表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/95

死霊達は賢人と殺し合い、二人の女剣士は相まみえる。

「僕が前衛で敵を叩く!メーシャは中衛で僕が討ち漏らした者を排除!タクボは後衛で援護して!」


 細身の長身の若者の叫び声に、メーシャとタクボは目を見張った。それは、消極性を捨て去ったローニルの初めての姿だった。


 ローニルは長剣に光を発動させる。先刻メーシャの攻撃で、死霊達には攻撃呪文が効かない事が判明していた。


 残された手段は物理攻撃しか無かった。


「伸びろ!光の剣!」


 ローニルの剣に輝いた光は、その形状を長く伸ばした。ローニルは横一閃に剣を振り抜く。


 密集したのが災いし、死霊達は八体同時にその胴体を切断された。断末魔のおぞましい叫び声が響き終わる前に、ローニルの左右を二体の死霊が通過しようとする。


「後ろでルトガルが待っているの。ここは絶対に通さないわよ!」


 メーシャが漆黒の鞭を操り、二体の死霊の頭部に致命傷を与える。タクボは衝撃波、地下震度の呪文を使い、死霊達の行進速度を鈍らせた。


 最前線でたった一人死霊と戦うローニルを見て、タクボは感嘆していた。光の剣と漆黒の鞭は、体力と魔力を膨大に消費する。


 ローニルは体力と魔力の消費を抑える為に、剣を振る瞬間しか光を発動させなかった。


 前に斬り込んだと思えば後方に退がり、左右に素早く移動し死霊達に的を絞らせなかった。


 メーシャも凄まじい速度で漆黒の鞭を繰り出し、ローニルの死角からの死霊の攻撃を防いでいた。


「······あれは、本当にあの小声で気の弱いローニルなのか?」


 ローニルの獅子奮迅の戦いぶりに驚いていたタクボの足元から、弱々しい声が聞こえた。


「······タクボ。君には一応言っておく事がある」


 ルトガルは目を細めながら、ボロボロの革鎧を着たタクボに口を開く。


「今は喋るなルトガル。ローニルが戻って来るまで堪えるんだ」


「······重要な事だ。タクボ。君の身体に仕込んだ毒と言うのは、真っ赤な嘘だ」


 ルトガルの突然の告白に、タクボは元世界一の魔法使いを二度見した。


「······君を逃亡させない為の嘘だった。長い間騙して済まなかった」


 ルトガルの謝罪に、タクボの中で複雑な感情が混じり合った。


「君を必ず助けるぞルトガル。そしてその後は君の顔を殴る。顔の形が変わる迄にな。三年前の傷で済むと思うなよ」


 タクボの宣戦布告にルトガルは苦笑した。三年前、ルトガルはタクボと肉弾戦を繰り広げた。


 それは、魔法使いにとってあるまじき行為だった。


「······懐かしいな。あの殴り合いは実に面白かったよ······」 


 ルトガルの言葉はそこで途切れた。意識が混濁して来たと思われた。残された時間は長くないとタクボは歯ぎしりした。


 次々と死霊をなぎ倒していくローニル達の姿を、バームラスは無言で眺めていた。



 壁中に武器が飾られた大広間では、銀髪の少女と灰色の髪の女が対峙していた。チロルがターラに口を開く。


「お久しぶりです。ターラさん。この要塞にいると言う事は、精霊使いさん達の仲間になったと言う事ですか?」


 チロルの質問に、ターラは静かに頷いた。


「ええ。声を取り戻したのも。兄が安らかに死ねたのも。テデスとクダラのお陰なの。私は彼等に借りを返さなくてはいけないの」


 ターラの返答の後、モンブラが声を震わし叫んだ。


「ターラさん!僕です!モンブラです。覚えていますか?三年前、貴方達四人に助けて頂いた子供です!」


 三年前、ネグリットの手首を運ぶ途中、モンブラは野党に襲われた。そこにターラ達四兄弟が現れ命を救われた。


 再び旅を再開する際は、ターラは優しく微笑み路銀まで渡してくれた。その笑顔を、モンブラは忘れた事は無かった。


 モンブラの言葉にターラは目を見開いた。あの時の少年が凛々しく成長し、ターラの目の前に立っていた。


「聞いて下さいターラさん!ラバートラが復活すれば、世界の民は滅ぼされます。僕達はそれを止めに来ました。お願いです!僕達を先に行かせて下さい!」


 モンブラの叫び声を聞き、ターラは悲しげに目を伏せた。だが、直ぐに伏せた両目をチロル達に向ける。


