20話 【眠る白羊】のユリア
【眠る白羊】の拠点にしている街アルシエーヌに着くと、ニキッドにそこにある冒険者ギルドに案内され、その一室へ行くよう指示された。
言われた通りそこへ行くと、美しく端正な顔立ちの、体格の良い女性が俺を迎えてくれた。
「ようこそ。私が【眠る白羊】リーダーのユリアよ」
「【はねる双魚】リーダーのヒロトだ。探索なら期待してもらっていい」
「そちらの状況はタブレットを通して理解しているわ。ずいぶん早くに第一ゲームで四人もクリアしているわね?」
実はタブレットの機能には『全プレイヤーゲーム過程』という欄がある。
そこには『第一ゲーム実行中』という文字の下に、『眠る白羊』メンバーを筆頭にしてパーティーごとに全プレイヤーの名前が載っているのだ。
そして各員がゲームをクリアしたかどうかがわかる仕様になっている。
即ち名前の後ろに、ゲームをクリアしたなら青で”クリア”。未達成なら赤で”ノークリア”。そして死亡したなら灰色で”デリート”の文字が表示されているのだ。
現在俺たち【はねる双魚】はマユ以外がクリアになっており、【眠る白羊】は全員がクリア。依頼人の【溢れる宝瓶】は三名がノークリア。そして二人の名前の後ろには”デリート”の灰色の文字が表示されている。
「そのことを話すのはもうしばらく待ってくれ。疑うわけじゃないが、こちらの詳しい話をするにはもう少し”信頼関係”ってやつが必要だ」
「けっこうよ。とりあえずは一緒に仕事をすることでお互いのことを知り合いましょう」
「よし。ではそちらも知っての通りこのマユがノルマ未達成だ。こちらの条件は了承してもらっていいな?」
「肩のおチビちゃんに優先的にゴブリンを倒させて欲しいということね。了承するわ。ただ、ここのゴブリンはかなり強いし数も多いわよ。大丈夫ね?」
「ああ。うぬぼれるわけじゃないが、それなりの強敵でも対処できるつもりだ。それと………」
少しばかりためらいはあった。だが、思い止まる気はない。
「会わせてもらえないか? この仕事の依頼人に」
「けっこう悲惨な状況よ。悪趣味ね」
「かもな。だが見ておかなきゃいけないのさ。その”悲惨な状況”ってやつを」
俺たち貧弱パーティー【はねる双魚】にとってその状況は『明日は我が身』ということになりかねない。
だから悪趣味だろうと、その姿を目を背けず見ておかねばならないと思ったのだ。
案内されて来たのは少し高級な宿屋。
【溢れる宝瓶】の女メンバーは相当に【魅力UP】を上げてしまい、戦闘につながる技術はほとんど取らなかったそうだ。だがその美貌で金を稼ぎ、装備の良さでゲームに挑んだらしい。俺達と似たようなことをやっている。
そしてそこで迎えたのは輝くような美貌をした青い長髪の女性だった。
だがその体つきは華奢で細身。戦闘に耐えられるような体はしていない。
それによってどんな苦労をしてきたかがわかる俺は、その美貌がもの悲しいものに見えた。
「こんにちは。【溢れる宝瓶】リーダーのシオリよ。といってももう私一人だけど。そちらは【はねる双魚】の人。下位のパーティーなのにもう四人もクリアしたそうね?」
「どうにか生きている。そしてこの先もどうにか生きようと足掻いている最中さ」
「羨ましいわね。私たちはダメ。ろくな戦闘系スキルを取らなかった私たちに、どうにかゴブリンを倒させようとしてリョウとユウマは無理をして死んでしまったわ。そしてミュンとノリミもゴブリンに連れ去られてしまった」
「『その二人を助け出して欲しい』というのが依頼だったな。だが、あと数日で君たちは”デリート”なんだろう?」
「だからよ。私もあの子たちもこの状況を甘く見て、戦闘系スキルをほとんど取らなかった。愚かだけど、最期がゴブリンの巣で迎えるなんてあっていいはずがない!」
ゴブリンにメスはいない。その繁殖は他種族のメスに子種を産み付けて行う。つまり連れ去られた二人がどうなっているかは、そういうことなのだろう。
「…………そうか。そうだよな。わかった。きっと二人を助け出そう。最期は友達同士いられるよう尽力しよう」
「ありがとう。私たちはダメだったけど、きっと君たちは元の世界に帰ってね」
「ああ。それが俺の目標だ」
その時、マユが小声で俺に言った。
「ヒロトさん、例の質問。”デリート”したらどうなるか」
ああ、それも聞かなきゃいけなかったな。
少しためらいはあったが聞いてみた。
「死んだ二人はどうなった? タブレットには”デリート”と表示されているが」
「二人は死んだと思われた瞬間、どこかへ転移させられたわ。どうやらゲームから脱落したら、どこかへ召喚されるらしいわね。私もあと8日でそうなるわね」
それがデリートか………
俺は胸に苦いものを感じつつ、部屋から出ていった。
「どうだった。彼女と会った感想は?」
シオリの部屋から出てきた俺にユリアはそう聞いてきた。
「『予想した通りの運命を見て、予想した通りの気持ちになった』といった所かな。悲しい運命のパーティーだ」
「そう。ならここに来た目的は十分達成されたわね。それじゃ、仕事の話をしましょうか。みんなに会わせるからついて来て」
ユリアはそう言ってずんずん先を行く。
「なんだか有能っぽい人ですね。手を組むなら理想的ではありますね」
マユは彼女をそう評した。
「ということは『手を組め』ということか?」
「あの黒幕らしい公爵とか【アビスレイン】とかを相談するなら彼女でしょう。もっとも、言うタイミングは大事でしょうが」
「こちらの内情を話すのはまだ要観察、時期尚早といったところか。君の言う通りこっちの内情を話すのはひかえたが、そこまでする必要はあるのかな?」
「リーダーならその辺、用心してください。あの黒幕らしい奴らのことは取引材料にもなりますし」
ユリアさんは有能かもしれないが、このマユも負けず劣らず有能だ。
彼女達二人は気が合うかもしれない。
もっとも二人が手を組んだら、俺はしごかれてこき使われる未来しか想像できないが。
プロローグに出てたお姉さんがユリアです。
やっとつなげられた。




