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金髪の少年は、溢れる好奇心のままに行動する。

 行路から外れた小さい山の麓に、百人弱の武装集団の根城があった。武装集団は午後のの午睡を貪っていると、偵察して来た子分が親分に報告する。


「よしっ!手始めにこの連中から潰すぜお前ら!」


 トウリュウは野太い声を張り上げ、元々いた仲間五人、ついさっき子分になった二十人、そして、クレイド、シャロイ、アーマスに宣言した。


「で、でもよ兄貴!敵さんは百人。こっちは三十人に満たないぜ!?」


 子分の一人が、悲鳴に近い声を上げた。この連中、少なくとも計算は出来るのかと、シャロイは内心冷ややかに思った。


「そうか。敵は三倍か。おいクレイド!お前さんは頭が良さそうだ。何か妙案は無いか?」


 一党を率いる責任を放り投げるように、トウリュウは金髪の少年に堂々と頼る。


「常識的に、作戦は頭のあんたが考える物じゃないのか?」


 クレイドの返答に、その場にいた二十六人は心から頷いた。


「馬鹿言うなよ。何もかも俺が片付けちまったら、子分のお前等の存在意義が問われるってモンだぜ?人にはそれぞれ、得意分野がある。俺は有効的な人材活用を心得ているのさ」


