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金髪の少年は、世界の奥深さを知る。

 三つの武装勢力による会戦は、急速に戦況が変わって行く。ゾルイド軍団の副将ハーケルとジミルは、巧みな用兵でゾルイド不在のウラフ軍団との戦線を維持していた。


 所が、首領のウラフ自身が最前線に姿を現した事で事態が急変する。褐色の肌をした巨漢は、左右の手に大剣を握り、ゾルイド軍団の副将に襲いかかって来た。


 副将ハーケルはウラフと十合競り合った後首を刎ねられた。同じく副将ジミルはウラフに胸を斬られ戦線を離脱した。


 指揮官を失ったゾルイド軍団は戦線が乱れ、浮き足立っていた。その頃ゾルイド本人はマサカドとの戦いで負傷し、ゾルイド軍団は一時的に指揮官不在となった。


 ゾルイド軍団はウラフ軍団とトウリュウ軍団に挟撃される形になり、大混乱に陥った。


「ここが勝負時だ!野郎共!ここを逃すと後が無いと思え!!」


 トウリュウが絶叫して配下を鼓舞す。理由は明らかでは無いが、ゾルイドが姿を消し、ゾルイド軍団は組織的に機能していなかった。


 ここでゾルイド軍団に致命傷を与える。ここを逸すれば、いつゾルイドに逆撃されるか分かった物では無かった。


 ライハクを先頭に、トウリュウ軍団はゾルイド軍団の陣形を寸断し、確固に殲滅して行く。


 そんな時、一方的に殺戮を欲しいままにするウラフの前に、金髪の少年が現れた。クレイドは馬上から長剣を鋭く振り抜く。


 ウラフは右手の大剣でそれを防ぐ。返す刀でクレイドの頭に大剣を落とす。クレイドは上半身を捻りそれを避ける。


 クレイドは持てる技を全て駆使してウラフを仕留めようとしたが、ウラフは二本の大剣で全て弾き返した。


「······全く。世界は広いな」


 呼吸を乱しながら、クレイドは内心呟いた。ハクライも然り。ウラフも然り。世界には自分が及ばない強者が数多に存在する事を、金髪の少年は思い知らされた。


「それが知るって事だ。クレイド。相手を知って己を知る。そうすれば、自ずと自分の出来る事が分かるってモンだぜ」


 命のやり取りの最中に、クレイドはトウリュウの言葉を思い出していた。あの貧相で横着な男は、自分が世界を変えられる器だとどうやって知ったのか。


 クレイドにはどうしても謎だった。そして、トウリュウの意思を継ぐ覚悟とその器量が自分に備わっているのか。


「分からないな。全く分からない事だらけだ」


 クレイドは息を乱し眼前の強者を見る。ウラフが残忍な笑みを浮かべ、両手の大剣を構えてクレイドに肉薄する。


「終わりだ小僧!!」


 ウラフが左右から大剣を振り上げる。それは、ウラフの完全な間合いだった。


「だが、分からないから面白い」


 クレイドは短く笑った。絶体絶命の窮地に、金髪の少年は衝撃波の呪文を唱えた。威力を抑えたその衝撃波はウラフの胸に当たり、ウラフは巨体はのけぞった。


 二本の大剣はクレイドの頭の数センチ手前で空を切った。クレイドは間髪入れず長剣を突き出す。


 その鋒はウラフの脇腹に吸い込まれた。クレイドは限界を悟り、素早くウラフの側から駆け去った。


 鋭く舌打ちするウラフの耳に、馬蹄の音と大きな歓声が聞こえた。ウラフの目の前には、ゾルイド軍団を中央突破して来たトウリュウ軍団が現れた。


 負傷したウラフは満足に指揮が出来ず、ウラフ軍団はトウリュウ軍団に攻め立てられる。


 ハクライの奮迅は凄まじく、ゾルイド、ウラフ両軍団の将達を何人も討ち取って行った。


 全滅か撤退か。極限の二者択一をウラフは迫られた。ウラフは脇の傷を抑えながら、鬼の形相で撤退を命じた。


 応急処置を終え戦列に復帰したゾルイドは、戦線が崩壊した自軍を目の当たりにした。


 この場を立て直す事は最早不可能と悟り、ゾルイド軍団も撤退を開始した。


「要塞を目の前にしてこの有様か」


 ゾルイドはトウリュウ軍団では無く、マクラン要塞を睨み続けていた。


 戦いの興奮は、突如として高止まりした。敵軍団のゾルイドとウラフが撤退して行き、戦場にはトウリュウ軍団のみが残った。


 興奮は歓喜に変わり、兵達は手にした剣を。握った槍を。拳を天に向かって突き出した。


「勝った!勝ったぞ!!」


「俺達が残った!この戦、俺達の勝ちだ!」


「おい!これであの馬鹿デカイ要塞、俺達の物だぞ!!」


 兵達の歓声は、いつの間にかトウリュウの名を叫ぶ声に変わった。その歓呼の中を、トウリュウはゆっくりと馬を歩かせ通って行く。


 その光景を、クレイドは眩しそうに見つめていた。あの口から生まれた様な軽薄な男は、見事宣言した事をやって退けた。


「······面白い。実に世界は面白いな」


 クレイドは無意識に呟いた。マクラン草原の空に、トウリュウの名を呼ぶ声はいつまでも響いていた。



