じた『可憐な佳人』というイメージは、もはやカケラも無い。


 「みんなはそこらにいる子ゴブリンを殺しておいて。ヒロト、あなたは私と奥へ進んで依頼の女の子を保護するわよ」


 「生きているのかな?」


 「しっかりしなさい。二人ともタブレットに”ノークリア”って表示がされているでしょう? つまり生きてるってことよ」


 そうだったな。タブレットで転移者の生存を確認できるのは便利だ。


 さらに奥にある、生臭い獣の精液の臭いが漂う部屋にその娘たちはいた。

 所々むしられてはいるが、背中に一対の鳥の羽を持った二人の少女たちだ。

 彼女らはすえた臭いのする藁の上に裸で投げ出されていた。


 「ああ、この娘たちだわ。依頼の特徴通りの有翼族の女の子。ノリミとミュンって娘よ」


 鳥の羽を持つ有翼族か。

 おおかたイメージでそれを選んだのだろうが、あまり戦闘が強い種族とはいえない。ぶっちゃけ弱い。

 空を飛べる種族なのだが、引き換えに体重がひどく軽くて当たりが弱いのだ。


「あら、子ゴブリンがここにもいるわね。退治しておかないと」


 彼女らに群がっている生まれたての子ゴブリンを発見して、事もなげにユリアさんは言った。

 ゴブリンとはいえ、子供を簡単に『殺す』と言えるユリアさんに俺はけっこう引いている。

 そんな引きつった顔をした俺に、彼女はたしなめるように言った。


 「ゲームは別にしてもゴブリンは生かしちゃいけないのよ。子供だからってね。すぐに大きくなって人間を襲うようになるわ。特に襲撃にあったゴブリンは凶暴になるわ。人間への怨みを絶対に忘れないで残忍になるのよ。

 子ゴブリンを殺したことがないなら経験しておきなさい」


 と、親切にも子ゴブリンの始末を俺にまかせてくれた。

 まったく、ヤクザかマフィアの入会儀式でも受けさせられてる気分だ。

 涼しい顔でそれを指示する彼女は、そこの冷酷な女幹部か。


 俺は小剣(レイピア)を握って構えた。カルマーリアから借りたものだ。

 怯えた目をむける子ゴブリンは人間そっくりな恐怖の表情をして、どうにも手が震える。

 だが覚悟を決めて刺し貫こうとした時だ。

 ふと、倒れていた有翼族の少女の一人が目をさまし、ムクリと起き上がった。


 「あ…………あなた達……は?」


 「あ? ああ、君達を救助しにきた冒険者パーティーだ。ついでに言えば、君達と同じ転移者だ」


 今から殺そうと思った子ゴブリンは「キーッキーッ」と鳴いてその子にすがっている。

 まずいな。状況から見て、そこらの子ゴブリンはこの娘が産んだものだ。

 まさかと思うが、子ゴブリンに情でも移ったら殺しにくくなってしまう。

 と、心配したのだが…………


 「うっ………うわぁぁぁぁぁ!」


 いきなりその娘は叫びだし、子ゴブリンを振り払った。

 そして俺のレイピアを奪うと、無茶苦茶にふりまわして群がっている子ゴブリンを殺しはじめた。


 「あんた達なんて………私の! ミュンの子供じゃない! このこの!」


 その狂ったように子ゴブリンを殺しまくる姿に、俺もユリアさんも唖然と見ているだけだった。

 『ゴブリンの子供を産む』ということがどういうことか。彼女の(さま)で想像できてしまった。






 「落ち着いたか?」


 「………うん。もう大丈夫。いきなり暴れたりしないよ」


 子ゴブリンを全て殺してしばらくすると、ようやく彼女は落ち着いた。

 俺はユリアさんに「なだめといて」と言われて彼女についている。

 本来なら女性のユリアさんの役目だろうが、もう一人の具合があまり良くなく、光魔法で【小癒(ヒール)】をかけるためにそっちへついている。


 「名前は?」


 「ノリミ。ねぇ、あっちの方にタブレットがあるはずだから取ってきて」


 彼女の言う通り部屋の片隅を探してみると、本当にそれはあった。

 彼女ともう一人の二つともだ。


 「よく捨てられなかったものだ。ヤツら(ゴブリン)にとっては只の石版だろうに」

 

 ノリミにタブレットを渡しながら言った。彼女は大事なもののようにそれを抱きしめた。


 「これは元の世界に帰るのに必要なものだから最後まで守ったの。これさえあれば、いつか日本へ………」


 「やっぱり帰りたいか。日本へ」


 「………うん。こんな体になっても生きていたい。私の(うち)に帰りたい。お父さんお母さん、それに舞に会いたい。学校の友達にも…………」


 『舞』というのは彼女の生まれたばかりの妹だそうだ。

 はからずもゴブリンとはいえ、彼女も出産を経験して何を思ったのか………やめよう。

 それはともかく、残り時間から考えてその願いは叶いそうにない。それでもわずかな可能性は残されているか考えてみる。


 「さっき殺した子ゴブリンがカウントされたかもしれん。ノルマはあと何匹だ?」


 ノリミはタブレットを操作しながら自分の残りノルマを確認する。


 「あと四十八匹。これでもがんばったんだよ」


 「四十八か。君がクリアするには遠すぎる数だな。時間的にも狩りに出直す猶予はない。残念だな」


 「………………うん、わかっている。それでも、このままゴブリンの巣で最期を迎えるよりずっといいんだよね。仲間たちと一緒にここ(ゴブリンの巣)じゃない場所で死ねるから幸せなんだよね………」


 この言葉はノリミが自分に言い聞かせているように感じた。

 そのまま彼女は俺の胸で泣き出した。


 「………でも……でも………みんなに会いたいよぉ……………」


 俺は何も言えず、黙って彼女を支えてやるだけだった。

 胸に濡れる彼女の涙がやけに熱く感じた。

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