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人生は、急転直下と言う石が、たまに飛んでくる。


 少年の父は勇者だった。まだ少年が幼い時から、世界各地を転戦し続けた。西で魔竜が暴れれば、西の国に向かい。東の三つ目の魔女が、国を荒らしていると聞くと東に赴いた。滅多に家には帰って来なかったが、少年は泣き言を言わず、優しい母と一緒に父の無事を祈った。

 

 時折、父は家に帰ってくる事があった。少年は目を輝かせ、父に武勇伝を聞かせてとせがんだ。父は荷解きもせず少年を抱き上げ、笑顔で土産話をしてくれた。

 

 少年は幸せだった。自分も両親のように、強く優しい大人になりたかった。

 

 やがて父は、魔王を見事打ち倒した。しかし、それは相打ちだった。一命は取り留めたが、父の意識は戻らず寝たきりの生活となった。

  

 父が住んでいた国の王は、最初は父の功績を称え、父は国の英雄として迎えられた。

 

 だが、破局は突然訪れた。国立病院の特別室で看護を受けていた父は、治療を止められ殺された。

 

 それを少年と母親に教えてくれたのは、父と共に魔王と戦った戦友だった。追手がすぐそこまで来ている。早く逃げるようにと、父の戦友は叫んだ。

 

 兵士達が少年の家を取り囲む。火矢が放たれ、家は燃え始めた。父が少年にくれた妖精が作ったという、スカーフにも火がついていた。

 

 父の戦友は、魔王の側近を何人も倒した戦斧で、兵士達をなぎ倒していった。だが毒矢を射られ、その場に伏した。

 

 母は、少年だけは逃がそうと懸命に走った。母に手を握られながら、少年は何故父は殺されたのだろうと考えていた。毒矢が母の背中に刺さり、母は倒れた。

 

 それからの事は、はっきりと覚えて無かった。気づいた時、森の中で目覚めた。どこまで逃げて来たのか見当もつかない。

 

 父と母を失った少年は、泣き崩れた。どうして世界を救った父が、優しい母が殺されたのか。

 

 少年は、その理由が知りたかった。真実を教えてくれたのは、父の戦友達だった。彼等も無実の罪を着せられ、命を落とす者、国外に逃亡する者と、命を賭け世界を救った報いにしては悲惨極まり無かった。

 

 国王の狙いは、勇者達が持ち帰った膨大な金銀財宝だった。これを奪う為に、勇者達は粛清された。盗み取った財宝のお陰で、国の借金は返済され、財政は健全さを取り戻した。喜んた国王は戦争の準備の為に、再び商人達から借金をした。

 

 少年は国から追われていた。勇者の血を受け継いだ息子は、危険な将来性を有していたからだ。少年は一計を案じた。死体安置所から自分と同じ年くらいの子供を運び出し、自分の服を着せた。その子供の髪を、自分と同じ紅い髪に染める事も忘れなかった。

 

 勇者の息子が死体で発見されたと、少年は村の酒場で耳にした。無慈悲な国王が、隣国と戦端を開く事も同様に。

 

 少年は別の国に趣き、戦災孤児を装った。 施設に入り、まず自分を鍛える事に全てを優先させた。少年には、剣と魔法の適性があった。だが実力は全て出さなかった。用心の為に、目立つ事を決してしなかった。

 

 同じ施設に、タクボと言う一つ年下の少年が居た。この施設の教育に、洗脳されかけていた年少の彼に、施設の目的を教えてやった。

 

 タクボは幼くして親を失い、引き取られた親類の家では、奴隷のような扱いを受けていたらしい。その親類は戦争に巻き込まれ、村ごと焼かれ消えた。タクボは施設に来た事を、それ程不幸に思えなかった様子だった。

 

 不思議とタクボとは気が合い、施設の中で唯一素直に話が出来る相手だった。

 

 施設を出てからは、寝る間も惜しんで自分を鍛え上げる事に全てを注いだ。それと平行して文献を漁るように読み、この世界の歴史を学んだ。そして、ある組織の存在が浮かび上がって来た。

 

 その組織は、裏から歴史を操っていると言う。だが、核心に至る話になると誰もが口をつぐんだ。それは、決して触れてはならない禁忌だった。

 

 少年は名を上げる事で、組織の方から接触してくる可能性に賭けた。有能な人材なら、どんな組織でも必要な筈だ。

 

