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王の間は、最後の侵入者を迎える。

 血の匂いが立ち込める王の間に、新たに足を踏み入れようとする者達がいた。残り僅かな力を振り絞って重い身体を引きずり、戦いの結末を見届ける為に。


「師匠!地下重力の呪文を止めて下さい!」


 床に突っ伏し、身動きが出来ないジャミライスの前でチロルは叫んだ。師のタクボはその声に応えるように杖を引いた。


 単眼の悪魔を押さえつけていた圧力が霧散した時、チロルはジャミライスの背中に跳躍した。


 ジャミライスの頭部には光の剣は効かない。緒戦の教訓を生かすように、チロルは単眼の悪魔の頸部を狙った。


「ほほほ!」


 だが、鞭のようにしなる何かがチロルの右足を叩き、銀髪の少女はバランスを崩す。それは、ジャミライスの口から伸びた舌だった。


 単眼の悪魔は仰向けに体勢を変え、頭部に生えている鋭利な刃を向ける。小ぶりの剣の長さの刃が数百本放たれチロルを襲う。


 チロルは光の剣を盾にするが、防ぎ切れず左肩に傷を負う。


「チロル!」


 タクボがすかさず火炎の呪文を唱える。だが、ジャミライスは顔だけをタクボの方へ向け、大口を開けた。


 その瞬間、ジャミライスの口から黒い炎が吹き出た。赤と黒の炎はぶつかり合い、相殺された。


 その間隙を縫ってチロルがジャミライスの腹に着地し斬りかかるが、ジャミライスが右手に握った魔剣を巧みに操り防ぐ。


「くそっ。目が潰れている癖に器用な奴だ」


 タクボは続けて風の刃の呪文を唱えるが、単眼の悪魔は大きな盾でそれを弾く。その間もチロルが右手一本で連撃を繰り返すが、ジャミライスは笑いながら魔剣で凌ぐ。


 チロルは疲労からその剣筋が鈍っていた。ジャミライスはそれを察知し、魔剣を手放しその手でチロルの身体を掴んだ。


「ほほほっ!捕まえたぞ小娘!」


「くうっ!」


 ジャミライスは少女を掴む手に力を入れる。チロルは鎖骨と肋骨が軋む音を聞いた。その時、苦痛に歪むチロルはタクボの顔を見た。


 タクボは小さく頷き、チロルもそれに倣う。タクボは亡きルトガルの愛用の杖をかざす。


 その瞬間、ジャミライスの頭部に爆発が起きる。頑強な頭部は傷一つつかなかったが、爆風と粉塵でジャミライスはタクボの気配を見失った。


「······師匠。魔法使いが敵の至近に来るなんてあり得ませんよ」


 チロルがか細い声で我が師を嗜める。少女の師は、ジャミライスの腹の上に飛び乗っていた。


「同感だ!こんな事はもう二度と御免だ!」


 タクボは至近距離から風の刃を唱えた。ジャミライスの右腕は切り裂かれ、チロルは拘束から解かれた。


 チロルは空中で身体を回転させ、遠心力を加えた光の剣をジャミライスの首に叩き込んだ。


「ほ?」


 頸部に致命傷を受け、単眼の悪魔動きを止めた。タクボはうずくまったチロルの身体を起こした。


「大丈夫かチロル。随分無理をさせたな」


 チロルは息を切らせながら、弱々しくもタクボに笑顔を向ける。


「まだです師匠。ウェンデル兄さんを助けないと」


 チロルが言い終えた瞬間、ジャミライスの身体が痙攣し始めた。師弟は単眼の悪魔から急いで距離を取る。


「ほほほ?ほほほ!ほはほ!?」


 ジャミライスの右腕が無造作に床を叩き、左手に持った大盾の口から数百の腕が伸びる。痙攣は時間と共に激しくなっていく。


「······これは。意識が飛び暴走しているのか?」


 タクボがジャミライスを凝視しながら呟く。その時、単眼の悪魔の頭部が動いた。


「師匠!またあの刃が」


 ジャミライスの頭部の刃が再び放たれようとする光景をチロルは指差した。その時、王の間の天井から何かが飛来して来た。


 それは、黒く輝く鞭だった。鞭は一直線にジャミライスの腹部に突き刺さる。単眼の悪魔は一瞬動きが停止した。


 次の瞬間、長く伸びた光の刃がジャミライスの首を切断した。


「しつこいと嫌われるわよ。この化物」


「······ルトガルの犠牲を無駄にはしない」


 ジャミライスに止めを差したのは、メーシャとローニルだった。消耗した身体に鞭を打ち、二人は王の間に現れた。


 単眼の悪魔は首から大量の血を流し、完全に動きを止めた。


「······メーシャ。ローニル。助かったぞ」


