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猛将達の一騎打ちは中断され、単眼の悪魔は狩猟を愉しむ。

 ウラフ軍団の首領は、トウリュウ軍団とゾルイド軍団の交戦を凝視していた。褐色の肌の大男は、この会戦に於いて不本意な作戦変更を余儀なくされた。


 このマクラン草原に向かう途上、トワイス軍に手痛い損害を被った。ウラフは敢えてトワイス軍と戦いを続けず、戦略的撤退を決断した。


 ウラフの目的はトワイス軍では無く、この草原に集結した他の軍団だからだ。だが、死傷者を除いた軍団の数は一万三千から七千に減り、今会戦で迂闊に動けない状態に陥った。


「······トワイス軍め。近い将来必ず礼はするぞ」


 大きい口を歯ぎしりさせ、ウラフは商人のような顔から、残忍な形相に変貌する。幸い、ゾルイド軍団とトウリュウ軍団が戦いを始めた。


 ウラフ軍団からすれば、両軍団が消耗するのを待ち、漁夫の利を狙いたい所だった。


「さてな。ゾルイドとトウリュウとやらが、そこまで愚か者か」


 ウラフは軍団に待機を厳命し、熱と殺意を込めた視線を戦場に送っていた。


 戦場の中心では、ゾルイドとライハクが壮絶な一騎討ちを続けていた。甲冑から武器、マントまで赤色で染めたゾルイドは、数多の強敵を屠ってきた神速の突きをライハクに繰り出す。


 ライハクは槍と言う名の死の雨を、一部の無駄の無い動きで防いでいく。そしてゾルイドが三度攻撃して来たら、必ず二度は反撃した。


「見事な腕だ。私と三十合以上持ち堪えた者は過去に皆無だった。名を聞こうか。黒髭の将よ!」


 ゾルイドは間隙なく槍を突き出しながら、ライハクを称賛した。


「トウリュウ軍団の将。ライハクだ」


 返答と同時に、ライハクは槍の連撃をゾルイドに向けるが弾かれる。


「ライハク!お主とは容易に決着がつかぬな。先ずは戦場を傍観している卑怯者から共に片付けぬか?」


 なんとゾルイドは、一騎打ちの最中に共同戦線をライハクに持ち掛けてきた。


「一騎討ちはその後でと言う事か。その言を信用出来る証拠は?」


 ライハクは答えながら愛馬を操り、ゾルイドから数歩後退する。


「我が軍団はウラフ軍団の右翼を攻める。お主達は左翼だ!」


 言うが早いか、ゾルイドはライハクに背を向け駆けて行った。ライハクがその背を襲う事など恐れぬかのように、一度も後ろを振り向かなかった。


 両軍団の指揮者であるゾルイドとライハクが一騎打ちを演じている間も、他の兵士達は激しい攻防を続けていた。


 ライハクは軍団の編成に於いて、十人、百人、千人単位で隊長を配置した。これによって、総指揮のライハクが不在でも全軍が混乱する事は無かった。


 そして軍団の訓練でも、複数の陣形を兵士達に叩き込んだ。これらは国の正規軍と同列であり、ある噂が公然と軍団の中で流れた。


 ライハクは正規軍の将官だったという噂だ。そんな人物が何故野党に身を落としたのか。


 ライハク自身は黙して語らず、図々しいトウリュウですらその点に関して詮索はしなかった。


 ライハクはゾルイドが自軍を動かすのを確認してから、自分の頭領の元へ馬を動かした。


「不安か?シャロイ」


 トウリュウ軍団の後方で、戦況を不安そうに見守るシャロイにアーマスが声をかける。


 青と魔の賢人の城を出てから四ヶ月。クレイド、シャロイ、アーマスの三人は、初めての実戦を経てから、多くの戦いを経験して来た。


 それは三人を成長させると共に、戦いの凄惨さも嫌と言う程思い知らされる月日だった。


 青と魔の賢人と言う組織に、誘拐同然で城に連れて来られたシャロイ達は、組織から世界の調和と均衡の為に力を尽くせと教えられた。

 

