21話 重篤厨二病患者マユ
ユリアさんに連れられ【眠る白羊】のメンバーの揃っている中庭に来た。そこにはすでに知っているニキッド他三人の体格のいい兄ちゃん達がいた。
俺たちが来たとたん、突然【眠る白羊】全員が謎ポーズをとった?
「緑風のニキッド! 駆け抜ける旋風、遊撃の疾風!」
「赤炎のグレン! 我が操る炎は大地を舐め這い寄り侵略する!」
「黒山のサンカイ! 富嶽の土使いにしてパーティーの羅城!」
「青水のシュウスイ。思考する水仙、命の泉」
「………び、白光のユリア。癒やしの光、パーティーの灯火」
――――ビシィッ!!!(カッコいいポーズ)
「「「「我ら【眠る白羊】!!! クエストを踏破する者達なり!!!」」」」
「(…………ゴニョゴニョ)」
ユリアさんだけは照れがあるな。しかし何だこれは?
ユリアさんはいち早くポーズを解除し、顔を赤くして説明してくれた。
「コホン。我々は基礎の戦闘力の他に、それぞれ一系統ずつ魔法の才能を覚えています。さっきのはその紹介だと思ってください」
いや、あきらかにユリアさん以外の趣味だろう。ユリアさん、つき合わされて可哀想に。
「いいですね、いいですね! やはりああいうキメポーズ入り名乗りはロマンですよ」
……………マユ? 正気か。
俺には『いい年した兄ちゃん姉ちゃんが何やってんだ』としか思えん。
「実は私、重篤の厨二病患者。現代ではああいうカッコいい名乗りと謎呪文と物語は毎日考えていて、黒歴史ノートは数十冊にも及びます」
…………ああ、土妖精になってまで最強魔法使いにこだわったのはそれか。
この娘は忌まわしき宿星のもとに生まれ落ちた悲しき厨二なのだ。
「そこで提案なんですが、【はねる双魚】でもああいうカッコいい名乗り、やりませんか? せっかくの異世界ですし」
冗談じゃねぇ! 俺らがやったらさっき以上に痛々しいモノになるぞ。
【眠る白羊】は実力があるから、まだカッコ良く見えないこともない。
しかし貧弱揃いの【はねる双魚】がやったら、完全に悶絶死確定だ!
「マユ、ああいうのはメンバー全員が実力者だから映えるんだよ。貧弱揃いの俺達がやっても、死にたくなる黒歴史を築くだけなんだよ」
「『真実を暴く黄金瞳! 我が名は竜眼のヒロト!』なんてどうです? ポーズはリーダーだからこう……こうですかね」
………聞いてないな。さすが重篤厨二病患者。自分を冷めた目で見てしまう俺にはキツイ世界だ。
そこへありがたくもユリアさんが話を本筋へ戻してくれた。
「さっきのは早く忘れて。それより本題だけど、さらわれた娘たちのことを考えると時間がないの。今からクエストに出発するけど、問題ないわね?」
「ああ、歓迎会を受ける気分じゃない。君たちが仕事に真摯で熱心なパーティーで安心したよ」
厨二病患者共の歓迎会など受けたくない。俺様武勇ヒストリーとか聞かされたら、帰りたくなってしまう。
「わかりました、白光のユリアさん。その無垢なる灯火に私達も導かれましょう!」
「……………『白光』はヤメテ」
ユリアさんは恥じ入りそうな声で懇願した。
厨二の病にかかってない人には本当にキツイんだよな、このノリ。
ともかく俺達は荷物の確認をして調査する場所のことを聞くと、待機するニキッド以外の【眠る白羊】のメンバーと共に救出クエストに出発した。
「………なるほど。これはヤバイ」
そこは大規模なゴブリンの縄張りがあるという【黄昏の森】
異世界の木々がうっそうと生い茂り、昼でも薄暗い。
これでは森の獣は不意打ちし放題だ。
その入り口にさしかかる頃に竜眼で森一帯を見回してみたのだが、やはりけっこうな難易度の森だと判明した。
「森がヤバイのは見かけ通りだけど、竜眼ではそれ以上にヤバイものでも見えたのかしら?」
「ゴブリンの巣穴の位置は大体把握した」
「もう!? 私達は一週間以上森にこもって、やっと大体の位置にアタリをつけたのよ」
「ああ、確かにたどり着くのに二三日はかかるな。そこは相当入り組んだ場所にあって罠も多い。しかも中心を守る奴は只のゴブリンじゃない」
【兵士ゴブリン】
そう呼ばれていた獰猛なゴブリンがいる。
「なるほどね。ニキッドが負傷したのは、ゴブリンの巣と思われる場所に近づいたらとんでもない強さのゴブリンに不意打ちされたからだけど、もしかしてそれかしら。ゴブリンを優先的にあなた達に倒させる約束だったけど、大丈夫?」
「問題ない。ここから五百メートルほど先にさっそく第一陣だ。マユ、いけるな?」
「もちろんです! ヒロトさんもお願いします」
パーティーは慎重に俺の見たゴブリンの集団に向かう。
近づくと俺一人だけ先行し、慎重に歩を進めながらとある方向に杖を掲げる。
森がざわつき危険が最高潮になった瞬間、俺は叫ぶ。
「マユ、今だ。撃て!」
「敵を穿て礫の乱弾【ロックバレット】!」
瞬間、無数の石の礫がとある茂みに降り注ぐ。
「グギャアァァァァァァァ!!!」
そこに潜み、今正に俺に飛びかかろうとしていたゴブリン共は礫に体を砕かれ息絶えた。
「次だ。撃て!」
「敵を穿て礫の乱弾【ロックバレット】!」
さらに別方向に控えていていたゴブリン共にも喰らわせ撃滅。
一瞬にして二十匹ものゴブリンを殲滅した。
「………凄いわね」
それを見たユリアさんが感嘆の言葉をつぶやいた。
「ああ。マユの魔法は大したものだろう」
「魔法もだけど、完全に先手を取っていたわね? 潜んでいる敵をこうも正確に見抜けるんだから、やっぱりその竜眼は凄いモノだわ」
そうか。最近はすっかり当たり前になってしまったが、戦闘で完全に先手を取れるというのは凄いことなんだ。
やはりこの竜眼はチートだ。
厨二な仲間達とクエストに出発!