 気の抜けたため息を漏らしたタクボは、王の間に響き渡る獣の様な絶叫を聞いた。それは、クリスとゴドレア戦場から響いて来た。


 全身にダメージを負ったクリスは、地に付したままだった。ゴドレアはクリスの胸ぐらを掴み持ち上げる。


「終わりか神官?戦えぬなら、もう貴様に用は無いぞ」


 クリスは至近で流血王の顔を見た。その異様な殺気は、気の弱い者なら失神する凄みがあった。


「······あんな治癒呪文は卑怯ですよ戦士殿」


 クリスは小さく呟いた。すると、クリスは自分を持ち上げるゴドレアの手首を両手で掴む。身体を捻り、まるで猿の様にあっという間にゴドレアの背後に移動した。


 クリスは両腕でゴドレアの首を締め上げる。常人であれば、即死する程の力が流血王の首にかかる。


「最も。卑怯な手口は私の得意分野ですけどね」


「ぬぐううっ!!」


 クリスは不敵に笑った。ゴドレアは呼吸が出来ず苦悶の表情に変わる。流血王はその右手でクリスの頭を掴んだ。


「ぐわああっ!!」


 クリスが悲痛な声を上げる。ゴドレアの右手はクリスの頭部を握り潰すかのように圧を加えた。


 窒息死か。頭部粉砕死か。どちらが目的を先に達成するか、壮絶な競争が行われる。その時、コドレアの腹部に大剣が突き刺さった。


 コドレアは視線を下に向ける。その先には、黒い鎧を纏った短髪の男が立っていた。


「希少な同族だか悪く思うな。アンタは一度死んだ魔族だ。元の世界へ帰るんだな」


 コドレアに致命傷を与えのはボネットだった。僅かに残った力を使い、ボネットは同じドガル一族のゴドレアに引導を渡す役目を引き受けた。


 ゴドレアは咆哮した。クリスが完全に流血王の首の骨を折り、再び時間遡及治癒を使う暇を与えなかった。


 ジャミライス。ハーガット。バームラス。ゴドレア。王の間にその威容を誇った化物達は、全て沈黙した。


 クダラにはその光景は目に入らなかった。クダラの視界には、間近に迫ったウェンデルしか映っていなかった。


 そのクダラが恐ろしい形相で睨む。クダラの目の前に、ラストルが立ち塞がった。


「退きなさい!精霊の世は目の前に来ているのよ!!」


 クダラは絶叫する。アマラを振り切り、ラバートラの器であるウェンデルを指呼の間に

迫った。


 長年の大望を目の前にし、クダラは冷静さを欠いていた。クダラは床の大理石を二箇所突出させ、ラストルを挟もうとした。


 ラストルは後方に飛んだ。ラストルが数瞬までいた場所を二つの巨大な大理石の壁が衝突した。


 高速で空中を飛んでいたクダラは、目の前に出来た大理石の障害物を上昇し避けた。大理石を通過した時、クダラの死角である真下には、光の剣を構えるラストルの姿があった。

 

「ラバートラの復活はさせない!!」


 ラストルは跳躍し光の剣を振り抜く。その斬撃は、黄金の兜を掴んでいたクダラの左手首を切り落とした。


 目の前に落下して行く自分の手首と黄金の兜を見下ろしながら、クダラは絶望感に襲われた。


 黄金の兜がウェンデルの足元に落ち、耳を突く金属音が響いた。クダラは床に落ちる寸前に、その兜を拾う者を目撃した。


「······借りは借りだ。テデスとクダラに借りを返すぜ」


 長髪を血まみれに染めた男が、黄金の兜を両手で掴んだ。その姿を見てタクボが叫ぶ。


「······ウォッカル!!」


 ウォッカルは黄金の兜を玉座に座るウェンデルに被せ、足元に置かれていた壺の液体をウェンデルの身体にかけた。


「これでいいか?クダラ」


 両手首を失い、血に濡れた床に倒れたクダラをウォッカルは見た。クダラの表情は一時の放心から、歓喜の顔に変わる。


「よくやったわウォッカル!!私達の勝ちよ!精霊の神ラバートラが復活するわ!!」


 クダラの高らかな勝利宣言に、王の間に居合わせた全ての者達は固まったように動けなかった。


 ウェンデルの身体が黄金色に包まれ、その光は色濃くなって行く。


「······ここ迄か」


 タクボはその場に座り込み、復活阻止は成らなかった事を認めざるお得なかった。


「まだです。師匠」


 タクボの隣でチロルが力強く答えた。その時、ウェンデルの頭上から黒い何かが落ちて来た。


 それを見て、クダラの歓喜の表情は一変した。玉座の背後に降り立った全身黒衣の若者は、手にした短剣をウェンデルの喉元に当てた。



 


 

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