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三十男達は、覇王の根城に潜入する。

 ゾルイド軍団。世界中で増え続ける武装集団の中で、ウラド軍団、トウリュウ軍団と並び、その名を急速に轟かせている軍団だ。


 軍団の首領はゾルイド。弱冠二十七歳で三千に名を超える野党をまとめ上げた。その出自は貴族の出と噂があり、本人もそれを否定しない。


 その長身体躯と秀麗な顔は、確かに見る者をそう納得させるに十分だった。だが、若さゆえかその気性が荒さは、しばし部下達を閉口させた。


 部下には気前良く分前を与え、部下の意見も良く聞き入れる。そして部下達を公正に扱った。


 度量の広い首領だが、一度激昂すると誰の意見も聞き入れなくなる。特に軍団の掟を破る者には、容赦なくその手にした大剣で首を切断した。


 短気な一面はあるものの、その気宇の大きさを慕い、多くの野党達がその旗の元に集って来た。


 そして武器商人マクランの支援を受け、ゾルイド軍団は飛躍的にその勢力を強めて行った。


「······よくそんな情報を、街を徘徊しただけで得られたな」


 タクボか半ば呆れたようにルトガルを見る。


「私の社交術と話術を持ってすればな。逆を言うと、街中で情報を得られる程このゾルイド軍団は有名だと言う事だよ」


 青い魔法衣を着た元世界一の魔法使いは、済ました表情で答える。タクボ達は樹海を飛び立ち、ある砦にほど近い林に身を潜めていた。


 ゾルイドは自分達の本拠地を隠さず、むしろ大々的に宣伝していた。そうする事で、新たに軍団に志願するならず者達が勝手に集まるからだ。


「それでルトガル。どうやってあの軍団に探りを入れるの?」


 二つの三つ編みを自ら切り落とし、髪が肩迄の長さになったメーシャは、警備が厳重な砦を見ながら呟いた。


「内情を知るには、内部に潜り込むのが一番さ」


 ルトガルが微笑し、魔族の少女に返答する。


「······潜り込む?······まさかルトガル」


 パルシャを抱えたローニルから、不安そうな小声が漏れた。


「なんだ?お前らは?」


 砦の門番が不審そうな声を出す。門番の前には、ボロクズのような革の鎧を着た男と、青い魔法衣を纏った男が並んで立っていた。


「私の名はルトガル。隣の男はタクボだ。私達はゾルイド軍団に入団を希望する。審査員に取り次いで貰えるかな?」


 門番は怪しげな視線をタクボとルトガルに送ったが、その場で待てと言い残し砦の奥に消えた。


「こんな方法で上手く行くのか?ルトガル」


 待たされている間、タクボは両腕を組みなながらルトガルを睨む。


「これで駄目だったら、代案を頼むよタクボ」


 ルトガルは大袈裟に両手を上げ、困った表情を見せた。ルトガルの一挙手一投足が全て嫌味に聞こえ見えるタクボは、不信感を隠そうとはしなかった。


 程なくして、タクボとルトガルは砦の中に通された。剥き出しの木と岩で作られたこの砦の内部では、軍団の者達が忙しそうに何かしらの作業をしていた。


 案内人に付いて行き、大きな門をくぐると、タクボとルトガルは外に出た。案内人の説明では、この柵で囲まれた場所は鍛錬所との事だった。


「お前等か?入団希望と言うのは」


 タクボとルトガルの前に、長身の男が歩み寄って来た。男は腰まである黒髪を首元で結び、上半身は衣服を身に着けていなかった。


 右手には木製の剣が握られ、長身の男の後ろには何人もの男達が倒れていた。恐らく訓練でこの偉丈夫に打ち負かされたとルトガルは観察していた。


「俺はこの軍団の首領ゾルイドだ。今丁度、鍛錬中でな。入団条件は簡単だ。戦で使えるかどうかだ」

 