 億面も無くトウリュウは言い切った。その言葉に、魔族の少女と少年は憤慨する。


「信じられない!なんていい加減な奴なの?そう思わない?アーマス」


「シャロイの言う通りだな。あのトウリュウと言う男。只の口だけの人間かもしれないな」


 シャロイとアーマスの不審を他所に、クレイドは静かに口を開く。


「策はある。だが、上手く行く保証は無いぞ?」


 クレイドの言葉に、トウリュウは嬉しそうにクレイドに近寄り、自分の耳の後ろに、大きな手のひらを当てた。


「なんだテメエらは!?」


 昼寝を邪魔された見張り番の男は、突然の来訪者達に機嫌が悪そうな声で怒鳴った。


「いきなり訪ねて悪いな旦那。あんた等の大将を連れて来てくれるかい?」


 トウリュウは愛想よく門番の男に話しかけた。門番は自分の目を疑った。貧相な男の周囲には五人しかいなかったが、麓のあちらこちらに、いくつもの戦旗がはためいていた。


 ここからかなりの距離があると思われたが、門番の男は目を細めると、戦旗の下には多くの兵士達と思われる人影が見えた。


「て、てめえら一体、何人で来やがった!?」


 門番はトウリュウに怯んだ声で質問する。


「ざっと三百だ。早く大将を連れて来てくれるかい?」


 驚愕した門番は、すぐに自分の親分を呼びに走り出した。


「上手くいきそうだな?クレイド」


 トウリュウが金髪の少年の肩を叩き、陽気に笑った。クレイドの策は、こちらの兵力を多く見せるハッタリだった。


 門番が目を細めて見た兵士達は、木で作った人形に粗末な服と兜を被せた物だった。


「結果は相手の頭次第だ。勘のいい奴ならこんな策は直ぐに見破られるぞ」


 クレイドは素っ気なくトウリュウに忠告する。トウリュウは心配するなと笑顔を崩さない。そして、程なく武装集団の頭が現れた。


 その男は大柄なトウリュウよりも更に長身だった。眼光鋭く、年齢は三十歳前後。癖毛と思われる長い黒髪が跳ねていた。


 その癖毛の様は、男が放つ威圧的な雰囲気を際立たせていた。


「······俺はここの首領のライハクと言う者だ

。お前達は何用でここに参った?」


 子分から、三百の兵達に囲まれたと報告を受けても、ライハクは恐れの色一つ見せなかった。


「ライハクか!いい名前だな。ライハク。俺はアンタを誘いに来たんだ。俺と一緒に歴史に名を残さないか?」


 手を叩いて喜ぶトウリュウに、ライハクは眉間にシワを寄せる。


「おいトウリュウ。今の台詞は相手に全く意図が伝わっていないぞ。もう少し分かりやすく伝えろ」


 クレイドの手厳しい指摘に、トウリュウに同行した他の三人の子分は心から同意した。


「ん?そうか?改めてライハク!俺はあんたに一目惚れしたぜ!その見事な体躯!俺の軍団の切込み隊長にぴったりだ!」


 トウリュウは両腕を広げ、ライハクに近づき握手を求めようとした。この身体がでかいだけの貧相な男は、一度死なないと分からない。


 ライハクの間合いに不用意に入るトウリュウを見て、クレイドはそう思った。射程に入った獲物を取り逃がす理由は、ライハクには無かった。


 ライハクは腰の大剣を抜き、トウリュウの頭部に剣先を叩き込む。トウリュウは前髪を数十本犠牲にしてそれを避けた。


「よ、よしライハク!ここは男らしく、一騎打ちでケリをつけようぜ!お前が負けたら俺の仲間になる。異存はねぇな!?」


 額に汗を滲ませながら、トウリュウはライハクに提案した。ライハクは必殺の一撃をかわされ機嫌が悪かったが、冷静に返答する。


「トウリュウとやら。お前に三百人の手下がいるのなら、何故その兵力を使わない?使えない理由でもあるのか?」


 やはり敵に露見した。トウリュウの子分達は、ライハクの剛剣を目撃した事もあって浮き足立っていた。


 だが、トウリュウだけは一部の動揺も見せなかった。


「俺は性根の悪い女と、無用な血を流すのが嫌いなんだ。流さなくて済むなら、血の一滴すらも見たくない」


 そのトウリュウの一言を、クレイドは無視出来なかった。あのいい加減な男が、初めて真剣な目をしていたからだ。


 クレイド程では無かったが、ライハクも何かを感じ取ったのか、眉間のシワが消えていた。


「······いいだろう。一騎打ちに応じてやる。剣を抜けトウリュウとやら」


 ライハクの言葉を聞き、トウリュウは嬉しそうに頷き、素早くクレイドの肩を叩く。


「よしクレイド!お前に俺達の命運を託すぜ!一丁派手に暴れで来い!」


 トウリュウの威勢のいい大声に、ライハク達も、トウリュウの子分達も呆気に取られた。


「······常識的に考えて、ここは頭のお前が一騎打ちをするべきじゃないのか?」


 クレイドの冷静な返答に、この場にいる全ての者達が頷いた。


「馬鹿言うなよ!?総大将自ら剣を振るうなんて状況は、もう戦では負けなんだよ。俺は戦に負けるつもりは無いぜ?」


 呆然とする周囲の目を他所に、トウリュウは豪快に笑い、クレイドの肩を叩いた。それから逃れるようにクレイドが身体を動かすとと、目の前にはライハクが仁王立ちしていた。


「······仕方ないか」


 今回の作戦立案者としての責任を果たすべく、クレイドはため息をつきながら剣を抜いた。


 ライハクは黙って剣を構える。ライハクもトウリュウとはもう絡みたくないのだろう。そうクレイドは推測した。


 こうして百人規模の武装集団の頭と、三十人弱の野党集団の親分代理の一騎打ちが始まった。


 クレイドは自分より遥かに大柄なライハクを前にしても、恐れは無かった。青と魔の賢人達との鍛錬の日々は、十七歳の少年に自信を持たせるには十分だった。


 だが、クレイドのその自信は、ライハクの振り抜いた一撃で文字通り粉々に砕け散る事となった。


 ライハクは一部の無駄の無い動作で、風を切り裂く一閃をクレイドに叩き込む。クレイドは全力でそれを避ける。


 だが避け切れず、ライハクの剣先はクレイドの頬をかすめた。クレイドは素早くライハクから後退し距離を取ろうとするが、ライハクが猛然と迫りそれを許さない。


 目にも止まらぬ速さで繰り出されるライハクの連撃に、クレイドは必死に避け、逃げる事しか出来なかった。


 クレイドは賢人達との訓練で、あらゆる武器との戦い方を学んだ。ライハクが持つような大剣は、まともに受けたらこちらの剣が折られる危険が大きい。


 敵の大剣を受け流し、相手に深手を負わせるのが定石だった。だが、巨体のライハクはその身に似合わず俊敏に動き、絶え間ない攻撃も激しく、こちらがつけ入る隙がまるで無かった。


「······面白いな。実に面白い」


 圧倒的劣勢に立たされ尚、クレイドはライハクの実力に好奇心を抑え切れなかった。裕福な貴族の家に生まれ、クレイドは何不自由無く育った。


 才能にも恵まれ、学問の知識や剣の腕は、一族でクレイドに適う者は居なかった。だが、そんな日常は金髪の少年にとって退屈な日々だった。


 クレイドのそんな日常は、ある日を境に激変する。青と魔の賢人と名乗る集団に、半ば強引に連れ去られ、世界の調和と均衡の為に働けと強制された。


 勇者や魔王と同等の力を持つと言うこの組織は、退屈に飽きたクレイドを刺激に満ちた日常へ誘った。


 ライハクの猛攻は、命懸けで回避するクレイドを消耗させた。息が切れ、このままではライハクの餌食になるのは時間の問題だった。

 

「おいクレイド!お前、シャロイみたいに魔法は使えないのか!?このままじゃやられちまうぞ!」


 堪らずトウリュウが叫ぶ。誰のせいで殺されかけていると思っているのか。クレイドは内心そうぼやいたが、魔法を使えない理由があった。


 仮に魔法を使用してライハクに勝利しても、ライハクは剣では負けていないと納得しないだろう。


 ライハクを味方に引き入れるには、彼に負けを認めさせなくてはならない。それは、剣でライハクを敗北させると言う事だった。


 口で言うのは容易いが、実行するとなると、とてつもない難題にクレイドには思えた。こんな少集団の首領が、青と魔の賢人に匹敵する剣技を披露するなど、想像の外だった。


『魔法を使ったと、相手に気づかれなければ問題は無いか』


 クレイドは心の中で呟いた。それ以外、今のクレイドに活路は存在しなかった。ライハクが勝負を決すべく、止めの一撃を繰り出そうとする。


 自分の行動は吉と出るか、凶と出るか。クレイドは自己の命が懸かっているこの瞬間さえ、溢れる好奇心を抑え切れなかった。


 


 




 

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