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ガジスト一族正統後継者は狂喜し、皇帝は不敵に笑う。

 暗闇がその勢力を拡大し続けようとする最中、泉のほとりでは、感激とは程遠い再開が成されていた。


「······部下を助ける為に自ら赴いて来たのかしら?オルギス。ラバートラの剣に千年間封印され、慈悲深き心に目覚めたか?」


 クダラの嘲るような言葉に、オルギスは短く冷笑する。


「千年前の恨みをまだ忘れぬとはな。お主らガジスト一族は余程暇なのか?それとも恨みつらみを書き綴った日記を子孫に託しているのか?」


 オルギスの返答に、クダラの表情は怒りの色に染まっていく。


「私達は次の世代に、思念の継承をさせる事が可能なのよ。正統後継者達は幾世代に渡って受け継いで来た。千年前のお前の暴挙をね」


「······なる程。合点が行った。やはりお主らは暇なのだな。復讐のみに取り憑かれた、憐れな一族だ」


「オルギス!!貴様ぁっ!!」


 激昂したクダラが両手を左右に広げる。すると、クダラの前に巨大な火球が五つ浮かんだ。


「止めてくれクダラ!そんな事したら、チロルが死んじゃうよ!」


 堪らずリックが絶叫する。だが、リックの助命嘆願はクダラに届かなかった。


「いい加減に覚悟を決めなさいリック。どの道ラバートラが復活すれば、精霊を扱えない者は死に絶えるのよ」


 リックとクダラが言い合いをしている間隙を塗って、オルギスがチロル達に顔を向ける。


「チロル、ヒマルヤ、ラストル。用心せよ。精霊の攻撃は、魔法では一切防げんぞ」


 オルギスの警告に、チロル達は両足に力を入れる。魔法障壁で防げないとなると、自分の足で回避する以外、方法は無かった。


 五つの火球が高速で動き出し、オルギス達を襲う。暗闇が覆った泉の周辺は、クダラの火の精霊の力で明るく照らされた。


 チロル、ヒマルヤ、ラストルは俊敏に駆け出し、火球を回避する。だが、火球は意思を持つかのように向きを変え、チロル達を追尾する。


「そんな!?火球が追いかけてくる!」


 背後から向かってくる火球に驚く暇も無く、ラストルは全力疾走する。


 二つの火球が微動だにしないオルギスに直撃すると思われた時、オルギスは黄金の剣を一閃し、二つの火球をなぎ払った。


「言い忘れておったが、光の剣と漆黒の鞭なら、精霊の攻撃を防げるぞ」


 澄ました顔でオルギスは言いのけた。


「そういう事は早く申せ!!」


 ヒマルヤがオルギスに抗議しつつも、魔法石の杖を振るい、漆黒の鞭を発動させる。チロル、ラストルも光の剣で火球を四散させた。


「言い忘れてついでに、もう一つ教えてやる。小奴ら精霊使いは治癒の力が無い。深手を一度でも負わせれば、決着はつく」


 ヒマルヤの再度の叫び声を無視し、オルギスはクダラに向かって歩き出す。


「上位精霊の攻撃も防がれ、万策尽きたか?正統後継者とやらよ」


 オルギスの挑発めいた言葉に、クダラは更に怒れる顔になって行く。


「·····そうね。策は今から講じる所よ。部下達から孤立したお前にね」


 クダラの言う通り、チロル達は火球から逃れる為にオルギスの周辺から移動していた。クダラの持つ壷から、巨大な黒い膜が飛び出した。


 黒い膜をよく見ると、妖しい艶を輝かせる黒髪の塊だった。黒髪の膜はオルギスを取り囲み、不敵な皇帝を覆い包もうとした。


「十英雄!我が命に従え!戦いの時だ!」


 オルギスの黄金の剣が煌き、黒髪の膜は次々と切断されて行く。オルギスを取り囲んだのは黒髪の膜では無く、十体の甲冑の騎士達だった。


 十英雄達は黒髪の膜を見事払い除けた。その光景を、クダラは歓喜の表情で見入っていた。


「······素晴らしいわ。死者を呼び起こす黄金の剣の力を、完全に使いこなしている!」


 オルギスを凝視する一方で、クダラは次々と火球を生み出し、チロル達の牽制を怠らなかった。


「千年もの間、剣の中に取り込まれていたのでな。この程度の芸当でも出来なくば、割が合わぬだろう?」


「······オルギス。全ては黄金の剣を甦らせた

、ウェンデルと言う騎士から始まったわ。その肉体の主も、お前も、精霊を扱える適正があるわ。それが何を意味するか分るかしら?」


 リックは背筋に悪寒が走った。万事氷の仮面を崩さないクダラが、恍惚の表情を浮かべていた。


「さてな。精霊の世とやらに、寸分の興味が湧かない身としては、どうでもいい事だ」


「オルギス!お前は精霊の神の剣の中に千年間存在し続け、ラバートラの残滓を受けた。お前は既に、ラバートラの眷族と言っていい身体なのよ!」


 クダラの興奮は高まる一方だった。だが、オルギスは退屈そうに小さいため息をつく。