 ゾルイドと名乗った男は、端正な口を好戦的な笑みに変える。そのゾルイドにルトガルが詰め寄るように口を開く。


「ゾルイド殿。私達は貴方の勇名を耳にし、この軍団に馳せ参じました。だが、首領の貴方本人の口から聞きたい。貴方の目的は何処にありますかな?」


 ルトガルの言葉に、ゾルイドは一瞬顔をしかめたが、ルトガルを見下ろすように不敵な笑みを浮かべた。


「俺はいずれこの世界を武力で統一する。それは千年前のオルギス皇帝以来、二度目の偉業となるだろう」


 ゾルイドの自身に満ちた言葉を、タクボは何故か夢想と一蹴出来なかった。この長身の男から滲み出る覇気がそう思わせるのか。


 タクボはゾルイドから警戒心を覚えた。


「モラット!こちらに来い!」


 ゾルイドが振り向きもせず声をかけると、倒れていた男達の中から、一人の男が立ち上がった。


 男は緑色の髪をしていた。その頭を擦りながらゾルイドの前に歩いてくる。その幼い顔は、まだ十五歳前後に見えた。


「陛下ぁ。僕、陛下に木刀で殴られた頭がまだ痛いんですけど」


 モラットと呼ばれた少年は、口を尖らせてゾルイドに不平を呟いた。ゾルイドは短く苦笑する。


「その呼び方は止せと言っているだろう。お前達二人に紹介しよう。この小僧はモラット。これからお前達と手合わせをして貰う相手だ」


 モラットは不満そうな表情をタクボとルトガルに向けた。そして突然、モラットの背後に大きな火球が二つ出現した。


 タクボとルトガルは、何一つ質問を許されず戦闘に突入させられた。モラットが右手を面倒臭そうに振り、二つの火球はタクボとルトガルに飛んでいく。


 ルトガルは迷い無く、直ぐさま火炎の呪文を唱えた。二つの火球と一つの火球はぶつかり合い、互いに弾け飛んだ。


 タクボは身構えた。モラットは呪文の詠唱をせずに火球を出現させた。ルトガルは一瞬で精霊使いと判断し、精霊には効果の無い魔法障壁をタクボに指示せず火炎の呪文で相殺した。


「あれ?結構反応いいね」


 モラットは意外そうな表情を見せると、今度は氷の雨をタクボとルトガルに浴びせた。


「タクボ!」


「ああ!準備は出来ている」


 ルトガルの声にタクボは答える。タクボは風の呪文を応用し、氷の雨を巻き起こした風に巻き込んだ。


 そしてその風をモラットに向ける。鋭い風の音と共に、氷の刃がモラット自身を襲うと思われた。


「へえ?面白い事をするね。でも残念だけど、僕が操っている氷の刃が僕自身を傷付ける事は無いよ」


 モラットは頭上から落ちてくる氷の刃を巻き込んだ風に、動揺一つ見せなかった。


「そうか。だと思って風の中に雷撃を混ぜておいたよ」


 ルトガルは髭の下に、人が悪そうな笑みを浮かべる。


「え?」


 モラットが怪訝な顔をした瞬間、モラットの身体に風と共に雷撃が直撃した。


「うわぁぁっ!!」


 完全に油断していたモラットは、雷撃をまともに受け倒れた。


「お得意の雷撃かルトガル。いつの間に使えるようになったんだ?」


 タクボはルトガルが毎朝街の外で魔物を狩っていると言っていた事を思いだしていた。


「恐らく今の私は、レベルで言うと十くらいだろう」


「十だと!?ついこの前、レベル一に戻った君が!?」


 ルトガルの言葉に、タクボは驚愕した。こんな短期間にレベルを二桁にするなど、あり得ない事だった。


「格上の魔物を相手にしていたからな。経験値も大きく稼げたよ」


 何事もなかったようにルトガルは返答した。この男は尋常では無い。異常だ。タクボは心の中で呟いた。


「おっさん達。僕を怒らせたね」


 雷撃による裂傷に顔をしかめながら、モラットは立ち上がっていた。少年が両手を広げると、地面が揺れだした。


「上位精霊、地竜の力を見せてあげるよ」


「そこまでだ!!」


 モラットが短く冷笑した瞬間、ゾルイドの鋭い声が響いた。ゾルイドはモラットとタクボ、ルトガルの間に立った。


「タクボとルトガルとやら。合格だ。我が軍の入団を許可しよう」


 ゾルイドの突然の休戦命令と入団許可に、三十男達は安堵し、十五歳の少年は憤慨した。


「陛下!このままじゃ僕、やられっぱなしなんですけど!」


「堪えろモラット。入団希望者を殺しては元も子も無いだろう」


 ゾルイドは納得しない様子のモラットを一喝し黙らせる。そして書類を抱えた部下を呼び寄せる。


「この二人を魔術隊に加えろ。タクボ、ルトガル。手柄を立てれば、褒美は欲しいままだぞ」


 ゾルイドはそう言い残し去って行った。モラットがタクボとルトガルを睨み、それに続く。


「潜入成功と同時に、精霊使いも見つかったなルトガル。これは良い兆しか?」


「無論だタクボ。後はあの少年から、テデス達の居場所を聞き出す。やる事はあと一つさ


 簡単な雑事を片付けるかのように、ルトガルは言い切った。そのあと一つがどれだけ困難か。


 あの少年のこちらを睨む顔を思い出し、タクボは深いため息をついた。


 




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