 それが、力を持った者の義務だと。その組織が崩壊し、クレイド、シャロイ、アーマスの三人は何故かトウリュウ率いる武装集団に身を置いている。


 そしてそのトウリュウは、身分の無い世界を創ると言う。シャロイは自分達の運命の変編に、不思議と違和感を感じなかった。


「······クレイドは冷静な癖に、少し間の抜けた所があるから。大きなヘマをしなければいいけど」


 魔族の少女は、同い年の金髪の少年の身をを案じた。そんなクレイドとシャロイより二つ年上のアーマスは、穏やかな笑みを浮かべる。


「そうだなシャロイ。クレイドは好奇心が湧くと周囲が見えなくなる。俺達がしっかりアイツを見ていないとな」


 シャロイは笑ってアーマスに頷く。最前線からは、続々と負傷者が後方に運ばれてくる。


 シャロイとアーマスは負傷者の応急処置の為に、自分達の戦場に向かう。その時、シャロイの視界の先に何かが映った。


「どうした?シャロイ」


 アーマスの問いかけに、シャロイはマクラン要塞に向けて指を伸ばす。


「······要塞から煙が昇っているわ」



 マクラン要塞内にある大広間では、天井から崩れ落ちる瓦礫と粉塵で視界が遮られていた。


 かつて単眼一族の悪魔と言われたジャミライスの一撃で、大広間は崩壊した。ジャミライスはその単眼を細め、鋭い牙がはみ出した口の端を釣り上げる。


「······ほう。一人として死んでおらんか。結構、結構。久方振りの戦じゃて。楽しませて貰わんと割が合わん」


 ジャミライスは舌なめずりをしながら、自分の獲物を探す。その時、単眼一族の悪魔は背後に気配を感じた。


 粉塵の中を迷いなく進み、ジャミライスの後背に回り込んだのはエルドだった。チロル、ヒマルヤ、ラストルの魔法障壁により死傷者は奇跡的に出なかった。


 エルドはいち早く駆け出し、暗殺技術を駆使し標的に迫った。そして一瞬でジャミライスの甲冑が覆われていない、攻撃対象箇所を判別する。


「その右足を貰うよ」


 エルドは短く呟き、手にした短剣でジャミライスの右足首を裂こうとした。それはアキレス腱と呼ばれる場所であり、ジャミライスは自分の右足をもう自由に動かせなくなる筈だった。


 エルドが目的を果たそうとした時、黒衣の若者は驚愕した。粉塵の切れ間から、ジャミライスがエルドを見下ろしていた。


 エルドは完全に気配を消し去っていた筈だった。だが、この単眼の化物はエルドに気付いていた。


 エルドは死を覚悟し、ジャミライスのアキレス腱を裂いた。だが、ジャミライスからの反撃は無かった。


 エルドは数年振りに感じる恐怖に慄き、素早くジャミライスから離れる。


「どう言う事だ?僕に気づいていながら、何故攻撃して来ない?」


 エルドの疑問を他所に、ジャミライスは自らの右足首を一瞥する。


「手際の良い仕事をするな暗殺者よ。良いぞ。良いぞ。これでワシは満足に動けなくなった。お主らにも僅かに勝機が生まれたかも知れぬぞ」


 ジャミライスは足首の痛みも感じぬかのように笑った。エルドは確信した。この単眼の化物は戦いを楽しむ為に、敢えて自分を泳がせたのだと。


 ジャミライスの一撃を受け、チロルはかつてない警戒心を全身に感じていた。チロル、ヒマルヤ、ラストルの三人が張った魔法障壁は、ジャミライスの光線を防いだが同時に砕け散った。


 三重に張った障壁を破壊するなど、チロルの過去の戦いに於いてあり得ない事だった。


「ラフトは待機。ヒマルヤは右!ラストルは左!一撃で仕留めるわよ!!」


 チロルは叫びながら地を蹴り突進する。己の全力の一撃を持ってこの単眼の化物を仕留める。


 ヒマルヤ、ラストルにもチロルの意図は伝わっていた。それで倒せなければ、この化物から想像を絶する反撃を受ける事となる。


 チロルとラストルは光の剣を。ヒマルヤは漆黒の鞭を発動し、三方からジャミライスに迫る。


 単眼の悪魔は、その光景を薄ら笑いを浮かべて眺めていた。


 



 



 

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