 施設を出てから三年。少年は、練達の頂きに到達した男に師事する事が出来た。その男は少年の生い立ちに同情し、親身になって剣や魔法を教えてくれた。

 

 その優しさは、少年に亡き父の面影を思い出させた。だか、少年は感情に蓋をした。自分の目的の為には、この脆弱な感情は不要だった。少年は男の元で、飛躍的にその力を伸ばす事に成功した。そして男の元を離れ、少年は青年に成長した。

 

 当時の魔王軍には、強力な同盟国があった。青年は仲間を率い、その同盟国を滅ぼした。その武名は世界中に轟いた。真紅の長髪をなびかせる英雄を讃える声は、時を同じくして活躍していた、勇者をも凌ぐ勢いだった。

 

 組織から誘いがあったのは、その頃だった。青年は組織の者に言われた。君は勇者と同等の力を持つ者だと。青年は賭けに勝った。

 

 青年は自分の大願を成就させる為に、組織に入った。

 

 組織は、人間と魔族で構成されていた。年齢層も子供から年寄りまで、様々だった。彼等の目的は、世界の均衡を保つ事だった

 

 青年は、早くも組織に失望した。この連中はカビの生えた古い慣習を、後生大事に守り続けているだけだと。

 

 自分の考えを組織に浸透させ、同志を増やす。青年は十年の歳月を費やし、組織の半数を代表する位置まで登り詰めた。

 

 後の半数は、頑強な前例踏襲主義の集まりだった。この者達を黙らせるには、何かもう一つ決め手が欲しかった。必要なのは、比類無き巨大な力だ。例えば、百年に一人と言われている勇者や魔王の金の卵······

 

 

「君はサウザンドだな。勇者の武器の一件では詫たいと思っていた。魔族の手に扱えないとは考えが至らなかった。こちらの不手際だ」

 

 戦災孤児施設の同期は、魔王軍ナンバー2と会話をしている。タクボは二十年振りの再会に感傷的になる暇も無く、事態は濁流の如く目まぐるしく変わっていく。


「魔王軍の惨状は承知している。だが、その現場下で、君が単独行動をしているのは何故だ?」

 

「仲間の不審死の調査だ。何ら珍しい事でも無い」

 

「なる程。君には君の考えがあるようだ」

 

 アバルは、死神からタクボに視線を移した。

 

「タクボ。昔馴染みの君に手荒な真似はしたくない。大人しくその少女を渡してくれ」

 

 アバルの長い前髪から、その瞳が垣間見えた。

 

「長い間会わない内に、随分と出世したみたいだな、アバル」

 

 タクボは、チロルを席から立たせ自分の後ろに移動させた。

 

「質問は多々あるが、一つだけ聞こう。何故、歴史を操る天上人が、こんな小さな街に居る?」

 

 アバルは右手の袖をめくった。その手首には、銀製のブレスレットが巻かれていた。

 

「これは、魔力を探知する道具だ」

 

 このブレスレットに魔力を込めると、周囲に魔法陣が敷ける。その魔法陣内に魔力を有している者が入ると、道具を身に着けた者が感知できる道具だった。本来は、戦場で魔法使いを見つけ出す為の道具だった。

 

「要は使い用だ。異常な魔力を宿した者を探す。これが、我々組織の地道な仕事だ」

 

 青と魔の賢人達は、そうやって世界中を歩き、勇者と魔王の卵を探索して来たと言う。

 

 アバルは、ある街で神童と呼ばれる天才児の噂を聞きつけ、調査していた。結局その天才児は勇者の卵では無かった。

 

 そう言えば、近くに小さい街がある。そこは同じ施設で学んだ友人が施設を出た後、最初に向かった街だ。

 

 真紅の髪の青年は、その小さい街へ向かった。ほんの些細な気まぐれだった。まさか友人が、二十年も同じ街に留まっているとは予想の外だった。


 更に、友人は勇者の金の卵と一緒だった。この少女は切り札になり得る。あの古臭い考えに固執している輩を、黙らせる切り札に。

 

「なる程。旧交を温めに来た相手から、その弟子を誘拐しに来たのか?」

 

 タクボは、アバルを睨みつけた。

 

「師匠!弟子入りを認めて下さったんですね。嬉しいです」

 

 チロルの両目が、突然輝き始めた。

 

「ち、違う!今のは言葉のあやだ。私とお前の関係を説明しにくいから、便宜上弟子と言っているだけだ」

 

「師匠の仰っている事、難しくてよく分かりませんけど、私は弟子入りしたと言う事ですね」

 