 一方、王の間では黄金の兜を巡り激闘が続いていた。ラストルはゴドレアの漆黒の鞭をかい潜り、流血王に肉薄する。


「······重い!」


 ゴドレアの鞭は重く、速かった。ラストルは光の剣で鞭を払い除けたが、両腕に痺れを覚えていた。


「いいぞ小僧!その若さでその実力。お前は何を望んで冒険者となった。富か?名声か?」


 ラストルの勇戦に、流血王は上機嫌だった。黄泉から這い出て再び戦える悦びを、ゴドレアは全身で感じていた。


 ゴドレアの言葉をラストルは胸の中で反芻する。兄に憧れ、勇者ラストルの仲間になる事を夢見て冒険者になった。


 だが、冒険者とは自身で全ての責任を負う過酷な世界だった。失敗も後悔も数え切れない程あった。


 人々から感謝された翌日には、罵倒される事もあった。寸前で救った命もあれば、助けられなかった命もあった。


 いつもこれでいいのかと自問自答する日々。それは冒険者で在り続ける以上、一生ついて回る物だと知った。


「······それでいいんだ。失敗も後悔も。それが重なり続けて、僕の冒険の道となっていく!」


 ラストルはついにゴドレアの間合いに侵入した。流血王は咆哮しながら隆起した右手の大剣を叩きつける。


「光の剣!!」


 ラストルの光の剣が一際大きく輝いた。火花と閃光が交錯し、ゴドレアの大剣はラストルの剣によって砕かれた。


 ラストルは勢いそのままに跳躍し、ゴドレアの頸部を狙い剣を振り抜く。ゴドレアは両腕を交差させそれを防いだ。


 流血王の両腕は半ば切断されかかった。ラストルが着地し、再び剣を構えた時それは起こった。


 コドレアの身体が白銀色に包まれ、切断寸前の両腕が、一瞬で元の姿に戻った。


「そ、そんな!?一瞬で傷が治るなんて!」


「古代呪文。時間遡及治癒だ。さあ、戦いの続きだ小僧!!」


 コドレアが再び鞭を振るおうとした時、黄金の兜が何者かに拾われた。


「モラット!よくやったわ。その兜をこちらに持って来なさい」


 クダラが歓喜の声を仲間に向けた。兜を拾ったのはモラットだった。だが、その仲間は無下に言い捨てた。


「悪いねクダラ。僕はラバートラの復活を阻止しに来たんだ」


 モラットの言葉を聞いて、クダラの表情が一変する。


「······その力を与えた恩を忘れたの?モラット。もう一度だけ言うわ。兜を渡しなさい」


 クダラが恐ろしい形相でモラットを睨む。アマラは姉の見た事もない表情に怯んだ。


「精霊の扱い方を教えてくれた事は感謝しているよ。でも、ラバートラの復活だけは協力出来ない。僕は精霊の世界より、陛下の治めた世界を見てみたいんだ」


「モラット!!」


 モラットの返答に激昂したクダラは、アマラを牽制しながら炎の渦をモラットに向けた。モラットはそれに対し地竜で壁を作る。


 岩石の龍に炎の渦が直撃する。拡散した火の粉が王の間に広がった。そしてクダラが目にしたのは、新たな侵入者達だった。


「精霊使い。ラバートラの復活は諦めて貰う」


 澄んだ声が王の間に響いた。ソレットを先頭に、ゴント、クリス、ハリアス、タクボ、チロルが王の間に現れた。


「ラストル!」


 チロルがラストルの無事を確認して叫んだ。紺色の髪の少年は、笑顔と驚きの表情をした。


「チロル!······ソ、ソレットさん達!?」


 圧倒的に数的不利に立たされてもクダラは動揺せず、それ所か勝ち誇った笑いを上げた。


「生贄が多少増えた所で問題は無いわ。テデスが命を捨てて呼び出した化物達を甘くみない事ね」


 クダラが言い終えた直後、王の間に更に足を踏み入れる者達がいた。


「ほほほ。やれやれじゃ。這いずるしか無いとは言え、時間がかかったのお」


 単眼を潰され、右足を失った悪魔は、地面を這いずりながら前進する。


「······ジャ、ジャミライス!?」


 ラストルが単眼の悪魔を見て驚きの声を出す。


「ふむ。ここが劇の終幕地かな」


 およそ人の体温が宿っていない冷たい声がした。その声の主は、失った右腕など意に介さない様子で半壊したベンチに座っていた。


「······狂気王!何故奴がここに居る?どうして動けたんだ!?」


 ハリアスが汗を流しながら叫ぶ。


「······王の間か。混沌の世を始めるには良い場所だ」


 地中から小さな扉が出現し、扉の中から小柄な老人がゆっくりと姿を現す。


「······バームラス」


 タクボが魔神と呼ばれた老人を凝視する。


「さあ。始めましょう。生贄達をラバートラに捧げる為に」


 クダラは口を釣り上げ笑った。それは、この世界の終焉を待ち望む者の笑いだった。




 

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