23話 【眠る白羊】というパーティー
目的のゴブリンの巣穴に着いた頃には、目的だったマユのノルマは達成した。
しかもいつの間にか百匹越えをしてボーナスにまで到達してしまった。
百匹以上もの襲撃があるとは、本当にこの辺りのゴブリンはすごいな。
数だけでなく質まで高い。
特に巣穴に到達した頃に襲われたゴブリンは、やけに手強くゴブリンとは思えないほどに統制もとれていた。そして体も一回り大きく、獰猛な面構えをしている。
どうにか斃したあと、その死体を見てユリアさんは言った。
「これよ。ニキッドが不覚をとったゴブリンは。やはりただの大物じゃないわね」
俺とマユはそのゴブリンに見覚えがあった。
謎の知性体ゴブリンのアビスレインが呼び寄せた、兵士と呼んでいたゴブリン。
その脅威を知っていたために迎撃に成功したが、初見でただの大型ゴブリンと見ていたら危うかったろう。
「これはゴブリンであってゴブリンでない別物の魔物とみた方がいいな。さすがに巣穴の中までは俺達では荷が重い。まかせていいか?」
「もちろんよ。ここまで楽をさせてもらったし、私達の本領を発揮させてもらうわ。サンカイ、盾を構えて先陣。グレン、二番手で迎撃」
次にユリアさんでその次が俺。シュウスイは背後の警戒という陣立てで巣穴に突入した。
「左手に2。右上にも1。奇襲が来るぞ」
後方にいようと、暗い洞窟の中だろうと俺の斥候の役は変わらない。斥候といっても、後方で竜眼で見るだけでその役を果たせてしまえるのだから楽だ。
俺がいる限り罠も奇襲も意味を成さない。
いくつもの奇襲や罠をかいくぐり、ようやく最奥の手前まで来た。
「ここが最後だ。ここを曲がった下り坂30メートルほど先に最後の一群がいる。迎えるゴブリンは二十匹ほど。ただし、十匹ばかし弓手とボスに魔法使いらしきやつがいる」
「他に罠は? 足場や上左右に仕掛けは?」
「無い。弓と魔法だけだ」
「さすがにここまで踏み込まれることは想定していなかったようですね。ならば行きますか。サンカイ、グレン」
シュウスイがそう言うと、二人はニヤリと笑ってそれに応えた。
「出るぞい。立ち止まるんじゃねぇぞい」」
「フッ、愛ある限り命燃え尽きるまで戦いましょう」
「俺の拳が真っ赤に燃える。敵を倒せと輝き叫ぶ!」
どこかで聞いたようなセリフで三人は突進の構えをとる。
ユリアさん以外の三人が突撃して突破する策だそうだ。
先頭は大柄な体格のサンカイ。彼は武器を持たず、大楯を持った重装備でパーティーの盾に徹している。土魔法でさらに肉体を硬化することができるそうだ。
サンカイは盾をかまえて飛び出す。その巨体の背後に隠れながらグレン、シュウスイが続く。
大楯と肉体でサンカイは矢をはじきながら進む。
間近にゴブリン群にせまり、グレンが牽制の火魔法を放とうとした瞬間だ。
――――ガラッ
いきなり三人の足場が崩れた!?
バカな! そんな罠などなかったはずなのに!
三人は敵を前にして「ぐはぁぁ!」と派手に転倒する。
ふと見ると、ボスのゴブリンが何やら術を使った気配をさせている。
そうか、ボスのゴブリン魔法使い!
あれが魔法で三人の足場を崩したのか。
「ライトボール!」
三人の危機にユリアさんは飛び出し、魔法の光弾を発射した。
その光弾はゴブリンの群れの中でまばゆく輝き、三人を屠らんと群がるゴブリン共を一瞬混乱せしめた。
ユリアさんに続く俺もまたここが正念場だとみた。
「マユ、サンドブラストだ。撃て!」
俺は杖を掲げてもっとも射程の長い土魔法を要請した。
「砂を撒きちらし飛べ。【砂噴射】!」
杖から勢いよく砂のシャワーが噴出される。
俺は立ち直りそうなゴブリンから順に顔へ砂のシャワーをあびせ、さらに混乱を煽る。
その間にサンカイとグレンとシュウスイは体勢を立て直し、攻撃に転じる。
「おのれ小鬼ども! よくもやってくれたな!」
「俺の拳が怒りで燃える! ほとばしる!」
「我が剣はうず潮の流れ! 断て、邪悪なる者どもを!」
と、三人は厨二セリフをきめながら瞬く間にゴブリンを殲滅した。
「いや~素晴らしい! まるで後楽園のアトラクションショー。いえ、あれよりさらにリアルで素敵すぎです!」
と、マユは三人の活劇をみて大喜び。
「リアルなのは当然だろう。リアルの戦闘なんだから」
「私が言っているのは”美学”ですよ。あの戦闘後のキメポーズを見なさい。まるで映画のようにカッコいいでしょう!」
「………うん、何やっているんだろうね。けっこうヤバイ戦闘だったってのに」
三人は俺達に見せつけるようにそれぞれの武器を掲げてポーズをとっている。
「いや~素晴らしい。あれがリアルな勝利のポーズ! ぜひフルメンバーで見たいものです。あ、ユリアさんも参加して! リーダーがいなきゃ片手落ちですよ」
「……………………私は許して」
恥ずかしそうに真っ赤な顔を背けるユリアさん。
難儀なパーティーのリーダーだな。心から同情するよ。




