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元魔王の若者は、ドガル一族と共闘する。

「天界の騎士を五人ほど助命してのお。奴らの背中に乗り、ワシを天界まで運ばせたのじゃ」


 一人の単眼一族と二人の魔族が残った大広間で、ジャミライスの不気味な声が静かに響いていた。


ジャミライスは天界に到着すると、自分を運ばせた五人の天界の騎士の背の羽をむしり、全て首を刎ねて殺した。


 ジャミライスの目の前には、天界の塔と呼ばれる騎士達の本拠地がそびえ立っていた。ジャミライスは嬉々として塔を登り始めた。


 各階の番人と呼ばれる騎士を殺し、単眼の悪魔は順調に階を登って行った。


「階層も三つを残すのみとなった時じゃ、天界の騎士共め、卑怯にも三人がかりで襲ってきてのお。無念にもワシはそこで力尽きてしもうた」


 ジャミライスは歯ぎしりをして悔やんだ。全盛期の自分だったら、それでも敗北しなかったと。


 その様子を見ながら、ボネットは背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。目の前の単眼の大男は、正真正銘の化物だった。


「······ヒマルヤ。同時に仕掛けるぞ。僅かな勝機を少しでも逃すな」


 ボネットは低い声で呟くと共に、右腕の筋肉を隆起させる。表情が獣のように変化し、右腕が異常に太くなった後、左腕も同じような太さになる。


「ボネット。そなた左腕も操れるようになったのか?」


 ヒマルヤが短髪の魔族に質問する。ドガル一族のボネットは、その血が半分の為に右腕しか隆起させられないとヒマルヤは聞いていた。


「······旅先で面白い連中に出会ってな。一時的に攻撃力を倍にする術を習った」


 ボネットは隆起した両腕で大剣を握りしめる。


「ほう。攻撃力を倍にか?如何なる者達に教えを受けたのだ?」


 ヒマルヤはジャミライスと間合いを詰めながら、別人のような身体になったボネットに問いかける。


「ロッドメン一族を信奉する、妙な老人達からだ」


 言い終えるとボネットは突進を開始した。それと同時にヒマルヤもジャミライスの間合いに侵入する。


「さて。俺の攻撃が通用するかな?」


 ボネットが隆起した両腕を振り上げ、渾身の一撃をジャミライスに向ける。それと同時にヒマルヤは、二本の魔法石の杖を構えた。


「サンザンド。杖を借りるぞ!」


 ヒマルヤは左右の手に握った杖で、漆黒の鞭を二本同時に発動させる。細い鞭と太い鞭は、高速でジャミライスの首筋を捉えようとした。


「ほお?お主等、面白い力を持っておるな」


 ジャミライスは興味深い表情を見せ、ボネットの一撃を大盾で防ぐ。ヒマルヤの二本の鞭は、右手の大剣で弾き返した。


「ヒマルヤ!攻撃の手を止めるな!」


 ボネットは叫びながら大剣を再び振り下ろす。火花が散り金属音が何度も響き、ボネットの豪剣は全てジャミライスの盾で阻まれる。


「私の鞭を侮るなよ!!」


 ヒマルヤは二本の漆黒の鞭を高速で操り、鞭の雨をジャミライスに放った。たが単眼の悪魔は魔剣を目にも止まらぬ速さで振り、ヒマルヤの鞭を全弾止めた。


 堪らずボネットとヒマルヤは、ジャミライスから距離を取る。


「なんじゃあ。もう終いか?お主等、肩で息をしているではないか」


 単眼の悪魔は、失望混じりのため息を吐いた。ボネットとヒマルヤは、己の身体に大きな負担がかかる力を使い、体力は著しく低下していた。


「終いならお主等を片付け、先を行った者達を追うとするかのお」


 ジャミライスはそう言うと大盾を二人に向けた。すると盾に装飾されている獣の口が開き、口の奥からいくつもの腕が這い出て来た。


「何だこれは!?」


 腕は恐ろしい速度で伸び、ボネットの足首を掴んだ。腕はボネットの身体を開いた盾の口に引きずり込もうとする。


「この盾の口の中は、地獄に繋がっておる。お主はそこに送られるのじゃ」


 ジャミライスは愉悦に浸った笑い声を出す。ボネットの身体は大口を開いた盾の中に押し込まれようとした。


「させるか!!」


 ヒマルヤが二本の鞭を滑り込ませ、ボネットの足首を掴んだ腕を切断する。拘束から解かれたボネットは空中で身体を回転させ、そのまま大剣をジャミライスの肩に叩き込もうとした。