「······黄金の兜を持つ者だけを通す様、クダラから言われているわ。それ以外、ここから先に行かせる訳にはいきません」


 ターラは静かに、だが反論を許さない鋭い声で侵入者達に言い渡した。


「ラストル。先に行って」


 兜を荷袋に入れ背負うラストルに、チロルは迷わず言った。


「そんな!チロル達を残して行けないよ!」


「一人じゃないわ。モンブラさんとアマラさんも一緒よ。ウェンデル兄さんの身体をお願い」


 チロルの大きな瞳が、ラストルに言葉以上の思いを告げていた。こうなったらチロルは頑として聞かない事を、ラストルは知っていた。


「ターラさん。モンブラさんとアマラさんも行かせて下さい。お願いします」


「······良いでしょう。行きなさい」


 ターラは頷き、ラストル達に北側の扉から出るよう伝えた。その先に、クダラが待ち構えていると言う。


 チロルはラストル、モンブラ、アマラと目で挨拶をする。ラストルは溢れそうな言葉を必死で飲み込み、クダラの元へ行く為に歩き出した。


 大広間に、二人の女が残された。灰色の髪の女は、躊躇しながらも小さい声でチロルに質問する。


「······タクボは今······」


 言葉は途切れ、ターラの質問は成立しなかった。


「師匠は三年前、青と魔の組織に拉致されました。組織が壊滅した後は行方不明です」


 タクボの事を説明するチロルは知る由も無かった。三年間探し続けた師が、まさか同じ要塞内にいる事など。


「······そう」


 ターラの頭の中に、タクボの心配そうな顔が浮かんで消えた。穏やかに、静かに暮らす。


 自分と同じ夢を見ていたあの魔法使いは、今何処で何をしているのか。この三年間、ターラは時折そう思い出す事があった。


 復讐など止めろと自分に言ったタクボは、今穏やかな生活を手に入れたのだろうか。胸の中に走る痛みを振り払うように、ターラは勇魔の剣を抜く。


 同じくチロルも勇魔の剣を構える。チロルはターラと自分の剣を見て思い出す。三年前、四本の勇者の剣を巡って多くの血が流れた。


 その渦中でチロルはタクボと師弟の関係を築いた。その四本の剣の内、二本が今こうして向かい合っていた。


「ターラさん。私は私の大事な人を守る為に、邪魔する相手は全て斬ります」


 チロルの表情が、好戦的な物に一変していく。


「それでいいわチロル。貴方は貴方の正義で戦いなさい」


 ターラの返答を合図に、二本の勇魔の剣は金属音と共に重なり合う。チロルは以前、ターラと戦った事のあるサウザンドから聞いた事があった。


 ターラの天才的な剣術と転移の術。これを破る事は至難の業だと。


「なら、転移の術を使う暇を与えない」


 チロルは間合いを詰め、凄まじい速度で剣を繰り出す。ターラはそれを全て払い、今度はチロルを上回る速さで剣を付き出す。


 チロルは髪一重でそれを避ける。チロルは決して退かず、ターラから離れなかった。


「ターラさん。私はこの三年間。世界中で多くの争いを見て来ました」


 壮絶な接近戦の最中、銀髪の少女は呟いた。その理由をチロル自身も明確に分かっていなかった。


「この世界から争いは決して無くなりません。私はそう確信しました」


 チロルは光の剣を発動させ、ターラの肩に剣を叩き込む。ターラは受け流そうとしたが、剣圧に押され後方に飛ばされた。


 甲冑を身に着けていないターラは、身軽に体制を立て直し着地する。その刹那、ターラの目の前に光の刃が迫る。


 ターラは首を捻り光の刃を避ける。チロルは刀身の光を飛ぶ刃に変えて二度、三度と放った。


 ニ射目は剣で弾き落としたが、三射目はターラの右足を捉えようとしていた。その時、ターラの姿がこつ然と消えた。


 光の刃は空を切り、ターラはチロルの背後に現れた。ターラの下段から振り上げられた剣を、チロルは振り向きざまに剣で防ぐ。


「争いを無くす為には力が必要です。誰もが逆らう事を諦めるような圧倒的な力が」


 チロルとターラは再び至近で剣をぶつけ合う。


「······ターラさん。私と一緒に作りませんか?そんな組織を」


 再び金属音が大広間に響き、ターラはチロルから距離を取った。


「······何を言っているの?チロル」


 ターラが見たチロルの両目は、仲間と一緒にいた時とは違い、冷たく覚めた目をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