「人の話を聞け!違うと言っているだろう」

 

 タクボがチロルに口角を上げている時、アバルは、先程見せたブレスレットを注視していた。魔法陣内に、何者かが感知されたようだ。

 

 その様子を見ていたサウザンドは、静かに椅子から立ち上がった。

 

「賢人が眉をひそめる程の者が、来訪するようだな」

 

 サウザンドは、ゆっくりと店の外へと歩きだす。

 

「サウザンド。君がこの街に来たのは、この為かな?」


 アバルは、自分の前を横切る死神に問いかけた。

 

「この街に来たのは気まぐれだ。そなたと同様にな」

 

「おい、サウザンド。どこに行く?」

 

 タクボが声をかけると、死神は振り返り、笑みを浮かべた。

 

「タクボ。そなたからは、もっと人間の文化について教えを乞いたかった」

 

 そう言い残し、死神は店の外に出た。

 

 タクボは思う。なんだ今の言葉は?まるで今生の別れの挨拶のように聞こえた。嫌な予感程よく当たる。分かり切っていたが、それでもタクボは、チロルの手を引いて、店の外に出る。

 

 サウザンドは、全身を甲冑で覆った者と対峙していた。


 

「魔王から俺を引き離す。貴様の計略にまんまと騙されてやったぞ」

 

 甲冑の男が口を開く。その声は、殺気と怒気に満ちていた。

 

「勇者よ。私の居場所を誰から聞いたのだ」

 

 死神は、冷静な口調を崩さない。あの甲冑の男が勇者だと?タクボは耳を疑った。

 

「知れた事を。貴様の部下だ。序列五位とかほざいていたな」 

 

 サウザンドは眉間にしわを寄せ、手のひらで顔を覆った。

 

「命に危険が及べば、即座に話すよう言い聞かせていた物を······」

 

「無駄に忠誠心が厚かったようだな。四肢を切り落としても、貴様の居場所を吐かなかったぞ」

 

「では、何故私の居場所が知れたのだ?」

 

「その序列五位とか言う奴の妻子を人質に使った。奴は涙を流しながら、貴様の居場所を話したぞ」

 

「······勇者よ私の部下をどうした?」


「貴様の居場所さえ分かれば用は無い。だがあの出血量だ。生きてはいないだろうな」

 

 サウザンドの様子が変わって来た。その細い目を大きく見開き、瞳が殺意の色に染まって行く。

 

 その殺意を待ち構えていたように、勇者が剣を抜く。

 

「我が恋人の仇と無念。ここで晴らす。必ずな」

 

「同じ台詞を言わせてもらおうか。そなたをここで止める。必ず」

 

 勇者の仲間達は、魔王の居城を目の前にして先へ進む事が出来なかった。勇者本人が不在だからだ。サウザンドは、自分を囮にして勇者を魔王から引き離した。


 一日勇者を足止めすれば、勇者達の総攻撃が一日延びる。主君を案じた末の策だった。


 勇者の武器の改造が完成する迄、死ぬ訳には行かなかった。一秒でも長く時を稼ぐ。サウザンドは、命を賭し勇者を止める覚悟だった。

 

 タクボは頭が混乱していた。今朝、暇人達に店に連れて来られてから、色々な事態が急変し過ぎている。何にどう対処していいか、可能ならば誰かに教えて欲しかった。

 

 だが今確実に分かる事は、目の前の死神がこのままでは殺されると言う事だ。完全武装の勇者に、丸腰の死神が勝てる筈が無い。勇者が来襲する事を予見していたならば、何故武器を帯びて来なかった?

 

 サウザンドは、己の愛用していた武器防具を、全て部下に分け与えていた。魔王軍の物資は、そこまで窮乏していた事を、タクボは知る由も無かった。

 

 勇者の剣に、光の刃が宿る。チロルが私達に見せた物と同じだ。疑う余地が無い。甲冑の男は、正真正銘の勇者。

 

 死神が殺される。奴は人間と敵対する魔族だ。だがタクボは、主君と部下を思いやるこの死神を嫌いにはなれなかった。今この死神は、自分の命を犠牲にして、祖国を守ろうとしている。人間の文化をもっと探求したいと言った奴が。

 

 勇者は姿勢を低く保ち、地を蹴り上げ、必殺の一撃を繰り出した。

 

 小さな街の、小さな茶店の前で、人間と魔族の運命を賭けた戦いが始まった。


 

 


 

 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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