 だが、それも大盾で防がれる。


「チッ。隙の無い奴だな」


 ボネットが再びジャミライスから離れる。大盾の口からは、今度は百本以上の腕がゆっくりと這い出て来る。


「······ボネット。私が奴の動きを止める。そなたは何とか奴に一太刀を浴びせてくれ」


「······出来るのか?ヒマルヤ」


 ボネットとヒマルヤは、視線をジャミライスから逸らさず会話する。


「どちらにせよ、このままでは私達の体力と魔力も尽きてしまう。ここが勝負所だ」


 ヒマルヤは話しながら、自分の言葉で死を身近に感じた。自分はここで、死ぬかもしれないと。


 ヒマルヤの心の中で、チロルの不機嫌な顔が浮かんだ。思えばこの三年間。チロルは度々ヒマルヤに苦言を呈して来た。


「ヒマルヤ。もっと積極性を持たないと駄目よ」


 チロルのその言葉は、ヒマルヤの痛い所を突いていた。魔王の座に就いていた時も、ヒマルヤは万事消極的で行動を起こせなかった。


 チロルの小言に落ち込むヒマルヤを、ラストルは優しく励ましてくれた。


「元気を出してヒマルヤ。チロルにとってヒマルヤは特別な存在だよ。だから遠慮なくあんな事を言うんだ」


「······ラストル。どうして小言を言われるのが特別な存在になるのだ?」


 ヒマルヤの疑問に、ラストルは笑顔で答えた。


「考えても見てよ。チロルは誰に対してでも敬語を使う。師匠のタクボさん相手でもそうだったんでしょ?でもヒマルヤには敬語無しで話す。これって、ヒマルヤが特別な存在だからだよ」


「······それを言うならラストル。チロルはそなたにも敬語を使用していないぞ」


 空気を読まないヒマルヤのは発言で、ラストルは困ったように笑っていた。三年間共に旅を共にして、ヒマルヤはチロルに想いを告げる事は無かった。


 消極的な性格が災いしたのか。チロルの気持ちが自分に向いていない事に気付いたのか。あるいは、ラストルに遠慮してしまったのか。


「······あるいは、全部かもしれんな」


 ヒマルヤは小さく呟き、かつての師の忘れ形見を強く握る。


「······サウザンド。今一度力を借りるぞ」


 この戦いの後、もし自分が生き残ったら。今後こそサウザンドの墓標を立てようとヒマルヤは心に決めた。


 そしてその後に自分の国に帰る。あの北の果てにある国の為に、自分は力を尽くす事をヒマルヤは望んでいた。


「では参るぞボネット!一瞬の隙を逃すな」


 ヒマルヤはそう叫ぶと、両腕を頭上に上げた。二本の黒い光の鞭が、唸りを上げて絡み合う。


「ほう?ほう!?ほう!!」


 その光景を見ながら、ジャミライスが嬉しそうに笑う。二本の漆黒の鞭は重なり、巨大な黒い渦と変化した。


 黒い渦には火花か雷か判別し難い光がほどばしり、その光は時間と共に黒い渦を覆って行った。


「ぐうっ」


 ヒマルヤの口と鼻から血が流れる。二本の漆黒の鞭を発動するだけでも身体にかかる負担は甚大だった。


 更にその二本の鞭を一つにする負荷は、ヒマルヤの精魂を大きく削った。


「良いぞ小僧!この技は、ワシを屠った天界の騎士の技とそっくりじゃ!!」


「双対の鞭!!」


 ジャミライスの歓喜の声と、ヒマルヤの決死の叫び声が重なった。ヒマルヤは二本の杖を振り下ろした。


 黒い渦が弓のようにしなり、ジャミライスを襲った。


「魔剣よ!我が魔力を吸いその力を見せろ!!」


 ジャミライスが叫びながら右手の大剣を黒い渦にぶつける。大剣と黒い渦は、周囲に竜巻のような風を起こした。


「ほう!?我が魔剣と互角か。褒めてやるぞ小僧!!」


 ジャミライスが大口を開けて叫んだ。一方、ヒマルヤは口を結び小さく呟く。


「お褒めに預かるとは恐悦至極だ」


 ジャミライスの魔剣に切断されるように、黒い渦は二つに割れた。すると割れた片方の渦が再びしなり、ジャミライスの右足に覆いかぶさる。


「ほ?」


 ジャミライスが怪訝な声を出した瞬間、黒い渦は単眼の悪魔の右足を切り裂いた。


「······双対の鞭は形あって無き物。剣などで防げる物ではない」


 右足を失ったジャミライスは、均衡を失い倒れようとした。


「今だ!ボネット!!」


「よくやったヒマルヤ!後で一杯奢るぞ!」


 ボネットが猛然と突進し、全身の力を込めてその鋒をジャミライスの胸に突き刺した。


「終わりだ。単眼の悪魔」


 ボネットは両腕に、ジャミライスの心臓を捉えた感触を得ていた。単眼の悪魔は右手を地に着け、身体を支えながらボネットを見る。


「見事じゃお主等。だが惜しいのお。ワシは心臓を頭の中にもう一つ持っておってのお。胸一つだけでは死ねんのじゃ」


 さも残念そうに語るジャミライスの言葉を、ボネットは自分の聴覚を疑いながら聞いていた。


「残念。残念じゃあ」


 ボネットに向けられたジャミライスの単眼が怪しく輝き、至近で光線が放たれた。


 



 

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