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竜眼でゴブリンゲーム  作者: 空也真朋
第3章 ゴブリンの森でつかまえて
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22話 冒険者は眠らない

 【眠る白羊】というのは、やはり良いパーティーだ。

 あの自己紹介といい、やたらに「フッ」とニヒルに笑うところといい、言動には怪しいものはあるが、素人目にもその能力が優れていることはわかる。


 パーティーリーダーのユリア指揮のもと警戒体制をとりながら森を進み、俺とマユがゴブリン集団を攻撃しているときも迎撃体制を崩さない。

 ゴブリン以外の魔物の襲撃も幾度かあったが、俺が警戒を呼びかけるとよどみなく迎撃。

 魔物が山ほど徘徊するヤバい森の探索も、危うげなく一日目を終了した。


 夜になれば比較的安全ののぞめる場所で野宿。

 見張りを二人一組でたて、火の番と魔物の警戒をする。

 俺は中頃の時間に見張りを担当する。それまでは自分のテントで眠っていた。


 「ヒロトさん、起きてください。そろそろ見張りの時間ですよ」


 夜半頃、テントの前で大地に根を張って魔力補給しているマユに起こされた。

 これでまた明日には魔力が全回復するので、マユは見張り番を免除されている。


 「もうそんな時間か。ううっ眠い」

 「おはよう、ヒロトさん。見張りがんばりましょう」

 「ぅひっ! ユリアさん!?」


 テントから這い出した寝ぼけ(まなこ)の先に、ユリアさんがいた?

 ビックリした! 寝起きの顔を見られてしまったよ。


 「マユさん、起こしてくれて助かったわ。つき合いの浅い男の人を起こすのは、ちょっとためらいがあるのよ」


 彼女は俺の見張りのペアだ。

 ちっ。ユリアさんに起こしてもらいたかった気持ちがあるぞ。


 「どういたしまして。ところで【眠る白羊】の手際を見せてもらいましたが、正に『本物の冒険者』って感じですね」


 「先輩冒険者から習ったことを普通にやっているだけだけよ。【はねる双魚】(そっち)はどうしているの?」


 「うちはライデンさんの武力とヒロトさんの竜眼頼みで適当にやってきました。金策ばっかりやってて、冒険者の活動みたいなのは全然です」


 「ウチの貧弱メンバーじゃ、よほど装備の質をあげないと冒険どころじゃないんだよ。冒険自体で金を稼ぐことなんてできないし」


 「よくそれで………まぁいいわ。ヒロトさん、見張りにはいりましょう」


 

 星の夜空の下、たき火を挟んでユリアさんと二人。

 漆黒の世界でただ一つ明るい炎が、ユリアさんの端正な美貌を照らす。

 言葉にすれば陳腐だが、本当にこの世界に彼女と二人っきりになったようにさえ思える。

 それはともかく、良い機会なので【眠る白羊】についての疑問を聞いてみることにした。


 「【眠る白羊】って、なんでユリアさんがリーダーなんだ? 男四人に女性一人のパーティーで、たった一人の女性がリーダーってのは珍しいんじゃないか?」


 「私達全員偶然にもネットゲームの知り合いだったから、パーティーを組んだのよ。でも、まともに社会生活を送ってきたのは私だけ。みんなひどいオタクで、引きこもりかそれに準じた生活だったみたいなの。どうりで全員レベルが高いと思ったわ。」


 あの好青年っぽい兄ちゃんたちがか?

 ああ、【魅力UP】と戦闘力系のスキルで容姿が大きく変わったのか。


 「それで、まともに他人と交渉のできる私がパーティーの代表になったわけ。最近はみんな冒険者として認められて、社会性もでてきたみたいだけど」


 なるほどね。まぁあの自己紹介は、まだ病気は根治できていないようだが。


 「今回の仕事について聞きたいんだが、苦労したのか? ケガ人も出ているようだし」


 「ええ。この森は相当に苦労させられたわ。見通しが悪くて敵の接近がわからないのが大変だったのよ。ありがとう。あなたの竜眼とマユさんの魔法のお陰で消耗もなく最短距離で進めるわ。信じられない速さで、明日には目標のゴブリンの巣穴に着くわね」


 そうか。やはり探索や警戒に関してはこの竜眼はチートだ。


 「こっちも、このクエストでは良い経験をさせてもらった。冒険のやり方を学ばせてもらえて実にためになったよ。明日はゴブリンの巣を攻めることになるが、その方法を聞かせてくれるならありがたい」


 「あなた達もゴブリンの巣穴を何度か攻めたんでしょ? 四人クリアしてるんだし。何度か経験してるんじゃないの?」


 「いや………まぁ、そのことは話さないでおこう。とにかく俺はゴブリンの巣穴攻めはほとんど素人だ………うっ!?」


 話の途中のことだ。

 俺の竜眼は森の先のとある脅威をとらえた。

 火の明かりに引き寄せられ魔物が接近してきたのだ。


 「どうしたの?」


 「猪みたいな魔物が近づいてくる。二百メートルほど先だ。みんなを起こそう」


 「数は一匹? 大きさは具体的にどのくらい?」


 「一匹だけだが、体長は3メートル近くもある。まずいな。たき火を目指してこっちに来るみたいだ」


 「ベルトボアね。いいわ。それくらいなら私一人で大丈夫」


 ユリアさんは側に置いてある自分の剣を掴むと、真っ直ぐ魔物に向かって駆け出した。一人でアレを狩る気か?

 彼女は茂みが深くなっている場所に身を隠し、猪が近づくのを待つ。

 やがて猪がほどよく近づいた瞬間、一気に動いた。


 「ホーリーライト!」


 眩い魔法の光を発生させ猪の目をくらませると、一息に猪の喉元に剣を突き立てた。


 「グオォォォォ!」


 猪は短く断末魔を吠えると、その巨体を倒し絶命した。

 

 「強ぇぇ! 本当に一人で斃した?」


 少し活動的な女性にしか見えなかったのに、何なのこの強さ?

 ふと気がつくと、【眠る白羊】の他のメンバーが起きてきた。


 「フッ、ユリア。ベルトボアを斃したのか。明日はごちそうだな」

 「フフッ、いいかげん携帯食には飽きてきたところです。ありがたい」

 「フフフッ、解体と血抜き、手伝うぜ。道具を持ってこよう」


 どうやらユリアさんが猪を斃した音で目を覚ましたらしい。けっこう離れていたのに、何という察知能力だ。


 「あら、起こしちゃった? でも丁度いいわ。解体手伝って」


 彼らはユリアさんが一人でこれを成し遂げたことを驚きもせず、ワイワイと猪の解体をはじめた。

 その様は、まさに歴戦を思わせる冒険者パーティーそのもの。


 なんなの? あの謎空間でキャラメイキングしてからまだ1カ月半しかたってないのに、このベテラン冒険者の風格。

 つくづく、俺達【はねる双魚】との差を思い知る。

 いやはや、スタートの差というのはかくも大きいものか。

 普通にキャラメイクした場合、この世界での中級よりやや上ぐらいの冒険者の能力を得ることができます。

 次回、ゴブリンの巣穴に突入!

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