「十英雄との再開がそんなに嬉しいか?正統後継者よ。彼等もお主との決着を望んでおるぞ」


 オルギスの言葉に答えるように、十体の騎士達はそれぞれの武器を構え、クダラにその矛先を向けた。


「······オルギス。お前には資格があるわ。ラバートラの器となる資格が!!」


 クダラの持つ壷から、再び黒髪の膜が這い出てくる。先程とは比較にならない大きさの膜は、十英雄とオルギスをまとめて拘束しようと襲って来た。


 だが、十英雄達の正確無比な即応によって、黒髪の膜は切り裂かれていく。オルギス達の周囲に舞った髪の破片は、そのまま地に落ちると思われた。


 だが、寸断された黒髪は向きを変え、オルギスに降り注いだ。それはまるで、黒い雨が降るように見えた。


 黒い雨がオルギスの身体に触れると、その部分は黒く染まって行った。黒髪の大雨は、オルギスの全身を闇色に染めて行く。


「ラバートラの黒髪も欲しているわ!お前と言う新しい器をね!!」


 クダラが狂喜の絶叫を叫んだ時、オルギスは十英雄の一人に即座に命令を下した。


「雷槍のマテリウス。その雷撃を持って、余にまとわりついた黒髪を排除せよ」


 雷撃を受ければ、オルギス自身無傷では済まなかったが、今は手段を選んでいる状況では無かった。


 だが、その命令は実行される事は無かった。十体の騎士達は次々と消え入り、オルギスの前から姿を消した。


「······この黒髪の影響で、黄金の剣の所有権がラバートラに移ったか?」


 それが、オルギスの最後の言葉となった。オルギスは黒髪に覆い尽くされた。それはさながら黒い繭の塊だった。


「これで揃ったわ!ラバートラを復活させる全ての条件が!!」


 クダラは風の精霊の力を使い、黒い繭を浮かせ手元に寄せる。自身も浮き上がり、リックに撤退を指示する。


 一連の拘束劇に対して、リックは完全に傍観者だった。だが、クダラ達の言葉はリックにとって絶対だった。


 リックは取るに足らない存在だと、自分を卑下していた。精霊を扱う力を教えてくれたクダラとテデスは、自分を変えてくれた神のような存在だった。


 リックは慌ててクダラの元へ飛ぶ。その時、リックが両手に持っていた大袋が裂けた。


 それは、チロルが放った風の刃の呪文だった。裂かれた大袋から、ラバートラの黄金の甲冑がこぼれ落ちる。


 リックは急いで風の精霊の力で黄金の甲冑を、手元に戻そうとした。だが、兜の部分がヒマルヤの黒い鞭に弾かれ、リックの後方に飛んでいく。


 落下する黄金の兜をラストルが受け止め、クダラとリックから距離を取った。


「······その兜を返しなさい。そうすれば、命だけは助けてあげるわ」


 画竜点睛を欠かされたクダラは、憤怒の表情でチロルを睨みつける。クダラの視線の先には、光の剣を発動させたチロルがいた。


 この時、クダラは冷静さを僅かに欠いていた。ラバートラの復活条件を満たしたと思った瞬間、必要不可欠な甲冑の一部を奪われたからだ。


 その為に、チロルの行動から反応が一瞬遅れた。チロルは光の剣を振り抜いた。その瞬間、光は剣から離れ、クダラめがけて光の刃が放たれた。


 光の剣を遠当てに使用するなど、クダラは聞いた事が無かった。クダラはあり得ない攻撃に回避が遅れ、光の刃に右手首を切断された。


「ぐぅっ!?」


「ク、クダラ!?」


 クダラの苦痛の声に、リックは風の精霊と土の精霊を合わせ、砂塵を巻き起こした。チロル達は砂塵から後退した。


 砂塵が収まった頃、クダラとリックの姿は消えていた。


「······ウェンデル兄さんの身体が、連れ去られてしまった」


 不甲斐ない自分に落ち込むチロルに、ヒマルヤ、ラストルが駆け寄る。


「大丈夫だチロル。まだオルギスを救い出す機会はきっとある」


「そうだよチロル。精霊の神の復活に、この兜は必要みたいだし。まだ望みはあるよ」


「······うん。ありがとう。ヒマルヤ。ラストル」


 三人は薄々気付いていた。この黄金の兜を手元に持つ以上、ガジスト一族は総力を上げてチロル達を狙って来る事を。


「エルド兄さんに相談しましょう」


 三人は王都に戻り、エルドに面会を求めた。だが、エルドは不在だった。エルドはオルギスの命を受け、ある者を迎えに出てるという事だった。


 チロルは落胆したが、それは杞憂に終わった。丁度エルドが帰還し、笑顔でチロル達に手を振った。


「チロル!びっくりする人達を連れてきたよ。チロル達の探し人だ」


 チロル達の前に現れたのは、黒い鎧をまとった短髪の大男と、黒髪の少年。そして、獣のマントを身に着けた白髪の少女だった。









 



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